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「助けて……帝督……」
「六花!?」

ザクッ。
何かが突き刺さったような大きな音が俺に響く。
妖精女王が作り出した翼が、俺の体を貫いていた。
痛みはないはずなのに、なぜだか身動きが取れない。
首元にあてがった両腕まで、まったく動けなかった。

「未元物質の中に私の翼を突き刺す。あとは私の羽を中心にして、あんたを覆うように凍結させちまえば、あんたの動きを止めることなんて簡単よ。
ってかなに、あんたこんなやっすい手に引っかかるなんて、傑作ねえ!」

妖精女王は高らかに笑う。
一瞬、六花が戻ったのかと思い動揺した。
その隙をつかれてしまった。

「あんたあたしの弱点、弱点っていうけどさ。わたしがあんたの弱点しらないとでも思ったの?あんたの弱点はこの子でしょう?私がこの外見で存在してる時点で、アンタは負けてるってことよ」

妖精女王は右腕にピンセットに模した氷柱を作り、そしてそっと首元にあてがった。

「殺すぞ。六花を」

首元にあてがった氷柱からは、うっすらと赤い液体が流れ出ていた。

「なに、話は簡単。私が迅速に、この子を助ける術を実行しようとしてるの。この辛い苦悩からこの子を救い出すなら、この子が死んじゃえばいいの。そしたらこの子を暗闇から出してあげることができる!」

俺は思わず息をのんだ。
静かに、妖精女王の声が耳に響く。

「私が殺すか、あなたが殺すか。それだけの話よ。さあ、選んで?……選んでよ!」

妖精女王の声が、地下道に大きく響いた。
早く決断しなければ、六花は殺される。

俺が殺すか。
こいつが殺すか。

そんなの、答えは決まっている。



「どちらの選択肢も、選べない場合は?と聞き返してよろしかったでしょうか?」

聞き覚えのある変な敬語を話す少女の声が聞こえた。
そして真上から降り注ぐ、氷柱。
その拍子に妖精女王の右腕に氷柱が突き刺さり、首元の凶器は一瞬にして外された。

「処女作品(ファーストサンプル)!!!」
「お久しぶりです。第二位。そして、お姉様」

さっきの処女作品の攻撃で体の拘束がほどかれた俺は、妖精女王との間合いを作った。
そんな俺をみて、処女作品は鼻で笑った。

「なんだか滑稽ですねえ。純白な第二位とはなんとも気持ち悪いものです、と冗談をほのめかしてみましょう」
「相変わらずなんだか苛つくな」
「まあ、優しい垣根帝督とは思えない暴言が飛び出ました。むむむ、おかしいのでしょうか」

俺たちのこのやり取りが気に食わないのか、妖精女王は舌打ちをした。

「まさか、あんたに邪魔されるとはねえ」
「灯台下暗し、とはこのことでは?お姉様にかなうとは思っていませんが、意表をつくぐらいなら私にも可能でいらっしゃいます」
「ふん。再生能力ぐらいしか能がないあんたに威張られてもねえ」

処女作品は俺にそっと近づくと、ぽそぽそっと早口で話し始めた。

「今のお姉様に勝つには、本当のお姉様を呼び戻すしかありません。それにはやはり、あなたの協力が必要不可欠だと思うのです。さあ、やっちゃってください」
「正直言う。俺はあいつに攻撃できない。六花を傷つけるなんて、絶対にしたくねえ。だから今どう手を打てばいいかわからない……」
「それは、呆れろという意味でよろしかったでしょうか」

処女作品はさげすんだような瞳で俺を見る。

「は!?なんでそこで引いてんの!?」
「ふっ。これだからチンピラは嫌なんです……と本音をもらしていただきます」
「おいコラてめえ」

処女作品は俺の頬を包み込むようにはたいた。
ピチ、と。
弱弱しい音が響く。

「攻撃するしか能がないんですか。今のお姉様は負の感情の塊。ならそれに対抗するなら?答えは一つじゃないのですか」

その言葉に、先ほどの打ち止め達を思い出した。

「あなたは壊すのが能じゃない。作り出す、そっちのほうが得意でしょう」

処女作品は自信満々という態度で言い放った。