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「おいおい、作戦タイムは終わったかー?もうすぐでそいつらが凍死しても知らねえぞ」

時間はない。
このまま悠長に戦えば、一方通行も麦野も手遅れになる。
俺は深呼吸をすると、妖精女王に向き直った。

「六花。俺たちはずっと、暗闇に追われてた。お前を幸せになんてできてなかったかもしれない。でも、これからでもそれは遅くないはずだ」
「あ?気が狂ったか?」

妖精女王は馬鹿にしたように鼻で笑った。

「第一、この子にあんたの問いかけが届いてるかなんてわかんないじゃん。そんなこと言ったって、無駄だって……」
「いいえ、無駄じゃないでしょう。あなたはお姉様が否定し続けた人格。いわば、もう一つの人格といっても、所詮はお姉様に変わりはありません。ならば聞こえているはず。六花はただ一人しかいないのですから」
「きれいごとを言ってるな」
「まあ、その二入いるなんて感覚は味わったことがないので断言できかねますが」

俺は大きく息を吸い込むと、未元物質で丁寧に作り上げる。
1つ1つの思い出をかみしめながら。
俺と六花の、楽しかった、幸せだった日々を思い返しながら。

「……これは!!」



そこには、小学生のころの六花と俺の姿があった。

『帝くん、みてみて。六花これ作ったの!』
『うわ、めっちゃ綺麗な雪の花じゃん!すげえな、六花!』
『えへへ、帝くんに褒めてもらえるとうれしいなあ』

「……やめろ」

隣には、中学生のころの俺たちがいた。

『帝督!ついにLv4になったよー!』
『やっとかよ』
『うん!早く帝督に追いつけるように頑張るね』
『おーおー。気長に待ってるわ』
『ふふ、今に見ててよね』

「やめろ!」

そして、隣にはスノードームを持って見つめあう、俺たちがいた。

『好きだ、六花』
『帝…督……』

「やめろおおお!!!!」
「やめねえよ」

俺はそっと、妖精女王の頬に触れる。

「俺たちには、たくさん辛いことがあった。でもそれだけじゃねえはずだ。その中にも、小さな幸せはたくさんあったんだ。それはきっと、これからもそう。俺たちは、一緒に強くなって、一緒に支えあっていけば絶対に大丈夫なはずだ。なあ、六花」
「やめろ!!!」
「好きだ。大好きだ。六花」

そっと、優しく口づけを交わした。
初めて2人で交わした、あの日のようなキス。

「やりましたね、第二位」

六花の髪色は茶色に戻り、また氷の刺々しい翼は静かに消えて行く。
一面の白銀の世界もみるみる色を取り戻し、一方通行と麦野を取り巻く氷も綺麗に消えていった。


「……帝督」

俺がそっと唇を離すと、六花が優しく微笑んで言った。

「おかえり」
「ただいま、六花」

俺たちはそっと抱き合った。
そんな俺たちを見つめる未元物質で作られた俺たちの影法師達は、そっと静かに笑顔で消えて行った。