「はあ。疲れたな、今日も」
暗部の仕事を終え、へとへとになりながら夜遅くに帰宅した。
部屋に入ればベッドでただ1人、六花が規則正しく寝息をたてて眠っている。
昔から変わらない、あどけない寝顔に思わず顔が綻んだ。
口元にかかっている髪をどけてやろうと手を伸ばした、その時だった。
"うわああ!やめて、やめてくれえええ!"
一瞬にして今日の暗部の仕事での出来事がフラッシュバックする。
そうだった。
今と同じように、涙を流しながら懇願する相手に手を伸ばして。
そして無情にも軽々と手をかけた。
「汚ねえ手だな」
自分の右手を眺め、強く握る。
今までたくさんのやつらを傷つけてきた。
人を殺めることなど、昔の俺からしたら考えられなかったのに。
いつからこんな風になっちまった?
いつからこんなことしなくちゃけなくなっちまったんだ?
「……何考えてるんだ、俺」
らしくないことを考えるほど、疲れているらしい。
深いため息をつきながら着替えようとクローゼットを開けた。
「……帝督?」
物音に目を覚ましたのか、目を少しだけこすりながら六花は体を起こす。
「遅かったね」
「ああ、まあな」
なんとなく六花の顔が見れなくて、背を向けたまま会話をする。
そんな俺に何か思ったのか、六花が再びベッドにもぐる音が聞こえた。
「帝督、早く寝ないとお化けが出ちゃうよ?」
「何言ってんだよ」
「ふふ。たまには非科学的なことを言ってみたかっただけ」
部屋着に着替え、ベッドに体をもぐりこませる。
六花が眠っていたためか、ベッドの中はほんのりと暖かかった。
「ねえ、帝督」
「ん?」
「お疲れ様」
「……ああ」
六花は何も聞かない。
いや、きっと聞けないという表現の方が正しいだろう。
どちらにせよ、六花は特に探りを入れるわけでもなく、どんな時でも俺を暖かく迎えてくれる。
その優しさが、いつも痛いほど身に染みるのだ。
「なあ六花」
「ん?」
「いい夢見ろよ」
「ふ、何よその言い方」
穏やかな笑みを浮かべる六花をみて、ああ、今日も生きて帰ってこれたんだと実感した。
どんなに暗いところにまで堕ちても。
どんなにこの手を赤く染めようとも。
六花の笑顔があれば、俺はここに戻ってこれるんだと思う。
「おやすみ」
六花は一言つぶやいて、ゆっくりと目を閉じる。
何の変哲もない、当たり前の言葉は俺を穏やかな気持ちにさせる。
「おやすみ」
彼女のぬくもりを感じながら。
同じようにそっと目を閉じた。
image song:おやすみ/tricot