「リア、久しぶりだというのにつれないじゃないか」
「あ?お前、リアの知り合いか?」
「まあな。命の恩人、と言ったところだ」
「命の恩人だあ?」
いなくなった1か月間、私はどこで何をしていたかは詳しく話していなかった。
いや、話せなかった。
ヴィダや仲間たちが必死で戦っていた中で、ぬくぬくと過ごしていたなど、口が裂けても言えなかった。
あの1か月間は、私の中でなかったことにしておきたかったんだ。
「まあいい。妹が世話になったみてえならお礼しねえと……なッ!!」
ヴィダの鎌がカバネを切り裂く。
いつしか見た真っ赤な血が宙を舞い、ヴィダに降りかかった。
しかしカバネの体はあたかも何もなかったかのように傷が塞がっていく。
「おい死に損ないのバケモノ!てめぇはなんなんだ!!気色悪ぃ!!」
「やはり兄弟だな。罵り方が妹そっくりだ」
ヴィダとカバネの戦いを、ただ茫然と見つめる事しか出来なかった。
ごめんなさい、ヴィダ。
地下に降りてから私、変になっちゃったの。
あなたが知っている私じゃないかもしれない。
ヴィダもきっと、薄々気づいてたんでしょう?
だから何も言わないし、聞かないんでしょう?
ヴィダが正義だった。
私の世界の指針はあなただった。
圧倒的な強さを持つあなたが輝かしくて、誇らしくて、あなたみたいになりたかった。
あなたに受け入れられる私は強いんだと思えた。
『女』として生まれてしまった私に襲う理不尽な暴力や待遇。
体の痛みも、心の痛みも、ヴィダといると安らいだ。
ヴィダといればそんなものは忘れられた。
だから生きようと思えた。あなたの隣でずっと生きていこうと。
何もかも1人で抱え込んでしまうあなたへ、以前あなたがそうしてくれたように、今度は私が手を差し伸べてあげられたらってーー……。
けれどカバネという男に出会ってしまった。
1000年以上という長い月日を過ごして、致命傷を受けても死ねない、ただ痛みだけが残るような体になった男と。
カバネはそれでも生き続けていた。いや、生きるしか無かった。
不愛想で、無気力で、何もかも投げ出しているような男だった。その目は必死で生きようとしている私を見下しているように思えて、不快で仕方がなかった。
敵意も、不快も露わにしているというのに、カバネは私から逃げる事はなかった。
それどころか大半の時間を共に過ごした。
私は気づいてしまった。
恐怖で攻撃する事しか出来ない、ちっぽけな私を受け入れてくれたのだと。
私が何かを抱え込んでいることに気づきながらも、決して無理に踏み込みはせず、カバネなりのやり方寄り添おうとしてくれた。
バカな男。
あなただってよっぽど辛いはずなのに。どうして、こんな私なんかにーー……。
「あなたに出会わなければよかった」
「……そんなこと、言うなよ」
ヴィダに切り刻まれた体が少しずつ戻っていく。
痛みに顔を歪ませながら、カバネは私の頬にゆっくりと手を伸ばす。
「俺はよかったよ。お前が来てくれて、まるで昔に戻ったみたいに楽しかった」
「全然そういう風に見えなかった」
「口下手なんだ。仕方ないだろ」
零れ落ちる涙を丁寧に指で救い上げながら、私の頬を優しくなでた。
その顔つきはとても穏やかで、優しい目をしていた。
「私、ヴィダが好き」
「仲がいいな」
「でも、カバネの事も……好き」
「ハハハ。嬉しいよ。女の子にそう言ってもらえるなんて」
「おじさんくさ……」
「そりゃあ1000年も生きてるからな」
カバネでも冗談を言うんだ、と思ったらなんだかおかしくて思わず笑みがこぼれた。
「攻撃的なところ、兄貴とそっくりだな。まあ、あいつはこんなに泣き虫ではない、か……」
「ううん。違う。強がってるだけ。ヴィダは、本当は泣き出したくて、逃げ出したくて仕方ないの」
「なんだ。わかってるじゃないか」
カバネは私の頭を撫でる。
その優しい手つきはヴィダとは違うけど、とても心地の良いものだった。
「リア、お前は純粋で優しい子だ。自分を信じていけばいい」
「自分を……」
「ああ。お前の思った通りに進めばいい。絶対に、間違いなんてないさ」
まるで自分に言い聞かせるような言葉だった。
それでも私の背中を押してくれようとしている、という事は十分に伝わってきた。
「ありがとう。私、行くね」
意を決して、踵を返す。
向かうはヴィダが突き進んだ道。
そして、私が信じるのは――……
絶対的な強さ 立ち向かう強さ
Aoao