私の世界はきっと、あの日終わるはずだった。
それでもあなたが生かしてくれた。
私を助けて、私を認め続けたから。
だから私、信じるよ。
あなたの隣が、私の世界なんだって――……。
柄を、強く握り直した。
鼻に掠める血の匂いに、涙が溢れそうになった。
よく知っている、でも嗅ぎたくなかった鉄の匂い。
この香りが私の決意をさらに固くする。
「どけ!!邪魔だ!!!!」
群がっているユニティーオーダーを後ろから切り付ける。
舞う血しぶきを拭い、体制を低くして人の間をかき分けて進む。
その先に、見慣れた赤と黒のジャケットが飛び込んできた。
「リア……か……」
それは信じられない光景だった。
力なく横たわるヴィダの姿――……私はいてもたってもいられなかった。
「いや、いかないで、ヴィダ……死なないで……」
「ハッ……泣いてんな、よ……聞けよ……もう、声、聞こえねんだ……今更、遅えっつーのによ…………」
「ヴィダ……やだよ……私、ヴィダがいなくなったらどうやって……」
「もう、大丈夫だろ……あのバケモンに託すのは気に食わねえ、が……」
ヴィダが私の頬に触れる。
穏やかな目つきで、こちらを見据えて。
「リア……俺も、お前を…………」
ヴィダの瞼が降りる。
私の腕の中で、安らかな眠りについた。
最後まで言葉は紡がれなかったけど、言いたいことは十分に伝わってきた。
だって私達、兄弟だもの。
ずっと側で過ごしてきたんだもの。
さようなら。
私を初めて認めて、受け入れてくれた、私の愛した人。
いや、違うわね。
だって、ヴィダはいつも自分じゃなくて周りのことばかり考えてしまう、不器用な人だから。
「きっとこれから先も、私の隣にいてくれるわよね?
ヴィダ、愛しているわ」
腕の中のヴィダにそっと口づけを落とす。
『俺も愛している』
『これからもずっと一緒だ』
そう、ヴィダの声が聞こえた気がした。
「リアさん、あんまり無理しないでください!」
「やだよ。私だってこれぐらい出来るって。そんなに非力に見える?」
「いやいや。非力じゃない事はわかってますって……けど、あなたは今……」
「リア、あまりコノエを困らせてくれるなよ」
あれから2年の月日が経った。
私は地下に移り棲み、カバネ、クオン、コノエの3人と一緒に暮らしている。
「それに今は1人の体じゃないんだ。あんまり無理はするなとあれほど言ってるだろう」
「だって〜。あんまり動かないと気持ち悪いって、ベビーが……」
「言うわけないだろ」
「言ってるよ!ほら、今もしきりにお腹を蹴ってくる!!」
コノエは私たちのやり取りを見て、「相変わらずお熱いッスね〜」と茶化して去っていった。
カバネは膨らんだお腹に手を添えて、私の言った"蹴っている"、というのが本当かを確かめようとしている。
「……蹴ってないぞ」
「やめたみたい。カバネが触った瞬間に」
ショックを受けたカバネの顔が可愛らしくて、思わず笑った。
カバネは私の頭を優しく撫でて、距離を埋めるように引き寄せた。
「そろそろ始まる時間だな」
「うん。最初は複雑だったけど、最近は楽しみになってきたかも。なんか元気になるんだよね」
「ああ。そうだな」
放送が始まる。
かつては恨み憎んだ天子――……アルムが送る、面白おかしい放送が。
ヴィダ。
私は元気に過ごしているわ。
幸せだし。今でもあなたを愛してる。
そんなこと言わなくてもわかるよね。
だってヴィダは私の隣にいてくれているんでしょう?
『……ああ』
放送とは違う、聞きなれた声が耳を打つ。
今となってはこれが呪いなのか、本当に彼の声なのかはわからないけれど。
あなたが今もずっと側にいて、見守ってくれている。
そう思ってもいいよね?
「ずっと、あなたを愛しているわ。ヴィダ」
私の囁きに、隣にいたカバネが複雑そうな表情を浮かべる。
それがまた非常に愛おしく思え、私は顔を綻ばせるのだった。
Aoao