これは無毒の恋




「ヴィダ、待って。たぶんそっちじゃないよ」

手持ちの鎌をヴィダの鎌にからめる。
鈍い金属音が響き、ヴィダが足を止め、こちらを向いた。

「衝突ポイント、もうちょっと手前だと思う。第2地区の方」

ヴィダは私をじっと見て、踵を返す。
通りざまに私の頭を軽く撫で、再び先導するように前を歩き始めた。

「お前が言うならそうか」

頭を撫でてくれた事が嬉しくて舞い上がった。
いけない。これから天子を奪いに行くというのに、こんなに緩んだ顔をしていたら怒られてしまう。
きっとここにオルカがいたら「もっと緊張感持てよ」とまた嫌味を言われているに違いない。



私は鼻が利くほうだ。
狙ってるやつらがどこにいるかとか、相手がどのぐらいの力を持っていそうとか、戦う上での”勘”が鋭い。
これも呪いによる影響らしく、黒縄夜行ではスパイ染みた役割を担う事が多かった。
その”勘”が、第2地区でリベリオンとユニティーオーダーが衝突すると騒いでいる。

「リベリオンとユニティーオーダー、どっちも相手にすることはなさそうだよ。どっちが相手かまではわかんないけど。あいつらのことよく知らないし」
「ハッ。まあ誰が相手でも構わねえけどよ」
「うん!ヴィダは無敵だもんね!」

今日もヴィダの強さを前にして、弱い奴らがひれ伏せていくと思うとゾクゾクする。
弱い奴らは生きられないんだって、ヴィダが証明してくれるんだ。
とっても強いヴィダが大好き。戦うところを見るのが大好き。
だから私も強くなった。
あなたのその姿を、ずっと近くで見ていたかったから。
これからも、もっと、もっと強くなる。
あなたの姿を、ずっと見続けていられるように!



しばらく歩くと第二地区が見えてきた。
辺りには濃く血の匂いが漂っており、近づくにつれたくさんの死体が転がっている光景が広がっていった。
何かあったことは火を見るより明らかだったが、どうでもよかった。

ほら。きたきた。
ゾクゾクが、止まらない。

「ヴィダ、ビンゴだよ!」
「お前、なんで笑ってんだよ」
「だって、楽しみで仕方ないんだもん。また強いヴィダが見られるんだって!」
「お前な……」
「ねえ!景気づけにやっちゃって!ほら、あいつとかどう?今から死ぬなんて思ってなさそうなあの背中!」
「そうはしゃぐな……よッ!」

空気を切る鈍い音がする。
ヴィダの鎌がユニティーオーダーを1人、また1人と切り付けていく。
痛快な、美しい動きに思わずうっとりした。
武者震いのような、激しい震えを堪えきれなくなって、思わずその場から駆け出した。

「ね!私の言った通りだったでしょ?すごいでしょ!ヴィダ!」
「わかったわかった。落ち着け、リア」

リベリオンの1人と目があった。
「ヤバいやつが来た」とでも言うように顔を引き攣らせている。
よく見ればリベリオンは全員地面に突っ伏していて、ユニティーオーダーに拘束されているようだった。

「捕まってる!可哀想〜。でも自分が弱いのが悪いんだもんね。恨むなら自分の弱さを恨まないとね?」
「なんだ貴様……!」

ユニティーオーダーは訝しげにヴィダと私と睨んでいた。
一通り辺りを見回して、思わず肩を落とす。

「残念。強い奴はいないみたい。まあ、当然なんだけど」
「さっきから黙って聞いていればこの女……」

女呼ばわりしたユニティーオーダーは、私だけでは飽き足らず、ヴィダも含めたこちらをバカ呼ばわりした。
奴が言うには、この状況出てきた事がバカ、なんだとか。

「ねえ、ヴィダ!マジあいつ失礼じゃない?どうせヴィダに勝てないクソ雑魚のくせに……」
「おい」

カラン、カラン、と。
私の鎌が地面に落ちた音がした。
先ほどのユニティーオーダーが後ろに回り、こちらの、両腕を拘束している。

「簡単に後ろを取られているくせに何を抜け抜けと……」

虫唾が走った。

「……んな、」
「は?」
「弱いくせに触んな。伝染るだろうが」

拘束をすり抜け、顔面を蹴り上げた。
拾い上げたを鎌を振り切る。
首を狙ったが、意外と体幹がしなやかで避けられてしまった。
ユニティーオーダーはこちらから間合いを取った。

「ねえ、弱いくせになんで生きてるの?お空に棲んでる人たちは弱くても生きれるんだ?幸せだねえ〜?」
「この女、意外と……」
「そうやって『女』を見下すの、よくないよ?だから死んじゃうんだよ?」
「なっ……」

途端、再び身体中を駆け巡る震え。
思わず声が漏れそうだった。
ああ、始まるのね。
そう思うと1秒でさえも待ち遠しくて、体の疼きが止まらなくなった。



ヴィダが動いた。
一瞬で奴の後ろを取って、圧倒的な力の差を見せつける。
手も足も出せず、悲鳴だけあげて次々に倒れていくユニティーオーダーたち。



ね?ヴィダって素敵でしょ?
かっこいいでしょ?
目が離せなくなるでしょ?
ヴィダって最強なの。
ヴィダは正義なの!!
お前達とは違う存在なの!!!!










ヴィダはあっという間にこの場を制圧し、天子の略奪に成功した。
気絶する前、天子がヴィダに交渉を持ち掛けた事が物凄く気に食わなかったが、こいつがいないと大金が入らないのでどうにか堪えた。
こいつを殺せないのが本当に残念に思った。

「ヴィダ、お疲れ様。それ持つよ。私、今回何もしてないから力有り余ってるし!」
「変に気、回してんじゃねえよ。こんぐらいどうってことねえ」

ヴィダがこちらを見た。
近寄れ、と言っているように思えたので、2、3歩ほど距離を埋めるように歩み寄る。

「ありがとな」

先ほどよりも強く、優しく私の頭を撫でる。
ヴィダが私に触れてくれた。それがとっても嬉しくて、綻んだ顔を隠す事が出来なかった。

「ヴィダ、大―好き!!」

本当は抱き着きたかったけど、天子を担いでいたので出来ないことが悔やまれる。
なんて邪魔ものなんだと益々存在が疎ましく思え、呑気に眠る寝顔にこっそりと中指を立てておくのだった。


Aoao