「ミス・シーナ」
朝ごはんを食べ終え、そろそろ立ち上がろうとしたとき、少し低くて落ち着いた女性の声に名前を呼ばれた。
「あ、マクゴナガル先生おはようございます」
「おはようございます」
口々に仕掛人達が挨拶している。彼女がマクゴナガル先生か。個人的に大好きなひとなのでうれしい。
「こんにちは。私はミネルバ・マクゴナガル、グリフィンドールの寮監です」
「あ、はじめまして!アオイ・シーナです、よろしくお願いします!」
手を差し出されたので、立ち上がって握手に応じると、背の高いマクゴナガル先生は優しく微笑みかけてくださった。素敵な年の重ね方をした、厳格だが美しいひとだ。
「ダンブルドアがお呼びです。朝食はもう食べ終えましたか」
「はい」
「では私について来なさい。校長室に向かいます」
「わかりました。
じゃあまたね、みんな」
軽くみんなに手を振り別れる。長身で姿勢もいいマクゴナガル先生はなんだかとってもかっこよく、自分まで背筋が伸びた。
「これが地図、これが買うものリスト、これがお小遣いじゃ。
服なども欲しいじゃろうし、好きに買っておいで」
「へ」
部屋に入った途端、挨拶もそこそこにダンブルドアはわたしにいろんなものをぽんぽん渡した。
…えっと、お買いものに、行け、と…
「ひ、ひとりでですか!?」
「うむ。あいにくどの教授もお忙しくてのう。まあおぬしなら行けるじゃろう」
「わたしめちゃくちゃ方向音痴ですけど…!!!」
慌てふためいていると、迷うくらいがちょうどいいだなんてどこかの火神くんを思い出す台詞をいただいた。
ええ、え、えー・・・・・
「これがフルーパウダーじゃ。帰りの分はこっち。一応多目に入れてあるからの。そこの暖炉から行っておいで。
この粉を足元に落とし、間違えないようしっかり“ダイアゴン横町”と発音するんじゃよ」
「はい…」
不安だ。不安すぎる。嫌な予感しかしない。
しかしダンブルドアは有無を言わさぬ表情で微笑んでいて、なんというかまあわたしは拒否することをあきらめた。
「…行ってきます」
「いってらっしゃい」
「しっかり身の安全に気を付けるのですよ」
「はい。えっと…
…だいにゃぶはっ!ごにょこちょ」
そしてわたしは映画で見た通りしっかり粉を地面に叩きつけ、映画で見た通りしっかりむせた。
うんまあやっぱりそうなると思ったよ。そうなるしかないじゃん。だってめっちゃフラグだったじゃん。
変わっていく風景の中、ちらりと見えたマクゴナガル先生はすごく心配そうなお顔をしてくださっていた(優しい)…。
ああ、どうせ。
ノクターンあたりにいっちゃうんだろうなあ・・・
「これでよかったのか私には判断しかねます、アルバス。
例のあの人がこんなにも勢力を伸ばしているときに…しかも初めてのフルーパウダー、あれではどこに飛ばされるかわかったものではありません!
どうしてあの子をひとりで行かせるのですか。私が付き添うことは可能であるとしっかりお伝えしたはずです」
アオイが暖炉からすっかり消えたのを見届けたあと、ミネルバ・マクゴナガルは悠々と自分の机についているダンブルドアに向かって少し棘のある口調で申し出た。
そんなミネルバに少し目を見開くも、ダンブルドアは変わらず落ち着いた様子を見せている。
「ほう。ミネルバ、あなたがそこまで感情的になるとは珍しいのう」
「はぐらかさないでください!…あの子の弱い部分は私が一番知っています。アオイが今まで接してきた誰より、そしてこれから接するどの人物よりもです」
「うむ。そうじゃろうな」
アルバス・ダンブルドアは深く息を吐き、組んだ長い指に額を埋めた。
「しかしおそらくもう遅いのじゃ。あやつが何も残さずホグワーツを後にするとは思えん」
「…どういうことですか?
アオイはもう、すでに何か」
「これはのう、ミネルバ」
目を閉じていたダンブルドアは今度はしっかり顔を上げ、凛とした声で言い放った。
「賭けではない、約束なのじゃ。アオイとわしとの、な」
「約束…?」
「うむ。それを果たすためには勝負をせねばならぬ。
わし以上に、彼女がの」
そしてまたダンブルドアは長い息を吐き、戸棚のほうへと目線を反らした。
納得はいかないもののこれ以上ダンブルドアが何も話す気がないと悟ったミネルバは、一礼して校長室を去った。
音を立てて閉まる扉。
それを見詰めるダンブルドアの目には、薄い涙が光っていた。
「これでよかったのかどうかは、きっとあの子にしか知り得んのじゃよ」
(いまだ渦中の彼女は知らず)