「っ…けふ、げ、ん!!!」
げほっと咳こもうとしたら後ろから突然伸びてきた大きな手に口を覆われた。
「静かに。たぶんノクターン横町にあるどこかの店の中だ…ったくフルーパウダーもまともにできないのかい」
「んー…」
やっぱりノクターン横町に来ちゃった……お約束すぎる展開に心の中でため息を吐く。
まあリドルさんいてくれるから心強いよね。
「人の気配は…しないな。
静かに今すぐこの店から出るぞ」
「はい…」
「う、わあ…」
まだお昼前だというのにこの通りは異常に暗かった。
そこらここらに浮浪者っぽい方がいるし、薄汚い格好をした老人もいる。
ここ、やばい。わたし、場違い。
なるべく顔をマフラーに埋めて帽子を深くかぶり(防寒用のニット帽だけど…)うつ向いて早足で歩く。
子供だと思われたら厄介だ。顔を見られたくもない。そそくさと私は足を動かした。
『・・・早く出るよ。嫌な予感がする』
「いやなよかん…!
そうですね早くでます次はどっちに曲がるんですか」
『右』
声だけで道を案内してくれるリドルに従う。彼の声にどこか緊張感があって余計に不安になった。急いでここから出なくっちゃ!
さっさとダイアゴン横町行って買い物を済ませて、帰って仕掛人と遊ぼう。杖買ったら簡単な魔法から教えてくれるって言ってたし・・・!
意気込んでさらに足を速める。ロンドンはやっぱり寒いし、トリップ前はわりとすごしやすい気温だったから温度差がつらい。
ぶるぶるっと身震いをした。あ、くしゃみ、で、でる、
「ひ、くちゅっ」
『!ばか』
どんっ!!!!!
うつむき目をつぶってくしゃみをしたとたん、誰かにぶつかった。
うわあ。めっちゃ。いやなよかん。
「ヒッ」
頬が痩けて目がどこか落ち窪んでいる、歯が真っ黒な老婆がそこにいた。
ものすごい力で腕を掴まれるえええいたいえええいたいよ!?
「あっ…ご、ごめんな」
「なにを……するんだい………」
「えっ、」
「うわああああああ!!!!!!!殺される!!!!!!!!!この娘に殺される!!!!!!!!!!!!!!」
「な、」
「たすけて!!!たすけて!!!殺されるううぅうう!!!!!」
突然老婆はああああああああ!と叫びだした。
え、なに。なにこのひとなんで叫んでんのついていけない。ぽかん。
意味がわからなさすぎて呆気に取られていたら、少し焦ったようなリドルの声がする。
『バカか逃げろ!
…しかたない』
チリン。コートの袖の奥に隠れているバングルが鳴ったような気がした。
冷たさにぞくっとする。
え、なに、リドルまさか、魔法、魔法を…
「その女性から離れろ穢らわしい。ここにすらいられなくなりたいのか」
使うんじゃ、と危惧する前に、知らない男性の声が響き渡った。
バングルは一度だけ震え、おさまる。
「今すぐ立ち去れば見逃してやらないこともない。…消えろ」
冷徹で残酷で軽蔑の滲んだ声。振り向くとそこにはプラチナブロンドでオールバックの綺麗な髪をした、長身細身のイケメンがいた。
え、だれ。イケメンだけど。たすけてくれた??
でもなんかなんとなくちょっとこわいこのひと。イケメンだけど。
その男性はわたしを見てにこりと微笑み(まあイケメン)、その後また老婆を睨み付けた。
老婆がすごすごと消えていく…
「このあたりはああいった輩が本当に多い、あなたのような女性がひとりで来ていい場所ではありません。どうしてこんなところに」
「ふ、フルーパウダーで、どじを……あの、ありがとうございました」
「いえ、無事でよかった。
このあいだ友人が呪いの籠った品をプレゼントされましてね、それを代わりに調べるために気が進まない中足を運んだんですが…来て本当によかった。目的地はダイアゴン横町ですか?」
「あっ、はい」
「案内しましょう。私も次の行き先は同じです」
そう言って彼はまた微笑んだ。イケメン。やっぱりなんかこわいけど。
…さっきのシーン見たからかな?
「すみません、いろいろ。本当にありがとうございます…」
「いえいえ。困っている方がいたら助けるのは当然ですよ。それもこんな美しい方ならなおさら」
「なっ、」
「なんて少々キザすぎましたかな。ところでミス、お名前は?」
男はどこまでも優雅な素振りでわたしをエスコートし、穏やかな物腰で会話を進め、浮浪者を牽制しながら明るいほうへとつれていってくれた。
あ、やっぱりいいひと…なのかな!うん。
助けてくれたし、うん、いいひとだー!!!
「アオイ・シーナと申します。よろしくお願いします」
「アオイ。素敵な名前ですね。
私のことはルーシャスとお呼びください」
「ルーシャスさん」
はい、とルーシャスさんは微笑む。あああ本当にイケメン。
イケメン。イケメンだ。だからなんか首筋に誰かに爪を立てられてるような気がするのもバングルがかたかた鳴ってるのも無視するとしよう。
これなんかたぶんリドルがルーシャスさん気にくわないだけっぽいし。
あ、拗ねてるのかそうか。はははリドルこいつもしかしてわたしのこと好きなんじゃ・・・あ、だめだなんか爪立てる本数が増えたから冗談でもこういうこと思うのやめよう。すみませんでした。