頭を使うの苦手です


隣に来いと言われたので、隣には、来てみたけれど。


「(どこ見たらいいんだろう)」


悠々と腰かけるヴォルデモートさんのとなりで、わたしはただただ視線をさ迷わせるしかなかった。






「…怖いか?」
「何がですか」
「俺様がだ」


沈黙の後ヴォルデモートさんが口を開いた。
え、うん。そりゃ、うん。

でもそう答えるのが得策かはわからない。なんかわたしここ来てからものすごい頭使ってるんじゃ。


ヴォルデモートさんを見上げると、あかいろと目が合う。きれい。
でもなんか得意気だ。というかなんか値踏みされている気がする。


・・・腹立つ。



「こわい、ですけど」
「ほう」
「わたしはあなたについてそこまで知らないので、なんとも言えません。あと、リドルはどこですか」


闇の帝王相手にこんな反抗的な態度は自殺行為であるとわかっている。
でも、だって、18年間生きててこんな目で見られたのははじめてだ。


命の危険はまだ想像もできない。いまのわたしには、自尊心のほうがリアルである。


それに、…リドルが。



「…あやつが心配か?」
「はい」
「まだ昨日今日に会ったところだろう」
「はい」
「何故だ」


何故って。

ヴォルデモートさんは目を細めるけど、わたしは瞬きを2、3するしかない。


心配とか普通だと思うんだけど…帝王はこの気持ちがわかるんだろうか。



「知り合い、だから」
「たったのそれだけで?」
「はい。わたしは、どんなひとでも、…誰かがいなくなると、心配・・・します」


でも、この感情を。
このひとはわかるのだろうか。


家族がいなくなる寂しさや、友達がいなくなる寂しさ。

学校の先生がいなくなる寂しさ、近所のおじさんがいなくなる寂しさ、八百屋のおばちゃんがいなくなる寂しさ、久しく会ってなかった親戚がいなくなる寂しさ、まったく違うところで知らない誰かが死ぬのをニュースで知ったときの寂しさ。

そんな気持ちをわかるのだろうか。
家族や友達は、…いないのかも、しれないけど。



「(これじゃのれんに腕押しかも…)」
「お人好しというのは病気だな。理解できん」
「(やっぱり)」
「…あやつは少し封じただけだ。俺様に捨てられた不要物だとしても、直に戻るだろう。

学生時代の俺様でもその程度には優秀だ」
「はあ…」


この人自身がそう言うのなら、ひとまずリドルは無事なんだろう。

よかったのかどうかはわかんないけど、とりあえず…よかったなあ。




「アオイ…お前は何がほしい」
「えっ?」
「お前の思考は突飛すぎて理解できん」



そう言ったヴォルデモートさんのほうが突然すぎてなにを考えているかわからない。

なんだか腹の探り合いみたいだ。ポーカーフェイスすぎて、何も読めないけど。



ほしいもの。


ほしいもの・・・?



「と、特に…」
「何かあるだろう。なんでもいい」
「えーいや…急に言われても…」
「何もなくはないだろう。金は?宝石は。
お前はそんなもの求めないとでも言うのか?永久の若さ、永遠の命」

そう言われてわたしは目をしばたたいた。


「…ヴォルデモートさんって、ずいぶん即物的なんですね」


勝手に出た言葉に自分で納得する。



そうか、このひとは。


目に見えるものしかわからないんだ。



「お金は、いります。なかったら生きられないし、贅沢できたら嬉しいです。宝石は…あんまり価値がわからないので難しいですけど…まあ、あったら嬉しいかもしれませんね。

若さとかも、そりゃなるべく若くいたいとは思うし長生きもしたいです。
でもかわいいおばあちゃんになりたいなとも思いますし、…いつかは、ふつうに、死にたいです」
「では」
「!」


首筋に、突然ヒヤッと冷たい感覚。

いままでになかった感覚だけれど、一瞬で意味を理解してわたしはヒュッと息をのんだ。



「ッ、」
「いま死ぬのと何が違う?

お前はまだ若い。年老いて醜くなるよりはずっといいだろう。ならばいま死んではどうだ?
できるだけ長生きしたい?いまがお前の限界だとは思わないのか。

お前は何も持っていない。永遠でないものなど、いつかは失うのだ。お前は何も確かなものを持っていない。俺様の気まぐれひとつですべてを失う。

それを理解できているのか?理解する脳みそもないのか?
いつか失うものなら今捨ててしまえ」


ヴォルデモート卿は、一息でそう言い切った。

・・・このひと。


「(極端だ…!!!)」




冷たかったはずの杖は熱を持ち、わたしの鼓動に応えるように存在を主張する。

発言に困り唇を噛むと彼は愉悦を感じたように口角を上げた。
殺されるのだろうか。いまここで。



「死にたくは、…ないです。」
「怖いか?」
「…はい。」
「では命乞いでもしてみたらどうだ?」



ヴォルデモートさんはどこまでもわたしを馬鹿にした目で見てくる。

先ほどの鬼気迫る姿。
きっとわたしは何か、踏んではいけない地雷を踏んでしまったのだろう。

震えそうな指先をぎゅっと拳にしてごまかし、乾いた喉には唾をのんで、わたしは言葉を絞り出す。


「それは、・・・いやです。」
「…では殺してやろうか」
「それも嫌です。
・・・わたしを殺してあなたはなにを考えるんですか?
なにも考えないんですか?わたしは虫といっしょですか?

わたしにもそれなりにプライドはあるし、自分のことを嫌いになりたくないから縋りたくはありません。
自尊心をちゃんと持って、天寿をまっとうして子供と孫に囲まれて穏やかに眠るように死にたい。みんなに惜しまれながら死ぬ予定なのであなたには殺されたくないです。


・・・ん?あれ、じゃあやっぱり命乞いするしかない?です??」


でもそれはやっぱり嫌で、悶々としながらヴォルデモートさんに尋ねる。

彼はじっとわたしの目を見たあと、またひとつ息をついた。



「…お前は、やはりどうしようもないな」
「そう、ですか…?」


よく考えたらめちゃくちゃ頭悪いこと言ったかも。



ばくばくばくばく。

心臓がものすごい音で荒ぶる中、渇いた唇から言葉を生み出すとヴォルデモートさんは杖を下げた。



・・・え。


助かった…?



「生かしておいてやろう。とりあえず今は、な」
「ありがとうございます…?」
「…本当に死喰い人にはならんのか。それなりに優遇してやるぞ」
「わたしまだ魔法使えないんで。あと、悪いことは、したくないです…」
「どこまでもお前は身の程を知らんな」
「えええすみませんアホなんです…!」
「充分わかった」


ヴォルデモートさんはまたひとつ息を吐き指先で杖を弄びながら言った。



「…帰るか?」
「いいんですか?」
「ああ。とりあえずはな」



渡すものがあるから待っていろ、そう言ってヴォルデモートさんは立ち上がり扉へと向かった。


・・・なんかよくわかんないけど、命拾いした。

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