涙はぼたぼた肩に落ちて、わたしはよくわからないままハグリッドのもじゃもじゃの毛の中で酸素を探すはめになった(ちょっとやだ)。
よくわからないけどハグリッドは震えている。どうしてだろう、なんだかまるで感動の再会みたいだ…。
・・・感動の再会?
彼はわたしをアオイと呼んだ。
けっして人違いではない。
ダンブルドアに聞いていたからわたしを認識していたのだとしても、こんな涙交じりの抱擁なんておかしいだろう。
ハグリッドは、わたしに、会いたかった。泣くほど。
どうして?そんなの決まってる。
わたしとハグリッドは、きっと会っているんだ。
彼にとっての過去で。
わたしにとってのなんなのか、わからないけれど。
ああ、だけど、だから、きっと。
ヴォルデモートさんも、リドルも、わたしを、わたしと、
『オブリビエイト』
途端、耳元が熱くなった。
「ん」
「「「「「ん」」」」」
なんだろう、頭が少しふわっとする。
気のせいかな。
少しだけ滲む視界。ぱちぱちと二三まばたきをして、立ちくらみかなにかだろうかと考えた。
「あれ…?あ、えっと…アオイ。こちらがハグリッドだよ。
ハグリッド、彼女がアオイ。僕らの新しい友達だ」
「えっ?」
「ハグリッド。大きくてびっくりしたかい?森番をしているんだ。ほら、挨拶あいさつ!」
「あ…え?あ、えっとはじめまして…アオイです」
寝ぼけたようなジェームズを訝しく思いながら、とりあえず改めてハグリッドを見つめる。
・・・あれ?
「おう。はじめまして、俺ぁハグリッドだ、よろしくな」
ハグリッドも少し寝ぼけているようで、なんだか目がとろんとしていた。
あれ、れれれ。
なんだか、おかしいぞ???
「せっかく来てくれたのに悪いんだが、今日はちっとせんにゃならんことがある。明日はクリスマス休暇帰りのちびっこどもを迎えに行かにゃいけねえからその準備があってな。
また明日かあさってにでも遊びに来てくれや。そんときにはお菓子でも用意して待っとる」
「アオイはあしたから転入すんだから、慣れるまでそんな余裕ねえよ」
「あー、そいつはすまん。じゃあまた落ち着いたら来てくれ」
そう言い切られてしまってはあきらめるしかなく、渋々仕掛人とわたしは学校へと戻っていった。
後ろを振り向くともうハグリッドの家の扉は閉められている。
「ハグリッド、なんか今日変だったな」
「準備たいへんなのかもしれないね。疲れてるのかな」
みんなの話をなんとなく聞き流しながら雪の上を歩いた。
なんだかあたまがふわふわする。痛い。おかしい…おかしい。
「アオイ……アオイ?」
「えっ…あ、」
「だいじょうぶ?アオイも具合悪いの?」
ひとりうつむいて考えこんでいたらピーターが下から覗き込んできた。
わわ、心配かけちゃったな…!
「なんかちょっと寝不足かも。昨日遅くまで教科書読んでて…」
「学校前に焦るのもわかるけど、体がいちばんだよ。無理しないでね」
「ありがとピーター、リーマス。
たぶんちょっと寝たらマシになるから夕食まで部屋でお昼寝してくる」
「ほんとに大丈夫か?」
「だいじょーぶだよ!ハグリッドのところ連れてってくれてありがとね」
「どういたしまして。
いつもはもっと気のいいやつだから、また連れて行くよ」
「楽しみにしてる!」
じゃあ、またあとで。
わたしはみんなに手を振って、自室へ向かった。
やっぱりすごく頭が痛い。
『だいじょうぶかい?』
「うん。貧血かな」
『夕食の時間には起こしてあげるから寝なよ』
「そーする。ありがと」
部屋に入ってもリドルは出てこなかった。
声だけの彼と、お話する。
「リドル」
『なんだい』
「…出てこないの?」
『なんだか僕も今日は疲れてるんだ』
「ふうん…」
忘却術、使ったからでしょ。
そしてたぶん…服従の呪文も。
「おやすみ。」
『ああ、いい夢をね』
疲れたわたしは目を閉じた。
・・・リドルの魔法は効かなかった。
オブリビエイトを唱える声が、まだ耳に残っている。
どうやら彼は、わたしに。
どうしても気づいてほしくないことがあるようだ。
「(ねむい・・・)」
わたしが目を閉じた向こう側。
わたしが背を向けた遠く外。
そしてこれから進む世界で、いったい何が起きているのか。
電池が切れたように動かなくなった、体だけはもう眠ってしまって。
最後の最後、混濁に落ちるまで。
わたしはあの涙の温度をなんどもなんども確かめていた。
まだ肩は、濡れている。