「んー…」
古代魔法生物たちが現代魔法界にもたらしたもの。
というタイトルの本をいま図書館で探している。何やらこれがオススメらしい、リーマスいわく。
本当は今日は仕掛人たちに勉強を教えてもらう予定だったのだけど、悪戯が見つかってフィルチさんに捕まってしまったようだ。リーマスとピーターも巻き添え。
おなご達はスラグホーン先生のお茶会に参加している(三人とも優秀みたいだ)。わたしも行かないか声をかけられたけれど、余分に出された宿題に追われてそれどころじゃない。
「困ったなあ…」
図書館をちゃんと利用するのは実は初めてで、どこに何があるのかさっぱりぽんである。
一応それっぽいコーナーをちらほら見たんだけど見つからないし、あれこれもしかしてもう借りられてんのかなあ。
ミス・ピンスに聞いてみようかとも思うもののちょっと怖くて勇気が出ない。うーん弱った。
まあそれ以外にも出されてるやつあるし、先にそっちからやっても(期限的には魔法生物片付けときたいけれど)・・・
「んっ?!」
とか思っていると、自習スペースの机の上にその本が置いてあった。
なんなら次に使おうと思っていた妖精の呪文の本、小さな奇跡まで置いてある。うっそぉ。
どうやらこれらを借りた人物はいまどこかに行っているらしい。シンプルな筆箱などから考えるに男の子っぽいけれど…げ、マフラーがスリザリンカラーだ。
「どーしよ」
たぶんこれ借りてるのって内容的にわたしより下の学年だと思うけど…
「うーん・・・」
となりでいっしょに勉強させていただけないだろうか…
「僕の席に何か?」
「ふおっ!あ、あの、すみませんこの本…」
悶々と考え込んでいたら後ろから声をかけられた。あっやばいおっきい声ミス・ピンスに叱られる。そう思い慌てて口を塞ぎ振り向くとそこにいたのは。
「シリウス?!」
「…大声出すと追い出されますよ。そしてそれは僕の兄です」
の、弟レギュラスがいた。
レギュラス?!?!?!
「ご、ごめんね…お兄ちゃんと間違われるとか嫌だったよね…」
「別に。もう慣れっこです。
ところで僕の席に何か?」
「あ、その、君が持ってきてる本わたしも使いたくて…もしよければ隣でいっしょに使わせてほしいんだけど…」
「・・・僕のほうは期限まで余裕があるので、お渡ししましょうか?」
「え!いや、それは悪い!!!」
「別にかまいませんよ」
どこかツンとしたレギュラスは(これやっぱお兄ちゃんと間違われたのに怒ってないか、)無愛想に何冊か積まれた本を指してどれですかと聞いてきた。
え、ええ。レギュラスとかそんな。そんな。そんな。
仲良くなりたい・・・!!!!!
はしっ!!!
淡々と筆記用具を片付け始めるレギュラスを見て、わたしは無意識に彼のセーターを掴んでいた。
「…なんですか、この手は。」
「おともだちになりませんか…!」
「・・・は?」
ものっすごい不可解そうな顔をされる。
いやでもせっかくなので押し切りましょう!ここは!!!
「おともだちになりませんか!わたしはアオイ・シーナです…!!!
レギュラスくんだよね…とてもとてもキュートですね!!!!!」
あ、これリリーに迫るジェームズを見てるときのシリウスとまったく同じ顔だ。
・・・どうして僕は、グリフィンドール生と肩を並べて図書館で本を読んでいるんだろう。
謎の転入生の押しに流され、なぜか一緒に課題を片付けることになってしまった。
まあ、実際問題として、期限にゆとりはあったけれど早めに済ませておきたかったから書物を明け渡すのは気が引けていたのも確かなんだけど…。
「レギュラスくんはよく図書館に来るの?」
「まあそれなりに…ていうかそんなこと知ってどうするんですか」
「いや!また会いたいなと思って!」
「なんでですか」
「仲良くなりたいから?」
「から?って聞かれても…というか勉強してください」
僕が苦い顔でそう言うと、ごめんごめんと苦笑して目の前の本に取り掛かる。
なんなんだ、このひとは。
転入生のアオイ・シーナは意味がわからない人間だった。
最初にスリザリンと呼ばれたにも関わらず、撤回されてグリフィンドールに行った。こんな人、初めてらしい。
噂では家系が由緒正しい純潔貴族で、兄さんと同じようにそんな家系に反発しているというふうに聞いたけれど…別にそんな気品があるようにも見えない。シーナなんて名前の貴族も聞いたことがない。
まあジャパニーズらしいし、あっちのほうの人間なら交流はないから知らなくてもおかしくはないけれど…
ちら、と隣を見ると真剣に本を読みながらノートに羽ペンではない何かで物を書いている。これなんだろう、よくわからないひとだなあ…
重力に従ってさらりと流れる黒髪はとてもきれいだ。黙ってさえいれば東洋人独特の美しさが際立ちそうなひとなのに。
ふと胸元のグリフィンドールに目がいく。…どうして僕に近づいてきたんだろう、ブラック家に取り入りたいのかな。ならもう兄がいるじゃないか、いっしょにいるのをすでに何度か見かけた気がする。
まあ完全に取り入る気なら兄さんだけでなく僕にも近づいておこうと考えるのは普通だろうけど。
どうしても猜疑的になりながらじっと観察する。
・・・おい、なんかこのひと勉強そっちのけでなんか描いてないか。
丸い物体に目をつけたような謎のラクガキを発見してしまった。
「…なに描いてるんですか?」
「え?あ、魔法生物ウォーミーレッドがどうやってもまっくろくろすけの色違いにしか見えなかったから…」
「(いろいろ考えているのが馬鹿らしくなってきた)」
頭が痛い、とため息をつきそうになると、そんな人の気も知らず目の前の女生徒は笑顔で教科書を見せてきた。
「あ、そうだ。ねえここのアクロマンチュラの生態なんだけど…」
「っぷぁー終わった!ありがと!」
「どういたしまして…」
結局わたしはあれからいろんなことをレギュラスに聞いたりなんだりして、やりたかったことを全部終わらせた。彼も課題をすべて終わらせたようだ。
「ごめんねいろいろ手伝ってもらって。迷惑じゃなかった?」
「今更ですね」
「はぐっ!ごめん」
「大声出すと叱られますよ。
…まあ、いい気分転換にはなりました」
そう言ってレギュラスは淡々と筆記用具を片付け始める。今度は止めなかった。でも本はいっしょに直しにいく。
レギュラスの方が少し身長が低く、隣で歩いていると改めてちっちゃいシリウスみたいで不思議な感じがした。
でも彼は教え方もとてもうまいし、わたしみたいな意味のわからないやつを面倒くさがりながらもしっかり取り合ってくれてめちゃめちゃいい人だと思う。
今は完全に距離を取られているけど、普通に仲良くなりたい。そもそも、レギュラス、わたしの推しキャラなので・・・!!!
「ねーまたいっしょに勉強したいなって言ったら怒る?邪魔?」
「別にどちらでもいいですけど…僕といてもそんな楽しくないでしょう」
「えっ楽しいよ?!やる気で…」
ゴホン!
出るよ、と言おうとしたらミス・ピンスの咳払いが聞こえたのでとりあえずあわてて口元を隠す。
わたしだけならともかくレギュラスまで目をつけられたら申し訳ない。
そう思っていると、突然レギュラスが立ち止まった。
「…そんなに魅力ですか?ブラック家」
「は?」
つられてわたしも足を止める。
きょとんとレギュラスを見つめると、彼は少し罰の悪いような顔をした。
ん?これ、もしかして。
「・・・いえ、別になんでもな…」
「え、もしかしてわたしがブラック家狙いで君に近づいてると思ってる?!違うよ!ぜんぜん!それにシリウスからお母さんめっちゃ怖いって聞…」
「ゴホン!!!!!」
「き、きいてるし…」
ミス・ピンス、お若いのに迫力がすごぉい・・・と思いながら声を小さくして続ける。
たしかに君に近づいたのは推しキャラと喋りたい・ちっちゃいシリウスみたいでかわいい・暇という下ごごろでしかなかったけれど、さすがにそこまで深読みされるのはさすがにちょっと嫌だった。
「はあ…」
「それにわたしなんも有益なもん持ってないからな〜」
「・・・」
無理でしょー。
肩をすくめながらそう言うと、レギュラスは丸い目をくりくりさせた(かわいい)。
「…不思議なひとですね。なにも持ってないから近づきたがるものでは?」
「え、おんぶに抱っこは無理でしょ?そういう目論見があるならWinWinじゃないと」
「WinWinって・・・」
「まあ信じてくれるかは謎だけど、いろんな事情は置いといてレギュラスくんと仲良くなりたいんだって話ー」
よいせーっとちょっと高いところに本を戻す。
それを見つめるレギュラスは当然ながら上目遣いになっていて、愛くるしかった。
少し眉を顰めた後、彼は息を吐きだした。
「まあ…なんでもいいですけど」
「でしょ?深く考えすぎてもだよー」
「はあ…」
「わたしなんて毎日ごはんのことしか考えてないよ!」
「そんな堂々と言われても」
そう言って少し呆れたような顔をしたあと、レギュラスは少しだけわらった。
あ、ほら。
やっぱり。
・・・かわいい。
「そろそろ夕食の時間ですね。行きますか」
「あっうん!そうだね」
「…そういえば、すきな食べ物は?」
「ん?!
えっあ、な、なんでも好き!甘いものと日本食は特にすきかな」
「へえ。僕も甘いものは好きです」
「あ、あんこならいつでもあげるよ!!!!!」
「アンコ?」
「うん!」
質問された(興味持ってもらえた?!)ことに驚き胸を高鳴らせながらお話する。
あんこって言うのはねえ、甘くて黒いお豆さんでねえ。
そんな説明をしながらレギュラスといっしょに大広間へと向かった。
大広間についてしまったら、違うテーブルにつかなきゃいけない。
それがなんだかとても寂しくて、残念で、すごくバカみたいなことに思えた。
だからって転入早々別のテーブルに座るような勇気もないけど。
でも、せめて。
「あ、あのさレギュラスくん、よかったら、またその、」
「・・・レギュでいいですよ。まあレギュラスでもいいですけど、とりあえずくん付けはいらないです」
「へっ、」
「…だいたい毎日あそこで勉強してるので、来たいならどうぞ」
「・・・!
レギュラス!!!!!だいすき!!!!!」
「大声を出さないでください視線が痛いです」
煩わしそうなレギュラスの耳は少し赤くて、なんだかとてもかわいい宝物を見つけたような気持ちになってしまった。
「わ、わたしもアオイでいいよ…!」
「たいして仲がいいわけでもない年上の女性を呼び捨てにするなんて道理的に考えられません」
「ごふっ」
「…まあ、貴女が僕に勉強を教えてくれるくらいの仲になれれば考えなくもないですけど」
「!
レギュ」
「うるさいです。」
そんなこんなでわたしたちはとても仲良く大広間の扉を開けた。
グリフィンドールに向かうわたしと、スリザリンへ向かうレギュラス。
それは少し寂しい気がしたけれど、でもまた会えるんだって思ったら足取りも軽かった。
今日も大広間はとてもいいにおいがする。
なんだかいまも夢みたいだ。