「ほう。では変身術が一番得意なのか」
『んんんーどうなんでしょうー…なんかたぶん先生がいいんですよね!寮監だしすごく気にかけてくださって。めちゃくちゃ課題出ますけど!』
「…ミネルバ・マクゴナガルだったかな。」
『そうですよ〜』
ああ、そういえばあの女は。
ちらりと脳裏を掠めたあの日を遠ざけて、目の前の女を確認する。
やはり子供だ。
大げさなまでの笑い声も、黒い瞳もしなやかな髪も何も変わっていないけれど。
一日の出来事をただ楽しそうに話す彼女はずいぶんと幼く見えた。
「それで?」
『はい…やっぱり魔法生物は新鮮すぎてたまに怖いなって思いました…』
こいつはこれからどれだけのことを知るのだろう。
いつまでも時間は噛み合わないまま出会うことなく瞳を合わせて。
歯の浮くような台詞で世界を騙った女は、たしかに今より穢れていた。
お前の未来と其の過去に。
空虚にも似た憎しみを抱いたあの日は。
『でねっ、ヴォルデモートさん!』
笑いながら名を呼ぶ時はいつも少し首を傾げる。
それが網膜に焼き付いて離れないまま、曇りなど払拭してきたはずの我が人生に翳りを落とすのは。
『おやすみなさい、ヴォルデモートさん!』
ーーーおやすみ、リドル
ーーーーーーおやすみ、・・・・
この快活な声ではなくて、甘ったるいまでの優しい声だった。
「夜分遅く失礼いたします、我が君」
「入れ」
通信を終えて数十分。
気取ったテノールに眉を顰めながら、ヴォルデモートは従者を部屋に迎え入れた。
「どうした」
「先日承ったベルベット家の動向についての調査が済んだもので」
「ほう。それでお前がわざわざ報告に。
相変わらず信心深いものだな」
「ええ。貴方様のご尊顔にお目にかかりたく、」
「たわけ」
呆れたようにヴォルデモートは息を吐き、杖を軽く振って自分から少し離れた場所にあるソファに紅茶を淹れた。
もちろん彼は自分の絢爛なデスクから移動する気などさらさらない。パチパチと暖炉が燃える中、この距離ならまだ幾分許せた。
「で、どうだった」
「メリーは黒。他は白。
ちなみに息子は灰色です」
「読み通りだな。全員殺せ」
「かしこまりました」
「本題は?」
とんとんと進んでいく会話に従者は思わず苦笑する。
この話題は何年経っても苦手なようだ…何年も経過しているからかもしれないが。
変わらない主人に少しの親愛さえ覚える。
そんなこと口にしようものなら、言い終える前に絶命するが。
「おわかりでしょう」
「・・・」
「青くも私めが婚期を逃しかけた理由ですよ」
じろり。
見たものを石化させそうなほどに殺気を孕んだその瞳。
本来なら誰もが平伏し謝り命乞いをするそれだが、従者にとっては恐るるに足りないものだった。
主はけして自分を殺さない。
自分には利用価値があるし、それに。
「勝手にしろ。何の記憶もないただの餓鬼だがな」
「それは楽しみだ」
「フン。三分で飽きたわ」
世界の果てに何を想う。
不似合いなスリザリンカラーが、駆け抜けるように脳裏を掠めた。