「は〜〜〜〜〜」
息を吐くと、しろい。
ここにわたしがいる証だよ。
昔そんな絵本を読んだ気がする。
ちっちゃいときに読んだその本の内容こそ忘れたけれど、でもなんだかとてもすきで。
クセみたいに息を、はあっとして歩いた。さむいみち。
「ゆーきーやこーんこ、」
リドルにこの話をすることはないだろう、なんて思う。
『何考えてるの?』
「んー?
…いやー寒いなー、って」
『ふうん』
「肉まん食べたいなー、とか」
『なにそれ』
ぶるりと身を震わすわたしと、声だけで存在を示すあなた。
こうやって、梟小屋までの少しの道。
雪の上、あしあとはひとり、でも暖炉に埋もれたあたたかい空気よりもツンとした風は。
わたしとあなたを少しだけ、洗ってくれるような気がしてるんだけど。
…なんか今日ポエミーだわわたし。
生理でも近いのかな…あー近いわ…
「ねーどの子がいいかな〜」
『学校の梟なんてどれも似たようなもんでしょ』
「まあね〜」
ゴロスケホッホー♪そんな歌をうたうわたしをリドルはただ黙って見ていた。
「マグル文房具販売店のミシェリーまで」
ホー!と鳴いて飛び立つ梟はやっぱりかわいい。
羽ペンも練習はしてるけど、シャーペンにノートがいちばんはかどるから基本的にはそれで勉強している。リドルには羽ペンにはやく慣れないといけないからそんなもん買うなって怒られるけど。
魔法だけじゃなくて普通にカルチャー的な苦労もなくはなかった。
「かえろー」
『うん』
日本や元の世界が恋しくないかって言われたら死ぬほど恋しい。
でも今帰れるとして、帰ったらこっちには二度と戻れないとしたら、わたしはどうするのかな。
仕掛人もだし、ヴォルデモートさんもだけど、主にリドルが気になって…すぐには帰れないかもしれない。
まあどっちにしろ帰れないからこんなこと考えても意味ないんだけど。
リドルは。
わたしがここに現れるまで、ひとりでいったい何をしていたんだろう。
「ねー」
『なに?』
「リドルはさー、何色がすきなのー」
『なんだい急に』
「んーなんとなく気になって…」
わたしはリドルのことを何も知らない。
でも彼の存在は、どんどん大きくなっているように思う。
不思議だけれど。
つかみきれないからこそ、気になるんだろうか。
そんなことを思って、少しでも親交を深めようとしたときだった。
突然誰かに呼び止められる。
「ミス・シーナ」
「!」
わたしはその声のほうを向いて、ぎゅっと顔をしかめた。
「少々お時間いただけますかな」
眉間に皺が寄り、口元がゆがむのを感じる。
とりあえず出した声は、思っていたより素っ気なかった。
「・・・なんですか」
「…そちらこそ、そのゲテモノでも見たような目と声はなんでしょう。
話があります。ついてきてください」
引きつった顔を彼は機嫌が悪そうに見つめる。
ルシウス・マルフォイ、だった。
おめえあんなこと(騙して闇陣営まで連れていく)しといて、よくフツーに話しかけてくるな。
「なんですか、お話って…」
連れて行かれた先は空き教室。
こんなところにルシウスさんとふたりとか、身構える。
・・・あれでもこのひとヴォルデモートさんの部下?家来?しもべ?だよね。ヴォルデモートさんと毎晩お話してるわたしが怖がるのおかしい?ヨユウ?
でもなんか前に騙されたことあるからなあ…二重人格やめてほしい…
全身で警戒しながらルシウスさんの様子を窺っていたら、彼はなんだかすごく眉をひそめて口を開いた。
「…父が」
「ちち?」
「…私の父が、貴女に会いたがっています。
アオイ様」
・・・・・は?
うまく言葉が理解できなくて、わたしは目をぱちくりさせる。
え、んん?
ルシウスさんの父?乳じゃなくて(当然)父ってことは、
・・・・・。
「あ、アブラクサス・マルフォイ…?」
「!
やはり父をお知りなのですか」
「え、いやお知りっていうか、えぇと、(しまった)」
うっかり原作の知識をもとに口を滑らせてしまい、やってしまったと口ごもる。
・・・ん、でも待てよ。やはり?やはりってなに?なんで予期されてるの?
というかアブラクサス・マルフォイがわたしに会いたがるってなに、そしてそもそもアオイ様呼びはなに、キモ。いろいろと頭に浮かんだはてなに首をかしげる。
もういろいろわかりやすく誰か説明してくれないかな。
辟易しているとルシウスさんがじっとこちらを見てくる。
灰色のようなアイスブルーのような瞳。
綺麗だけれど、そう言い切るには…少し冷淡に、見える。
うっかり瞳がかち合って、でも逸らすのもなんだか違う気がしてじっと見つめあった。
するとその灰色が、頼りなさげに揺れる。
「・・・貴女はいったい、何者ですか」
そうして放たれたことばは、理解するより先に突き刺さった。
何者って。
・・・そんなのわたしが一番知りたい。
(響くオブリビエイトの呪文がこんなにも頭から離れないのに)