さよならさんかく

「アオイ!!!」
「わ、リリー?!どしたの?」
「どしたのじゃないわよ!あなた倒れたんですって!?もう大丈夫なの!?」

夕食の時間にマダム・ポンフリーに起こされ(泣きながら二度寝してたみたいだ)、大広間に行くとリリーが飛びついてきてくれた。
ランチのあと図書館にいって、そのあとリリーたちと妖精の呪文を受けるはずだったのにわたしがいつまで経っても現れないからひどく心配させてしまっていたようだ。

たぶんフリットウィック先生にわたしの病欠の情報が回っていただろうから、それを聞いたんだろう。

「あ、ごめんね心配させて・・・ご覧の通り!もう元気だよ」
「ならよかった…病気がまた再発でもしたのかと…」
「びょーき?」
「あなた病気のせいで入学遅れたんでしょう?」
「あ、あー!そうだったそうだった」
「なんでそんな他人事なのよもう」


そういえばそんな設定だったなあ完全に忘れきっていた。ぷりぷり怒ってくれるリリーはかわいくて、はあもうほんとそりゃジェームズもセブルスもリリーのことすきになるわ。

そこまで考えて、ふと思いつく。

・・・そういえば、セブルス……………。




「…ねえリリー、リリーのお友達のセブルスくんってとっても素敵なひとね」
「え、急にどうしたの?」
「わたしが倒れたとき、セブルスくんがわたしのこと医務室まで運んでくれたの!
お礼を言いにいきたいんだけどひとりでスリザリンのテーブルまで行くのちょっと不安だから、いっしょについてきてくれない?」
「あらそうなの?!セブルスが?
そう・・・もちろんいいわよ!」


リリーはぱあっと明るく笑った。

あ、やっぱりリリーはちゃんとセブルスのことすきだったんだ。まあそうじゃないとまわりに止められながらもお友達やったりしないよね…。



「(ほんとにセブルスが悪の道みたいなのに落ちなかったら、あったんだろうなあ、未来)」




そう思うとちょっといたたまれなかった。とりあえず、助けてもらったお礼は返さなきゃね!


しかし自分で思っといてなんだけど、悪の道かあ。悪の道・・・ねえ。
(その大将と毎日仲良くお話しているわたしはいったいどんな道を歩いてるっていうんだか)












「な、あ、リリー?な、何故スリザリンの、て、テーブルに・・・」
「(すげえまじでこいつわたしのこと見えてねえ)」
「今日倒れたアオイのこと、医務室まで運んでくれたんでしょう?お礼を言いたかったみたいだからその付き添いよ」


リリーがそう言ってわたしを指して、そこではじめてセブルスはわたしを見た。
すげえなこいつまじで。いま存在に気付いたかのとうに目をしばたく彼に思わずつきそうになるため息をこらえて笑顔を作る。



「あ、ありがとうスネイプくん!おかげさまで、助かりました」
「別に・・・もうなんともないのか?」
「(すげえリリーと話すときと声質からもうまるで違う)大丈夫!ほんとにほんとにありがとうね」
「…礼を言われるほどのことはしていない」


そう言ってスネイプはふい、と顔を向けた。うおおすっげ無愛想だなこいつ?!
リリーのときとえらい違いだなオイ、と口元をひくつかせるとリリーが笑った。


「気にしないで。照れてるのよ」
「え!そうなの?」
「な!や、やめてくれリリー、からかうのは」
「だってそうでしょう?少し顔が赤いわよ」
「そ、そんなことは…」


え、どこがだよ土気色のまんまじゃん、と思ってたけどリリーがからかいはじめてからはわたしから見てもわかるくらいに真っ赤になっていた。
…この子かわいいな。

あまりにも純情な子供スネイプ先生に少し心がぽかぽかする。
ああ、いい子なんだ。そりゃそうか、リリーの友達だもんね。


「ふふ、ほんとにありがとう!また何かお礼させてね」
「べ、別に礼などもう十分だ」
「あらセブルス、女の子の厚意は受け取るものよ」
「ぐっ・・・ま、まあ、君がそう言うなら」

リリーには敵わない様子のセブルスを見ていると、思わず応援したい気持ちになった。
ジェームズには悪いけれど、いいことを思いついて口を開く。

「そうだ!よかったら今度三人でお茶でもしようよ。日本の珍しいお菓子とか用意するから」
「あら素敵ね!わたしも参加していいの?」
「もちろん!」


っていうかわたしがドタキャンすべきなくらいだよ、と思っていたらセブルスの暗い目がすごく夢見るようにキラキラしているのが見えた。

・・・ほんっとにリリーのこと、すきなんだなあ。



「じゃあとりあえず今日はもう自分たちのテーブルに行きましょうか、ごはんよアオイ。またねセブ」
「あ、うん!ほんとにありがとうね、せ…スネイプくん」
「・・・セブでいい、君も。」
「へ?」
「こちらこそ、あ、…ありがとう」


そう言うとスネイプ先生(子)は逃げるように首ごとわたしたちから目をそらし、コーンスープに夢中になった。

・・・あらまあ。



「ふふ、ばいばいセブ」
「ば、ばいばいありがと!…せ、せぶ、」
「ああ」


・・・このひと、そうなんだ。

きっとわたしの思惑?というか厚意、理解して汲み取れて感謝できるひとなんだ。


「(本読んでるだけじゃたぶん一生わかんなかっただろうなあ)」



すごい魅力的なひとなんだ、不器用なだけで。



・・・闇の魔術とか、ヴォルデモートさんとか、…なかったら、いなかったら、どうなってたんだろう、なあ。

















「今日のごはんもおいしかったねー!」
「ああ、あれね。さっぱりしてたわね」
「日本人にはああいうのほんとありがたいよーこっちのごはんぜんぶ濃いもん」
「ふふ、そういえば日本の珍しいお菓子って例えばどんなものなの?」
「んー、そうだなあこの時期はやっぱりおしる…」
「ミス・シーナ」


ディナーのあと、リリーと仲良く話していたら突然声をかけられた。

前もこうやって呼ばれた。振り向く前に相手がわかり、嫌でも顔が引きつる。



「・・・はい」
「なんて顔だ。本当にそれでも淑女か?」
「別にそんなもんになった覚えはまだないですがなんの用ですか」
「少し話が。体は大丈夫で?」
「…地獄耳ですね」



ごめんねリリー、先に行ってて。そう言うとリリーはすごく心配そうにしながらもその場から離れてくれた。
まあそりゃそうだよね。頭ふわふわのアオイちゃんが天下のルシウス・マルフォイに絡まれてんだもんね。


リリーがずいぶん遠くなってから、ルシウスさんは口を開く。


「…お手数おかけして大変申し訳ございませんが、わたくしの後についてきてください。お会わせしたい者がいます」
「うわびっくりした。
へー、ひとがいなくなると敬語なんですね」
「貴女様のことは丁重に扱うよう命じられておりますので」


ルシウス・マルフォイはなんか腹立つ笑顔なんだか苦笑なんだかわかんない顔をしながら言った。
丁重ねえ。はあ。たいへんっすねえ。こんなちんちくりんにねえ。

不満げなのが見て取れて、なんだか少しいらだってわたしはボリボリ頭をかいた。


「…まあ当然だろうけど、不本意なんですね。じゃあちょっとでも気持ちが納得いくよう教えときましょうか、わたしあなたより年上ですよ」
「!?」
「なにびっくりしてるんですか、日本人なんてみんな童顔なんです。これで心置きなく敬えるでしょ?知らないけど。

…で、誰に会わせてくれるんですか」



コツ、コツ、コツ。

二人分のローファーの音が廊下に響く。


なんかだいぶわたしの心、たくましくなった気がする。もうこのひと相手に変に怯えたりすることもないだろう。


ときどきすれ違う生徒たちは不思議そうにわたしたちを見ていた。
なんとレギュラスともすれ違ったので軽く手を振っておく。

グリフィンドール生と、あのルシウス・マルフォイが歩いている。
この小さな学校からしたら大きなスキャンダルなんだろう。めんどくさいなあもっとみんな世界を広げて生きなさいよ。


でもびっくりしているレギュたんは死ぬほどかわいかったから、この微妙な状況にすら感謝しようと思えた。



「…レギュラスとも関係が?」
「関係って、なんかやらしい言い方しないでくださいよ。こないだ仲良くなりました」
「ほう」
「で、あなたがわたしに会わせたいひとって?」
「父です」
「!」


一歩、二歩、三歩。

空き教室を彼は指差した。



「この中に私の父がいます。貴女にお会いするのを、心待ちにしておりました」
「・・・はあ?」


意味わかんないことはいままでたくさん起こってきたけど、慣れることなくいちいちちゃんと戸惑ってしまう。


そういえば言ってたな、アブラクサス・マルフォイがわたしに会いたがってるとかなんとか。ほんとだったのかよ。




「…扉、開けたらいいんですか?」
「ええ。」
「・・・」


わたしはひとつ大きなため息をついた。
なんていうか、ほんとにさ。
やんなっちゃうねー、まったく。


あきらめて扉を開く。
わたしももっと、広い世界で生きなさいよ。




ぎぃい。



空き教室の戸は、古びた音を立てて動いた。

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