わたしと私をつなぐのは


ぎぃいと音を立て扉を開いて、そこでやっとちょっと冷静になった。
ヤベ。わたしアブラクサス・マルフォイと会うんじゃん・・・
会うんじゃん!!!!!(当然だけど)



いや、まあ、ね。
ルシウス・マルフォイのほうへの謎の苛立ちであんまりなんにも考えてなかった…心の準備うんぬん一切してなかったよね。生理中は情緒が不安定になってほんといけませんなア!!!


うーん、どうしよ。


冷静になるのに比例して大きくなる緊張にクラクラしながら、その教室の中に目線をやると。
そこにはひとり、ポツンと男性が立っていた。




「・・・アオイかい?」
「は、はい」
「…会いたかった」


振り返った男性は、ルシウスさんにとても似ていた。
…似てるのに、あれ。

なんだかとても、やさしい。




アブラクサス・マルフォイはわたしを穏やかな目で見つめてくる。
な、なんだろう。くすぐったい。なんでこんなに見られているんだ。



「…倒れたと、聞いたのだけど。もう体は大丈夫なのかね?」
「あ、は、はい。ばっちりです」
「そうか。…闇の帝王に、あとで連絡しておきなさい。あの方がたいそう心配しておられた」

その言葉にわたしは目をぱちくりさせる。
なんでそれ伝わってるんだ?どこ経由???謎。

「え、ヴォルデモートさんわたしが倒れたこと知ってるんですか?どうし・・・」

わりとその情報経由ルートは把握しておかないとまずい気がして、どうしてと尋ねようとするもそれより前にアブラクサスさんが口を開いた。

彼は彼で、少し目を見開いている。
あ、ルシウスさんと同じアイスグレーの瞳だ・・・。


「おや、そう呼んでいるの?」
「え、あ、はい…」
「・・・そうか。君がね」


そう言ったアブラクサスさんは少しうつむいた。長い髪の毛は彼の表情を隠してしまったのでどんな顔をしているのかわからない。
どうしたらいいかわからず手持ち無沙汰に黙って見つめていると、にこりと笑って顔をあげて、ちょいちょいとわたしを手招きする。
扉のところで固まっていたわたしは慌てて駆け寄った。


「・・・これを」
「?」
「ハンカチだけど、あたたかくなるんだ。君が望めば」
「え、あ、え?い、いただいていいんですか?」
「もちろん。」

そう言ってアブラクサスさんはわたしに可愛らしい小さな紙袋をくれた。え、なんで、もらっていいの?


なんかよくわからないけど、アブラクサス・マルフォイに優しくされている。なんだこれ。

・・・あれ、前にもこんな気持ちになったことがある。いつだっけ?
なんのときだっけ?この世界に来てからだっけ………


「…いま、いくつだったかな」
「あ…18歳です」
「そう」


そしてアブラクサスさんはまたにっこり笑った。

あ、思い出した。
・・・ヴォルデモートさんとはじめて会ったときだ。

…あのひとも、優しかった。



「あ、あの」
「なんだい?」
「ヴォ、ヴォルデモートさん…元気ですか?」
「えっ?」
「その、お話は…いつもしてるんですけど。鏡越しなんでわかんないことたくさんあると思うし、わたし実際あのひとのこと、ぜんぜん知らないし…」
「・・・」

気づいてしまうと気になって、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
女子高生に心配される闇の帝王なんてちょっと可笑しいかもしれないけれど、気になるものは気になるんだから仕方ない。

アブラクサスさんは黙ってわたしの様子を見ている。


「い、一応追われてるひとだから、心配とか…勝手にしちゃってるんですけど。
なんかあってもわたしには、話さないだろうし…。

あの、ヴォルデモートさん……か、風邪とか、…引いてないですか?」
「・・・それ、本気で言ってるのかい?」
「へ?ほ、ほんき……?」


本気…とは・・・??


わたしが首を傾げると、突然。
アブラクサスさんは…笑い始めた。



「クッ・・・」
「へ?」
「ぷっ、ははは!はっはははははは!!!はははははははははは!!!いっやーもうほんと!ほんっと君は!ほんっと君はバカだなあ!相変わらずだよ!いやーもう本当安心するなあ」
「!?」


な、なんかくだけた。
急にくだけたよアブラクサス・マルフォイ!!くだけたっていうか、こ、壊れたよマルフォイ?!あんなに紳士っぽかったのに!!!!!壊れたフォイ?!?!?!?!

ヒィーおなか痛い、とアブラクサスさんは笑いすぎて目じりに溜まった涙を指で拭いながら話す。


「いやァもうそれ一回直接聞いてみなよ最高だよアオイ!はーっ本当に最高だ!ねえはじめて会った時以来まだ一回も直接会ってないんでしょ?」
「え、え、ヴォルデモートさんとですか?」
「そう!」
「はい」
「うっわーほんっとうによく我慢してるなーはっはっは彼も年は取ってるんだね!」


・・・何この陽気なひと。


陽気すぎてぜんぜんマルフォイ家とは思えないんだけど、なに、これなに?とりあえずルシウスさんはお母さん似の性格なのかな?

とりあえず目の前で爆笑されて置いてきぼりをくらっているわたしは困惑のままどうしたらいいかわからずアブラクサスさんが落ち着くのを待つ。

「昔は」
「何の用なの、アブラクサス」
「っぎゃあ!」
「おやおや」


そうしていたら突然ひとが一人増えた。
いきなりとなりに実体化してきたリドル。わたしは情けない声を上げて肩をびくつかせた。

急に現れるのびっくりするから!!まじやめてくんないかな!!!!!



「トム!久しぶりだね?」
「殺すよ」

まだ笑いが止まらないといった感じだった目の前のアブラクサスさんは、今度は朗らかにリドルに挨拶をしている。

ええ…??そんなフランクな感じなのこのふたり・・・。どっちかというともっと主人と従者みたいなんだと思ってたんだけど………。


「はは、ごめんごめん少しテンションが上がってしまってね…そう、君がついているんだ。相変わらずだね」
「本当に殺すよ。あいつから何も言われてないの?」
「ん?余計なことは言うなって」
「アバダ…」
「わーーーーっリドル!ストップ!!!」

なんだこのアブラクサスさんの余裕、と思いながらも、不機嫌そうなリドルから冗談ですまない呪文が聞こえてきたので慌てて止めた。
リドルは杖を持っていないけれど、前も忘却術や服従の呪文使っていたし、ひと一人殺すくらいならできると思う、たぶん。

それでもアブラクサスさんは笑っているだけだ。なにこのひとちょっと強すぎない?
同年代だから?同い年?

そんなにこのふたり、仲のいい描写なんてあったっけ・・・。


「…ふたりは、同い年?なんですか?お友達??」
「お友達なわけないだろうお前の頭は花畑か」
「お友達だよ」
「アブラクサス!」
「はっはっは冗談さ、ホグワーツの同期でもちろん同じ寮でね、それなりに親しかったんだよ、まあ途中からは私は彼の従者だけど」
「へえ…」

思っていた通りの回答が返ってきて納得する。
まあ、知ってはいたけどやっぱりヴォルデモートさんって学生時代から家来みたいなの従えてたんだな。

親しかった、らへんでアブラクサスさんを睨むリドルがちょっとおもしろい。
ルシウスさんはあんなんなのにアブラクサスさんはぜんっぜんびびってないんだなあ。



「ふふ、こうしていると戻ったみたいだよ、トム」

何かを思い返すような優しい眼差しでアブラクサスさんは微笑む。
わたしはこてんと首を傾げた。

「何にですか?」

すると隣にいるリドルが引き続きいやそうな顔で答えた。


「・・・学生時代にだろう、僕の姿が卒業時のままだから。お前は老けたなアブラクサス」
「息子が16歳になったからねえ」


それなりに老けるよ、とアブラクサスさんは穏やかに笑う。
ふおー大人の余裕感あるなあ。かっこいいなあ。リドルには絶対ないものだよなあ。

しみじみとふたりの顔を見比べる。
リドルは不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。


「まあこんな雑談をしに来たわけじゃないんだ。ほらアオイ、プレゼントだよ、帝王様から」
「えっ?」
「さっきのハンカチは私からだけど、こっちは闇の帝王からだ。大事にしなさい」
「あ、はあ…あけていいんですかね?」
「いいんじゃないかな」



そう言われて渡された小袋をごそごそあけると、小さな箱がでてきた。ラッピングされている。

しゅる、とリボンをとって開くと。
なんともかわいらしいヘアピンが出てきた。



「わ、かわいい…!」
「へえ…ヘアピンねえ」



ゴールドのピンにレジンで象られたような楕円形のガラスがついていて、その中ではお花が咲いたりちょうちょが飛んだりしていた。
夜空が描かれていて、星もまたたいている。



「こ、これ、ヴォルデモートさんがわたしに…?」
「ああ」
「す、すっごいすてき…!!!」



なんて粋なものをくれるんだ、彼は。
本当に飛ぶちょうちょ、風に吹かれるお花、ときどき落ちる流れ星にわたしはため息をついた。


ずっと見ていられそう。

うっとりとそれを見つめていると、アブラクサスさんがクスリと柔らかく笑って口を開く。


「・・・変わらないな」
「えっ?」
「なんでもないよ。実は理事の仕事で来ていてね、ついでに時間を作っただけなんだ。もうそろそろ行かないといけない」
「あ、そうなんですか?」
「うん。でもまあだいたい月に一度くらい来るんでね、またお相手してくれるかな、レディ」


そう微笑む彼はもの柔らかだけれど、どこか純粋な少年のようにも見えてわたしは不思議な感覚になる。


「は、はあ…わたしでいいなら…」
「君がいいんだよ」


そして英国紳士アブラクサスさんは、死ぬほど気障なセリフを吐いて、穏やかに笑った。
あまり言われたことのないそのセリフに少しどきっとする。

まあもちろん目ざとくリドルに睨まれたけれど。
そんな様子のわたしたちに、アブラクサスさんはまた穏やかに笑みを浮かべた。


「つけてあげなよ、その髪留め」
「えっ、あ、もちろん!」
「きっと彼も喜ぶよ」


本当に友達みたいに話すなあ。
ヴォルデモートさんにそんなひとがいるなんて思わなかったから、ちょっと変な感じがした。



「・・・アオイ。そろそろ出てフリットウィックに休んだ授業分の課題をもらいに行かないといけないだろう。」

1秒、2秒?アブラクサスさんと見つめあったまま固まっていると、ため息をついた後リドルがそう言った。
確かに、とわたしはアブラクサスさんから目をそらしてリドルに頷く。

「あ!そうだ、あんまり遅くなると失礼だよね」
「ただでさえ勉強遅れてるんだから、はやく行っておいで」

おそらく、というか確実に、リドルはわたしとアブラクサスさんにこれ以上話していられたくないんだろう。
たしかに課題はもらいにいきたいけれど、後ろ髪引かれる思いでわたしは動けずにた。

「でも、アブラクサスさん…」
「いいよ、また来月ゆっくり話そう。おいしいお茶でも持ってくるよ」
「わ!ありがとうございますすみません…!!」

それを察したアブラクサスさんは優しく微笑みかけてくれる。
よかった、とわたしも笑みをこぼすと、リドルはめちゃくちゃ顔をしかめた。

こいつほんとめんどくせえなあ。
とりあえず気難しいリドルは放置して、アブラクサスさんに向き直る。


「じゃあアブラクサスさん、また!ハンカチ、ありがとうございました」
「どういたしまして。またね」


…ぺこりと頭を下げるとひらひらと手を振られた。
素敵な人だったなあ、と受け取ったプレゼントを握りしめながら思う。

先に部屋を出させてもらうとまだルシウス・マルフォイがいて、すごい難しい顔でこっちを見てきた。
きっと探りたいんだろうなあ、あたしのこと。意味わかんない人間だもんな。闇の帝王とも関わりがある上自分の父親とも親し気な、自分とそう変わらない年齢の女なんて。


「…お話、聞いてたんですか?」
「いいえ、そんな不躾な真似は」
「うそでしょ。例のあの人に調べてもらおーか」

じっとジト目でルシウスさんを見ると、彼は観念したようにつぶやいた。


「………聞こうとはしてみましたが、おそらく父に耳塞ぎ呪文をかけられていたようです。何も聞こえませんでした。」
「ふうん…じゃあまあいいでしょう」



くるっと振り返る。
いつの間にかリドルは消えていた。

先ほどの教室の中、アブラクサスさんは笑顔でまたわたしに手を振ってくれたから、もう一度愛想よくお辞儀した。







・・・確信、した。

わたしまた、トリップするんだ。

どこかの時間軸、おそらくリドルとアブラクサスさんが学生である頃にでも、タイムスリップするんだろう。
そう思うとやっぱりぜんぶしっくりきた。


きっとリドルは気づかせたくなくて、わたしが何も知らないままでいるのを望んでいて、きっと。


じゃあヴォルデモートさんは、いったいどういうつもりでわたしにこんなにも優しくするのだろうか。

リドルだった、あのひとは。





きゅ、とリドルの本体であるバングルをにぎる。
それは冷たいような、熱を持っているような、不思議な感じがした。


・・・気づいてないふりと、知らないふりと、あたま悪いふりと、バカなふり。

ねえ、どれだってできるけど、ぜんぶできないときっと、あなたとは付き合っていけないのだろうけど、どれがいい?どれが好み???



…あなたはわたしを知っていても、わたしはあなたを知らないのよ。

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