「シリウス、よかったらバレンタインの日・・・」
「ミスターブラック、今度のホグズミード・・・」
「ねえ、二週間後にさあ・・・」
うるっせえ。
今朝バレンタインの日にホグズミードに行けるという知らせが談話室に貼られたせいで、それからひっきりなしに女がやってくる。しかもだいたい複数人でやってくる。
オレとふたりでデートしたいんだったら1人で来い。もし仮にその誘いを受けたって、そのまわりを取り囲んでるヤツらがホグズミード回ってるあいだずっと影からチラチラ見てきそうな気しかしない。誰が受けるか。
「あー、俺その日ジェームズ達と行くから」
テキトーに断ると、だいたい俺とデートしたい本人ではなく取り囲んでいる連中が抗議してくる。
「ポッターならまたリリーを誘ってたわよ」
「どうせ断られるよ」
「今回はポッター折れなさそうよ」
「エバンズのほうが折れねェよ。もし仮にエバンズとうまくいったとしても、リーマスもピーターもいるし。じゃ・・・」
いつもはそんなやりとりに、無理やり俺が終止符をつけて立ち去る。
ただ、今回は。そうは問屋がおろさなかった。
「ルーピンなら、朝にシーナをホグズミードデートに誘ってるの見たけど」
「は?・・・俺らと五人でじゃなくて?」
「ええ。"二人で"って言ってたわ。」
なんだって。
「あ、うん。ホグズミード、二人で行くよ〜」
リーマスから聞いたの?と軽く答えるアオイに衝撃が隠せない。
いまはマグル学の時間だ。隣にアオイが座っている。
唯一二人きりで講義を受けることになる授業だ。
実は、この時間にアオイの元いた世界の話とか、アオイ視点でのマグルの話を聞くのがここ最近の楽しみになっていた。
「え・・・お前ら・・・エッ、そういう感じなの?」
「そういう感じって。どういう感じよ」
「いや、だからそのー」
半分笑いながら言うアオイ。いや察しろよお前俺より5歳も年上なんだろ。
ハッ、もしかして年齢のせいでリーマスからの誘いをぜんぜん真剣に受けてないんじゃねェか?ありそう。この感じはありそう・・・。
「デートとかそういうのじゃないよー。タイミング的にそう見えるだけで、リーマスたぶんずっと甘いもの巡り付き合ってくれる人探してたんじゃないかなあ。
シリウスもジェームズもいつもゾンコばっか行ってんでしょ」
「三本の箒もハニーデュークスにも行くよ!」
「いやー、なんかそれだけじゃ足りなかったんじゃない?」
何の気なしに答えるアオイ。
いやマジでお前は知らないんだろうけど、リーマスは甘いもののためなら一人ででもカップル蠢くピンク色の魔界みたいなカフェに入って俺らがゾンコで遊んでる間も悠々と生クリーム啜るような男だぞ。
でもこれを教えるのはなんか違う気がして、とりあえず黙るしかできなかった。
「あーでもその場でオーケーしちゃったからあれなんだけど、シリウス達とゾンコにも行ってみたかったから次はいっしょに行こうよ」
「・・・今回もそれでいーじゃん」
「今回は先にリーマスに誘ってもらったからそっち優先。それにバレンタインのほうがどこのカフェも気合い入ってそうだし、たのしみー」
「ぜってェ人いっぱいだって」
「あ、それはちょっと嫌だなあ」
じゃあ俺らと遊ぼうよ。と言いたいところだけどたぶん堂々巡りになるのでやめた。
え、リーマス。え、あいつ、アオイのこと好きだったの?マジで???
いやでも確かにコイツは普通にかわいい。おもしろい。いいヤツ。いっしょにいてラク。
こうやっていっしょに講義とか受けてると改めて思うけど、年上だからか頭も悪くないし、いろんなことを知っていてコイツの話は楽しい。
それでいてあんまり年上っぽくない。見た目のせいもあるかもしれないけど、本当めちゃめちゃナチュラルに隣にいるんだ。ぜんぜん年上感も出さないというか。
これは完全に、才能だとおもう。
でもリーマス、そういうの知らないじゃん。二人で一緒に授業取ってる俺のほうが、絶対アオイのこと知ってるじゃん。
「・・・」
悶々とする。
いや、リーマスにもし好きなヤツができたんだとしたら。俺だってリーマスの親友だ。応援してやりたい、けど・・・
「あ、シリウス!これ見て。わたしが住んでた日本の写真がある。
桜きれいなんだよー」
にこにこしながら教科書を指差すアオイに一瞬時間が止まる。
ほら、コイツ。すげェ楽しそうに笑うんだ。
覗き込むように首を傾げてくる仕草とか、俺しか、なあ、俺しか知らないだろ?
「・・・イギリスにも桜は咲くぜ。けっこう綺麗に咲くところ、知ってる」
「えっウソ!行きたい」
「おー。そのうちまた、連れてってやるよ」
軽く言うと、アオイが目をキラキラと輝かせて笑った。
リーマス、どうしよう、俺。
お前もそうなのかもしれないけど、お前がそうなら応援してやりたかったけど。
俺もアオイのこと、ちょっと好きかもしれない。