「あれ、リーマスだけ?ピーターは?」
「あ、シリウス。なんかおなか痛いらしくてトイレに行ったまま帰ってこないんだ」
「オイオイ大丈夫かよ。アイツほんと腹よえーな」
「ね。そういえばジェームズも今日練習に変わったんだって」
「こんな雨の中?」
「もうすぐレイブンクロー戦だからね」
寮室に戻ると、リーマスが自分のベッドで本を読んでいた。
突然出来上がってしまった2人だけの空間。
もちろん向こうはそんなこと意識もしていないだろうけど、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
リーマスが本をめくる音がする。
沈黙が刺さった。
別に落ち着いていればいいのに、なんだかそういうわけにもいかない。とりあえず自分のベッドに座る。
声をかけるにも何とかけるべきかわからなかった。
そもそも本人は本を読んでいるんだから、そっとしておけばいいんじゃないか。
こういうとき普段ならどうしていたっけ。思い出せない。どうして、リーマスと2人きりになることなんて今までもよくあったのに。なぜ。
「・・・どうしたの?僕の顔に何かついてる?」
考え込みながら凝視してしまっていたらしい。視線を感じたリーマスがパタンと本を閉じた。あああ!閉じなくてもいいのに!!!
内心酷く焦りながら、できるだけ平静を装う。
「あー・・・いや。そうじゃなくて」
「?」
「ほ、ホグズミード。本当にアオイと2人で行くの?」
言った・・・。
ずっと気にしていたからか、言葉は案外簡単に自分の口から出て行った。
大丈夫だろうか。ちゃんと、何の含みも持たせずに聞けただろうか。
ただの、雑談みたいに。課題の期日を聞くみたいにフラットに。聞けただろうか。
一瞬面食らったような顔をしたリーマスは、次の瞬間いつも通りの声色で言葉を紡いだ。
「アオイから聞いたの?噂で聞いた?」
「う、噂で聞いて、その後アオイにも聞いてみた」
「アオイ何か言ってた?」
「いや、別に・・・」
「そう」
リーマスは閉じた本を横に置き、マグカップで何かを一口飲んだ。
俺はなんて返したらいいのかまたわからなくなって、ただその様子を見守る。
「・・・話の流れでね、二人で行こうって誘っちゃったんだ。でも、せっかくだしやっぱりみんなで行く?できればカフェ巡りに連れて行ってあげたいんだけど」
「えっ、」
「別に変な意味はないよ。ただ、シリウス達はゾンコとかの方が行きたいだろうし、アオイはあんまりそういうの興味なさそうだから、だったら二人でとことん甘いものを食べようって誘っただけなんだ。
きっとアオイも、みんなで行った方が楽しいだろうしそっちの方がいいんじゃないかな。変に噂になっても困るしね、もうなっちゃってるみたいだけど」
苦笑を浮かべてやたらと饒舌に話し始めるリーマス。
それに既視感を覚えた。
知ってる。この、ペラペラ喋るリーマスは。
「嘘だろ」
「えっ、」
「最初にあの月イチの問題について聞いたときと同じ反応だ。誤魔化そうとしてる。
アオイと二人で行きたかったんだろ?隠すなよ」
「・・・」
無言になったリーマスに、自分がどんどん冷静になっていくのがわかる。
なんだか悩んでいたことがぜんぶ馬鹿らしくなって、笑った。
「今さら隠し事するような仲でもないだろ。いいじゃん。わかるよ」
「シリウス・・・」
「アイツ、いいやつだしけっこうかわいいよな。あと一緒にいると楽しい」
肩の力が抜けるのを感じた。
そうだ。ジェームズが言った通りだ。
気になる女が被ったくらいじゃ俺達の仲は壊れない。
「今回はリーマスに譲るよ。で、次はみんなで行こうぜ。そんでその次のホグズミードは、俺がアオイと二人で行く」
あんなに悩んでいたのに、話してみたら簡単だった。
そう、俺は隠し事なんてしたくない。友達はちゃんと大事にしたまま、気づいたものに蓋もしない。
「な・・・何言ってるの、話が・・・」
「とぼけんなよ!アオイのこと気になるんだろ?俺もだ」
「え、な、・・・あっ、じゃあシリウスが今回も二人で行ってきなよ!僕断るし、そ、それに、僕みたいなやつが恋愛なんて、」
どんどん口ごもっていくリーマス。
ああ、やっぱりこうなった。分かっていたんだ、こうなることも。
俺は殴ってでも引きずってでもコイツを俺と戦わせないといけない。
「だーーーーーっうっせえうっせえ!今回はお前の番だ!
別にいいんだよ、お前が何だろうと誰だろうと、俺が誰を好きだろうと!恋愛するのは自由だし、アイツは確かにイイ女だし、俺とお前は今日からライバルだ!」
「ええっ?!」
俺は立ち上がり、リーマスの方へ向かった。
手を、差し出す。
「でもその前に、友達だ。俺に遠慮すんな。自分の体にも遠慮すんな。お互い諦めるときは、アオイにフラれたときだけにしよう」
「ぼ、僕、まだそんな、告白するとかまで好きじゃないし、ちょっと二人で話したかっただけっていうか、」
「俺もそんなもんだよ。でも二人でホグズミードなんて行ったら好きになるのわかってるんだろ?俺はなるよ、多分」
戸惑っているリーマスの手を無理やり取って、握手した。
ぎゅっと強く掴んでぶんぶん振ると、リーマスは諦めたように笑った。
「・・・強引だなあ。こんな遊び人には負けられないよ」
「うっせェなあ。俺に色気で勝てると思うか?」
「はは、アオイからしたら多分僕達二人ともただの子供だよ」
「確かに」
そして二人で笑いながら、アオイのどこがいいかを話した。
それがビックリするくらい楽しくて、俺はまだ恋愛よりも、こうやってダチとバカみたいな話をしてる方が好きなんだな、と思った。
しばらく話しているとピーターとジェームズが帰ってきた。
あまりにも楽しそうな俺とリーマスを見て、ピーターは首を傾げ、ジェームズは笑った。