「本当にご馳走になっていいの?」
お店を出て、アオイがもう一度尋ねてきた。
先ほどの会計はアオイがお手洗いに行っている間に済ませておいた。
店を出るとき財布を出す彼女にそれを告げると、目をまんまるにさせて慌てた様子だった。やっぱり僕との今日のホグズミードは、彼女の中ではそういった「デート」の類には入っていなかったんだろう。わかってはいたけれど少し苦笑する。
「いいんだよ、気にしないで」
「で、でも・・・、そんな、年下の男の子に・・・」
むしろわたしが出すべきでは…とまで言われてしまってちょっと傷つく。うーん、やっぱり全く意識されていない。これは僕だから、というわけでもないだろう。シリウス、お前もきっと苦労するぞ(というか苦労しろ)。
しょうがないのでおどけたように口を開いた。
「ちょっとくらいカッコつけさせてよ、ね?」
「カッコつけなくたってリーマスはカッコいいのに」
すると思っていたのとちがう回答が返ってきて赤面する。
ああ・・・うーん・・・それはちょっと、さっきまでガックリさせておいて反則では…。
「じゃあ次のお店はわたし持ちで豪遊しよう、元を辿ればダンブルドアのお金だけど、つまりあなた方の学費になるけど」
「はは、そう言われるとなんとも言えない気分になるなあ。でもいいんだよ、僕は男だし。実は女の子とこうやってカフェを巡るのはじめてだから、ちょっと見栄を張りたいんだ」
そこまで言うとアオイは少し頬を染めて、そのあとウーンと一度唸ってからなぜかかばんをゴソゴソとし始めた。
なんだろうと僕が首をかしげると、彼女はそこから何かを取り出す。
丁寧にラッピングされた、可愛らしい小包を手にしていた。
「・・・やっぱり申し訳ないから、次からは割り勘にしよ!でも、さっきのはご馳走になっちゃう。
そしてこれはお礼、です。たいしたものじゃないけど」
渡されたものを反射的に受け取る。その時だった。
ドシン、ぼてっ!
ばふっ!!!
「「!?」」
驚いて音のしたほうを見る。
そこにいたのは。
「・・・あんたら何してんの」
「まったくだ」
おそらく木陰に身を隠して僕たちのことを見張っていたものの、突然のプレゼントが気になって身を乗り出しすぎたあげく三人折り重なって倒れてしまったピーター、シリウス、ジェームズがいた。
「で、いつから覗き見してたわけ」
初めて見るアオイの冷たい目に、ジェームズシリウスピーターは小さくなって閉口した。僕も隣で見ていてゴクリと唾を飲む。年上の女性を怒らせると怖いんだなあ。最初は僕も後をつけられていたことにちょっとムッとしていたのに、完全に怒りが冷めてしまった。
「ほ、ほんとさっき来たところだよ、あの、」
「なんで来たの。冷やかしに来たの」
「冷やかしっていうか、気になったっていうか、」
「それを冷やかしって言うんでしょこのクソ眼鏡」
完全に縮み上がってしまっているピーターと、気まずさのあまりに一切口を開かないでいるシリウス。ふたりの代わりに一生懸命対応するジェームズも、アオイに一刀両断されて撃沈した。
はあ、とアオイはため息をつく。
「まったくもう。リーマス取られたみたいで寂しかったの?」
ああーーーこういうこと言っちゃうあたり本当に僕たち子供としか思われてないーーーーー、と心の中で叫ぶももちろんアオイには届かない。
おそらく同じことを思ったのであろうシリウスがもごもごと気まずそうに口を開いた。
「・・・いや、何してんのかなーと、思って」
「ハァ?甘いもの巡りするって言ってたじゃん」
「や、その、そうなんだけどー、なんか渡してたじゃん、さっき」
シリウスはそう言って僕の持つ包み紙を指差した。そういえばこのドタバタで僕も完全に忘れてしまっていたけれど、アオイがお礼と言って渡してくれたんだ。な、なんだろう?!可愛らしくラッピングされてあるそれは、お店でされた包装というよりは素人が作ったように見える。
僕は改めてその包みを見た後、答えを求めるようにアオイに視線をやった。
「ああ、これ?今日バレンタインだからチョコレートクッキー」
「えっ・・・それって、」
「こっちだと本命のひとにプレゼントを贈るんだよね?日本もそれはあるんだけど、むしろ義理チョコとか友チョコっていうのが文化になってて、いつもお世話になってる人にチョコレート贈るの」
あんたたちの分もあるよ、とアオイはカバンからおもむろに大量の小包を出してくる。ああ・・・そういう・・・と、浮き上がっていた気持ちが沈むのを感じた。
あれ、でも待てよ、と僕の目は彼らへの小包と自分の小包の違いを捕らえる。僕のものは豪華に飾り付けがされているのに、彼らへのものは明らかに簡易的なものだった。
どうやらシリウスもそれに気づいたようで、数秒まごついてから指摘する。
「な、なんか!!!リーマスのやつと違くねえ!!!」
僕のを指差して声を張るシリウスに、アオイは当然でしょ?という風に首を傾げた。
「当たり前じゃん。わたし今日リーマスとデートしてるんだから」
ねえ?と僕を覗き込んでくるアオイ。
なによりもその言葉だけで驚くほど気持ちが舞い上がってしまい、僕は黙ってひとつコクリと頷いた。
ああ、きっと顔が赤くなっていると思う。アオイはどうしてこうも、僕の心を揺さぶるのが得意なんだろう。
結局そのあとはみんなも合流して5人でホグズミードを回ることになった。
あの状況から二人でのカフェ巡りを強行できるほど僕の心は強くなかったし、やっぱりなんだかんだでいつも通りみんなで楽しく笑っているのが一番だ、とも思う。
だけど僕は今日、あえてこの言葉を彼女に向ける。
三本の箒でバタービールを飲もうとみんなで向かう道中、僕はなるべく自然にアオイの隣へと移動した。
少しくらい素直になろうという僕が初めて抱いた大きな決意と、かわいらしくラッピングされた小包を抱きしめて、アオイにしか聞こえないような小さな声で言う。
「また今度、続き・・・しようね?」
ヒソヒソ話はいつだって胸がドキドキする。
心音が高まるのを感じながらアオイの方を見ると、先ほどラテを飲んでいたときと同じような満開の笑顔を彼女は向けた。
「うんっ!」
バレンタインの魔法にかけられて。
殻の中にこもっていた恋心が芽吹き始めるのを感じた。