「スラグクラブのお茶会?」
「そう。よかったら一緒に行ってみない?」
お昼。今日はリリー達とランチをする日。
ペアを組ませることが多い授業をリリー達と受けているわたしは(仕掛人は偶数なのでいっしょにいるとわたしが余る。リリー達は奇数なのでわたしが入るとちょうどいい)、その流れで仕掛人かリリー達のどちらかとランチを一緒に済ますことが多くなっていた。
身の振り方というか行動パターンもずいぶん決まってきて、だいぶホグワーツにも慣れたなあと思ってきたそんな頃。リリーが新しいお誘いをしてくれたのだった。
スラグクラブかあ。原作や映画で得た知識があるため少し唸る。
「あれってスラグホーン先生が優秀な生徒とかコネクションがある生徒を招いてやってるやつでしょう?わたし成績底辺だし何のコネもないしなあ」
興味がないわけでもないけど、と思いながら渋い返事をする。そういえばルシウスさんとかもメンバーだったかな、あれ。セブルスはいなかったような。レギュラスもいないんだったっけ。
なんて一生懸命記憶の引き出しを探っていると、キョトンとしたリリーが首を傾げて言ってきた。
「何言ってるのあなた、日本の貴族の出じゃなかった?」
「・・・ソウダネ」
いけない、そんな設定あったのかんっぜんに忘れてた。そう思いながらカボチャスープを飲む。そういやその設定なら全然スラグホーン先生に呼ばれてもおかしくないわ。っていうかこれ呼ばれてんの?直々に声かかるもんじゃないの?
「まあ気乗りしないんなら無理にとは言わないけど。今回の集まりはメンバー外で呼びたい人を自由に呼べるものだからせっかくだしと思ったのよ」
「え、ありがとう。わたしなんかを嬉しい、ビッグラブ・マイエンジェル」
「ポッターみたいなこと言わないで頂戴。けっこう珍しいお菓子とかもあるし、スラグホーン先生は贔屓するって嫌がる生徒もいるけど悪い人じゃないし他寮の人と授業外で交流できるのっていいことだと思うわよ」
「ふむ、たしかに。じゃあ行ってみようかな」
なるほどリリーの厚意であれば受けない手はないだろう。わたしは軽くオーケーし、明日行われるお茶会に行くことにした。
「おや、リリーよく来てくれたね。ああ・・・、ミス・シーナを連れてきてくれたのかい」
翌日。スラグクラブに行ってみると原作を見てイメージしていたような室内にお菓子がたくさん置いてある丸いテーブルがあって、そこを取り囲むように順次来たらしい生徒が座っていた。
「こんにちは、スラグホーン先生。今日もよろしくお願いします」
「こんにちは、お邪魔します」
笑顔で先生に挨拶するリリーに並んでわたしもなるべく愛想よく振る舞う。まだ開始時刻はきていないようだけれど、ポツポツと座っている生徒たちを見た感じ学内でもそれなりに目立つ子が並んでいるように思えた。
特にお金持ちそうな子と成績優秀な子が多い。やっぱり自分がここにいるのは少し場違いな感じがする。
「リリー、・・・アオイ。好きなところに座るといいよ」
「はい、先生」
「ありがとうございまーす」
別に気後れするとかではないけれどなんだかなあ、と思って頬を掻いていたら先生に声をかけられた。この先生わたしのファーストネーム覚えてくれてたんだ。今までずっとファミリーネームでしか呼ばれていなかったから少し驚く。もちろん生徒として悪い気はしなかった。
じゃあどこに座ろうか、とわたしはリリーに声をかける。そうねえ、とテーブルを見回すリリー。その返答を待っていたら、後ろからンンッとわざとらしい咳払いが聞こえた。
反射的にそちらを振り向くと、そこにいたのは長身でプラチナブロンドが美しい男性と小柄で可愛い少年。
「あ、ルシウスさんとレギュラス」
そう、ルシウスさんとレギュラスだった。咳払いはルシウスさんだろう。彼が思いっきり眉を顰めているのでわたしは苦笑する。そんな嫌そうな顔しなくてもいいのに。そう思っていたらレギュラスが声をかけてきた。
「こんにちは。アオイさんもメンバーなんですか?」
「ううん、リリーが呼んでくれたの。レギュラスも呼んでもらったのかな?」
「はい、ルシウス先輩に」
笑顔で答えるレギュはかわいい。なるほど、ルシウスさんに可愛がられているようだ。まあそりゃマルフォイ家とブラック家だし、当然っちゃ当然かもしれないけれど。
そう考えるとつくづくシリウスは浮いた存在なんだろうなあと思う。
そういえば、とわたしはルシウスさんを見て口を開いた。
「ルシウスさんあのクッキーお口に合いました?」
「・・・ああ。悪くはなかった」
「ならよかった」
他の子には概ね好評だったもののリドルとヴォルデモートさんには散々甘いと言われたクッキー。不味かったとしても素直に言えないだろうところが手づくりお菓子の難点なんだけど、そういうのは気にせずわたしが作りたいから作ってしまうのである(潔癖な方は黙って捨ててくれればいい)。
まあお世辞でもなんでもそう言ってくれたのでとりあえず安心していると、低い位置から驚いたような声がした。
「え、アオイさんあれルシウス先輩にも渡してたんですか?」
「うん。レギュも食べれた?」
「あ、はい・・・。美味しかったです。ほんとにずいぶんと配ったんですね」
少し呆れたように言われわたしは苦笑する。まあこっちじゃあんまりない文化だし仕方ないか。
そんな会話をしているとリリーがまじまじとわたしを見ながら呟いた。
「アオイ・・・、あなた本当意外なところと仲良くしてるわよね」
目を丸くさせるリリーに相変わらずグリフィンドールとスリザリンの垣根を感じる。そもそもリリーはマグル出身だから純血主義のマルフォイ家とブラック家に身構えるのは当然だけど。
こういう出自の問題ってほんとどうにもならないんだから、もうちょっとなんとかなればいいのになあ。そんなことを考えながらわたしは答えた。
「レギュラスとは仲良しのつもりだけどルシウスさんはそうでもないよ。ねえルシウスさんもうちょっと仲良くしません?」
「・・・よくもぬけぬけと」
「ほらーまたそうやって威圧的な態度をとるー」
ヴォルデモートさんやアブラクサスさんのことを考えるとルシウスさんとの繋がりは切れないし、せっかくだったらもうちょっと仲良くしたいんだけどなあ。そう思ってバレンタインも渡したものの全く態度は軟化しない。
2人になるとやたら恭しくなるところもキモイからいっそフツーに友達になれたらなあとは思うんだけど(まあ思ってるだけでわたしもルシウスさんのことは苦手なんだけど)。ファーストインプレッションが最悪な相手ってなかなか仲良くなりづらいよね。
そうして立ち話を続けている間も続々と生徒が入ってくる。そろそろどこかに座らないとなあ、と思ったタイミングでスラグホーン先生が改めてわたしに声をかけてきた。
「アオイ。よければ私の隣に来ないか?」
「へ?あ、はい」
そう言われて見てみるとスラグホーン先生の隣は空いている。隣の隣も空いているのでリリーといっしょに座れそうだ。
いつまでもルシウスさんとしょうもないやり取りをしててもなんだし、別に断る必要もないかとわたしはそれを受けてスラグホーン先生のところへ向かった。
「こうやってちゃんと話すのは初めてだね。授業のほうはどうかな?」
「ああ、難しいけど楽しいです。いつも酷いものを提出してほんとすみません」
「いやいや。君はなかなか筋がいいよ、もう少し経験を積んで基礎が身につけば途端に伸びるだろう」
スラグホーン先生の隣に腰掛けたわたしはラングドシャを少し齧りながらお話する。先生のとなりじゃなかったら気にせずもっと食べるのになあ、と思いながらも豪華なアフタヌーンティーセットをそれなりに楽しんだ。紅茶おいしい。
「・・・君はグリフィンドール生なのにルシウスやレギュラスとも仲良くしているんだね。何かきっかけでも?」
「あー、レギュラスはたまたま図書館で一緒になって。ルシウスさんの方は、うーん、なんかちょっとややこしいというかなんていうかあれなんですけど」
そう、少し前にルシウスさんと二人で歩いているところを目撃されてからときどきこの関係性について聞かれるんだけどなんと答えたらいいのかわからなくて毎回困るんだよなあ。
わたしと彼の関係を明確に説明するにはそれこそヴォルデモートさんのことは避けて通れないので言えない。なんだかんだ日本の純潔貴族出身っていう投げやりな設定は役に立っているのでシリウスはナイスだったなあと思う。
まあ、もちろん仕掛人達はそんなの嘘ってわかってるから下手に問い詰められるとまずいのであんまり表立ったところでは話さないようにしてるんだけどね・・・。
ていうかそもそもスラグホーン先生ってわたしがトリップしてきたこと知ってるのかな?ダンブルドア、教員の誰かに話していたりするのかしら。そういえば今まであんまり気にしてなかったから聞いていない。今度聞いてみようかな。
「・・・よければだが。君もスラグクラブの一員にならないかな?何、ときどきこうやってお茶をするくらいのものだが」
そんなことを考えているとまさかのメンバー入り提案をされた。ふむ、まあリリーもいるしお菓子おいしいし特に断る必要もないかな。わたしは2秒でざっとそのあたりを考え二つ返事で了承する。
かくして本日わたしはスラグクラブ入りを果たすのだった。
会合の後、静まり返った教室内でスラグホーンは一人紅茶を飲みながらアオイの座っていた席を眺めてため息をついた。
これでよかったのだろうか。いや、いいのだろう。
この不安定な情勢だ。少しのきっかけさえあれば政権も思想もガラリと変わる。
ダンブルドアが保護下に置いている時点で、アオイ・シーナと関わりを持つことで自分の立場が悪くなることはけしてない。
もしも何かがあったとしても、彼女の授業態度はさして問題がないしただ目をかけてやっていたという一言だけでいくらでも逃れられる。
目を閉じるとまるで昨日のように浮かぶあの情景に年を取ったなと苦笑した。おそらく、いや間違いなく、アオイはあのまま闇の帝王と何らかの形で繋がっているんだろう。それも深く、密に。マルフォイ家とあのように関わっているということがより一層それを示しているように思えた。
躊躇ってしまうのは蓋をした記憶のせいだ。しかしこの揺蕩う状況の中、こうなることは人間として必至だろうとひとりごちてスラグホーンはティーカップを片付けた。