「だから何回言ったらわかるんだ!!!どこの誰がこんなご時世にホグワーツを抜け出してまでヴォルデモートに会いに行くって言うんだ!!!」
「このわたしだ!!!っていうかもう約束したってリドルこそ何回言ったらわかんの!!?」
男女のケンカが熱くなるのは、理性で語るか感情で語るかの違いがあるからだと思う。
冷静に考えればそうなんだろうなあとはわかるんだけど、わたしはいま感情で戦う獣なので理屈なんて通じません。ていうかリドルだって理性で語ってるフリしてるけど感情が嫌だって言ってるのを正論で包んで攻撃してきてるだけでしょう?
トリップして間もない頃はリドル相手に喧嘩するなんて想像もできなかったけれど、おそらくこれが慣れというやつだろう。犬だったらガルルルルと唸っているだろうというくらいの圧でわたしはリドルを睨みつけた。
喧嘩の火種はもちろん、わたしがイースターにホグワーツを抜け出してヴォルデモートさんに会いに行くと決めたことである。
ちなみにその取り決めをしたのはもうけっこう前のことで、その翌日にはすべての手筈が整えられていたためわたしとしてはもう完全に引き下がれないのだが、それでもリドルは何度も何度もわたしを引き止めようとする。
いや、心配してくれてるのはわかってるけどさあ!もうこの喧嘩するの何日目よ!!
「屋敷に行って危ない目に遭わされたらどうするんだ!」
「だからそのときはそのときだって言ってるじゃん!」
「お前についている僕の気持ちも考えろ!」
「別に好きで憑かれてるわけじゃないもん!!!」
こんなやり取りも本当にほとほと飽きたのだけれど、実は明日がそのXデーなのでまた一層ヒートアップしてしまっている。しょうがない。
まあリドルがわたしのためを思ってくれているのもわかるんだけど、でももうわたしも決めたのだ。虎穴に入らずんば虎子を得ず!正直この膠着状態とも言えるリドルとわたしの関係についても探りたい。わたしはこちらの世界に来て、あまりにも多くの疑問を抱いてしまった。普通の女子高生だったわたしが、そんな環境に居心地の悪さを感じないわけがない。
「・・・どうしてそこまでアイツにこだわるんだ。元はと言えば僕もアイツも同じ人間だ、何かあるなら僕に言えばいいだろう」
「それができないからヴォルデモートさんのところに行くって言ってんの!」
「!」
一際大きな声を出すと、リドルは一瞬言葉に詰まったように口を噤んだ。そしてわたしをじっと見る。
「リドルは、あたしに秘密があるでしょ」
「・・・なんのことかな」
「別にいいの、話せなんて言わない。わたしだってリドルに言えないことがあるから!
でも、だからこそ、自分で動いて調べたいと思うのはおかしいことじゃないでしょう?」
一気にそう言うと、リドルは眉根を寄せた。そして心底嫌そうな顔をした後、わざとらしく深いため息をつく。
「・・・話したところでお前には理解できないよ」
「なっ、」
「勝手にすればいいさ。だけど僕は何があっても助けないから」
「はいはい、助けなんて求めないで・・・ってちょっと消えないでよリドル!」
やれやれといった雰囲気でリドルはわたしに背を向けたかと思うと、わたしが全てを言い終えるのを待たずして消えた。
吐き出しきれなかった言葉はまた怒りの燃料となりフツフツと身体中の血が湧くように熱を持つ。
だれが!あんなやつに!助けなんて!求めるか!
わたしは苛々しながらがばりとベッドに入り毛布を被る。ぽてぽてと近づいてきた卿に赤ちゃん言葉でめちゃくちゃリドルの悪口を言い(ほんといやになっちゃいまちゅよね〜、卿もそう思いまちゅよね〜)、ある程度スッキリしたところでふて寝を決め込んだ。
まったくもって腹の立つ男である。
「きょうはまじで真剣にめちゃめちゃ勉強に打ち込むつもりだから部屋から一歩も出ない。絶対に邪魔しないで」
「それはフリ?絶対邪魔しろってこと?」
「んなわけないでしょ、っていうかそのギャグスタイルこっちにもあるんだ」
そして一夜明け。今日こそが学校を抜け出しヴォルデモートさんに会いに行くXデー当日である。
もう既にヴォルデモートさんからどこの抜け道を使うべきか(ちなみに5階の鏡の裏を使用する)、集合時間はいつか、抜け出した後は誰が迎えに来るか(まあやっぱりもちろんアブラクサスさんだった)などの説明は受けており、抜け道に行くまでのサポートはルシウスさんがしてくれることになっている。しかしなんかもう毎回めちゃくちゃにこき使われていてちょっと不憫になってきたぞ、ルシウス・マルフォイ。
もうここまで来たら本当に引き下がれない。わたしはドキドキしながらも、決行するのだから後は失敗しないように全力を尽くす必要がある。とりあえず朝食を食べながら、仕掛人たちがわたしの不在に気付かないようにするために小芝居を打った。
ちなみにリドルとはもう完全に冷戦状態だ。今日も一応起こしてはくれたけど肩をトントンされただけで一切口は聞いていない。いや起こしてくれるあたりかわいいんだけどさ、長年連れ添った喧嘩中の夫婦かよ。
しかし今朝のそれでだいぶ怒りは萎んだので(そもそもわたしは眠ると大概の事がどうでもよくなる)とにかく今日は無事に学校を抜け出し必ず無事に部屋に帰ってリドルと仲直りしようと心に決めたのだった。一応。
「もしわからないところとかがあったらいつでも聞きにきてくれていいからね、頑張ってね」
「ありがとうリーマス!でも今日は暗記系のこととかするつもりだから大丈夫だよ」
「アオイが部屋にこもって勉強かあ。四月だけど雪でも降るんじゃねえの」
「うるっさいわ」
シリウスから軽口を叩かれたので睨んでおいたけれど、安心してください、雪なんて降りません。勉強なんて真っ赤なウソでちょっとした課外学習に出るだけなので!!!無事にまた再会できることを祈っておいてくれよな!!!!
そしてわたしはごくごくとオレンジジュースを飲み干し、着替えるために一度自室に帰るのであった。あのかわいいワンピースを、ヴォルデモートさんに、見せたい。
「なんかほんと毎度すみませんね、ルシウスさん」
「いえ・・・主君の命なので」
着替えを済ませてルシウスさんと落ち合うと、彼はどこからどう見てもなんだかげんなりとしていた。まあそりゃ当然か。こんな小娘のために毎度毎度都合のいいように使われて、プライドの高い彼がうれしいはずがない。
「それよりも、相変わらず貴女の行動には驚かされます」
「あー・・・アブラクサスさんからぜんぶ聞いてるんですね」
「まあ。また帰りも迎えに来ますので」
「ほ、ほんとごめんなさい・・・」
苦笑を浮かべるとルシウスさんは長い息をつく。なんかほんとさすがにかわいそうだな。
「あ、あの、ヴォル・・・れ、例のあの人にもうちょっとルシウスさん使いなんとかしてあげてって言ってみましょうか?」
「おやめください。というかそもそもそんなことをあの方に言おうとするなんて、本当に貴女はいったい何者なんですか・・・」
「ははは」
そう呟いた彼はまたながーいため息をついて額に手を当てた。ああ、なんか、ほんと禿げそうだなこのひと・・・ごめん・・・。
「では、私はここを見ているのでその隙に貴女はどうぞ」
「はーい、ありがとうございます!あとねえやっぱり敬語やめてもいいです?わたしルシウスさんともうちょっと仲良くなりたいんですけど」
「・・・お好きにどうぞ」
ハアーーーーー。3度目の長いため息が終わるより前にわたしはルシウスさんに背を向け、目当てである鏡の前へ向かう。
その裏の道はホグズミードに繋がっており、そこではアブラクサスさんが待っていてくれているのだ。
リドルと喧嘩をしたこともあって多少ナーバスになっていたけれど、いざ学校を出るとなるとちょっとわくわくしてきた。そういう自分のアホなところ、嫌いじゃない。
よし。
無限の彼方へ、さあ行くぞ!!!