嘘つきはどこへ



「やあアオイ、久しぶりだね」
「お久しぶりですアブラクサスさん!今日はほんと、わざわざ迎えに来てもらってすみません・・・」
「いやいや、面白いから構わないよ。まあ君の行動には驚いたけどね」
「それルシウスさんにも言われました〜」


鏡の裏には道があり、それをてくてくと歩いて端の方まで行くとアブラクサスさんが待ってくれていた。そこから二人で誰にも見られないよう気を配りながらよいしょと抜け出し、ホグズミードを少し歩いた先にある暗い林へと向かう。
学生がこんなところにいては目立つのでフードのついたケープを渡されていたのだが、それが功を奏したのか特に視線は感じなかった。辿り着いた先で、わたしはアブラクサスさんに腕をしっかりと掴んでおくように言われたのでそれに従う。姿くらましをするようだった。

「じゃ、いくよ」
「はい」

「ワン、ツー、・・・」


スリーの言葉は途中からエコーがかったように不思議に響いた。そしてギュインと何かに引っ張られるような感覚。慣れればそうでもないんだろうけど、ちょっと酔いそうだと思った。目が回る。


そのぐらぐらは突然収まり、気づいたらわたしは知らない土地に立っていた。両足にズドンと重力を感じ、その後からだ全体の感覚が戻ってくる。


「さ、これからまだ少し歩くよ。私からけして離れないようにね」
「はい!」

わたしは元気にアブラクサスさんに相槌を打った。二度目のヴォルデモートさんの屋敷。
本当にこれでよかったのかな、などの不安や心配はもちろんあるけれど、それ以上にワクワクと胸がはやる。
ドキドキしながらアブラクサスさんの側を歩くのだった。



























数ヶ月ぶりにきた闇陣営の本拠地は相変わらず薄暗くて、あの日「こんな暗いところにいたら鬱になるぞ」とめちゃめちゃビクビクしながら心の中で叫んだことを思い出した。
あのときはルシウスさんに完全に騙されて連れてこられていたけれど、今日は自らここに足を踏み入れているのだから人生というものは何が起こるかわからない。
道すがらアブラクサスさんはわたしが身にまとっているワンピースやヘアピン、バレンタインに贈ったクッキーなどを褒めてくれていた。その褒め方はとても穏やかで嫌味がなく、ただただ嬉しい気持ちにしてくれる。

最初に会ったときのルシウスさんも、第一印象としては品があるイギリス紳士といった感じだったので、あれは父親譲りだったのだろうとふと思った。


そしてわたし達はついに、目的地であるヴォルデモートさんのお部屋に辿り着く。


「では、私はこれで。
帰りはまた迎えに来るからね」
「本当にマルフォイ親子には頭が上がりません・・・」
「はは、主君の命だから気にしないで」

そう微笑むアブラクサスさんにわたしも笑顔を返した。またルシウスさんと同じことを言っている、本当に親子だなあと少しおかしくなる。

前回も訪れた荘厳な扉の前に立ち、わたしはゴクリと一度唾を飲んでコンコンと扉をノックした。入れ、と聞こえた声はもう十分に聞き慣れたそれで、わたしはやたらと重い扉を力を込めて開ける。


「・・・お邪魔します」
「ああ、よく来たな」

ひょっこり顔を出してわたしが挨拶をすると、自分のデスクに座っているヴォルデモートさんと目が合った。
ああ、きょうも綺麗な赤色をしている。


「こんにちは、ヴォルデモートさん」


どき、どき。
久しぶりに会うからなのか、自ら闇陣営の本拠地にわざわざ学校を抜け出してまでやってきたという危うさからなのか、その瞳にまた見つめられたからなのか。

わからないけれど高鳴る胸を押さえて、わたしはその室内に一歩足を踏み入れる。



「座れ」

ヴォルデモートさんは、前回もわたしを呼んだソファを示した。わたしはハイ、となるべく元気よく挨拶を返し、反対の足も前へ。
完全にその部屋に入ってしまったわたしは、なるべく音を立てないように扉を閉める。


作り出された二人きりの空間に、わたしは心を落ち着かせるかのように自分の髪をサラリと一度撫でた。




































「あっれー?おかしいな」


同時刻、悪戯仕掛人の四人はいつも通り自室でアニメーガスになる練習をしていた。非常に難しい術ではあるが、ジェームズとシリウスはずいぶん成果を上げてきている。完全に変身できるようになるのもそう遠くはないように思えた。
まあ、残念なことにピーターはまだまだ努力の必要がありそうだが。


ある程度練習を終え、そろそろ休憩するかと各々自分のベッドに転がったり甘いものを口にしたりしていたとき。
ジェームズが突然素っ頓狂な声を上げた。


その声に一番近くにいたシリウスが反応する。


「どうしたよ、プロングス」


声をかけられたジェームズの手には、ただいま開発中の忍びの地図がある。時々不具合は生じるもののもうあらかた完成しており、出来上がったらアオイにも見せてやろうと皆で話していた代物だった。


「いやー、いつも通りリリーがどこにいるのか見守ってたんだけどさあ」
「お前まじでその地図をストーキングに使うのやめろよ・・・」
「ずっと部屋にいるって言ってたアオイの姿がどこにもないんだよね」
「え?」


その名前を聞いてシリウス、リーマス、ピーターがわらわらとジェームズのベッドに集まってくる。

首を傾げながらリーマスが聞いた。


「疲れて散歩してるとかじゃないの?」
「いや、そうかなあとも思ったんだけどどこにもいないんだよね、たぶん・・・」
「んー?見せてみろ」


シリウスとリーマスが身を乗り出し、ピーターもそれに続く。そして三人でしばらく探してみた結果。


「いねえな」
「うん」
「し、忍びの地図のバグかなあ・・・」
「まあまだ作成途中だからねえ」


でもなあ、とジェームズがウーンと唸る。もう一度アオイの名を探すように指で地図をなぞった。


「ねえ、ちょっとアオイの部屋行ってみない?」
「は?」
「え、だ、だめだよ、今日は絶対来るなって・・・」
「そうは言ってたけどさー」


ジェームズは髪の毛をいじり、くりくりと癖をつけながらにやりと笑う。


「アオイ、押しに弱いし別に怒らないって!」
「あのなあ・・・」


ハァーとシリウスはため息をつき、ピーターはそれを見てオロオロする。
そんな三人にやれやれと思いながら、リーマスは地図を見つめた。

たしかに、まだ改良中ではあるけれど。
それでも誰かの姿が完全に消えてどこにもないだなんて、そんなことは今までなかった。・・・いや、今までもあったけれど気づいていなかっただけなのだろうか。


それとも、実は、本当に。



リーマスはもう一度、アオイの名前を探そうと隅から隅まで視線を彷徨わせるのだった。



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