「んーーーいいにおい」
きょうの晩ごはんはなんだろう、そう思いながら大広間から漂う匂いをかいで頭を動かす。やっぱり外国の料理というものはなかなか日本人が記憶を頼りに考えたところではピンとこないものが多く、だいたい当たった試しがない。それでもこう、嗅覚から何かを連想するというのは本能に染み付いたものだと思うのだ。
ダメ元でわたしは思考を続けてみる。そうしていると後ろから聞き慣れた声に名前を呼ばれた。
「あっおいアオイ!」
振り返るとそこにはシリウス、というか悪戯仕掛人の皆様がいて、声を発したのだろうシリウスがぶんぶんと手を振っている。朝食ぶりの再会なので大した時間は経っていないが、正直もう会えない可能性すら視野に入れていたため少しだけ感慨深かった。
わたしもゆるく手を上げて足を止め、彼らが近づいてくるのを待つ。
「やほー。きょうの晩ごはんなんだろね」
「ミートパイはありそうだな」
「あ、たしかに」
そういえばこれはミートパイのにおいか、などと考えているうちにみんながわたしのところまできたので合流してそのまま食堂へ向かう。もう既に結構な人数が着席しているのだろう。楽しそうな話し声はいかにもホグワーツといった感じで非常にいい。
闇陣営の本拠地はあまりにも辛気臭かったから、やっぱりわたしの帰る場所はここだなあとしみじみ思う。そういえば彼はあの陰気な孤児院ではなくホグワーツの方を愛していたというのに、どうしてもっと明るい雰囲気にしないんだろう。まあでも楽しいBGMが流れる中デスイーターの活動なんてできないか。
そんなどうでもいいことを考えていたとき、突然ジェームズに話しかけられた。
「ねえきょうアオイ自分の部屋にいなかったでしょ」
「はっ?」
あ、やばい。大きい声が出た。自分の声に自分でびっくりしつつ、なんでこいつそんなこと知ってんだとわたしは彼を見る。あ、もしかして忍びの地図でばれた?えっもう完成したの???早くない????天才???????
「あ、やっぱり。そうだと思った」
「いやいやいや。部屋にいたわよ、なんでよ」
「ほんとかな〜〜〜???」
じとー、とジェームズは疑うような視線を向けてくる。しかし口元は笑っている。これは確信しているというよりカマをかけているのでは?そう思いわたしは口を開く。そうじゃなかったとしても、こんなん認めなかったらどうとでもなるでしょ!!!!!(悪徳政治家みたいだなって自分でもわかってるよ!)
「ホントだってば。え、もしかして部屋きてた?気づかなかったんだけど」
「いや部屋には行ってないよ、行こうかなーと思ったんだけどリーマスに止められて」
「(ナイスリーマス!!!)」
わたしは心の中でリーマスに死ぬほど頭を下げめちゃくちゃ拝んだ。もちろん直接感謝を述べるわけにはいかないので!
「まあ来てたとしてもぶっちゃけわりと昼寝とかしちゃってたから気づかなくて当然なんだけどね!っていうかなんでわたしが部屋にいなかったって思ったの?」
「ん?ンーーーーーーーーどうしよ教えるか迷うなあ」
「ハァー?なにそれ教えてよ」
笑いながらそう言うとジェームズはもったいぶるかのように手を口元に当て考えるようなそぶりを見せる。それを見て少しだけほっとした。話の流れが変わったから、もう不在について言及されないだろう。
女は男より嘘をつくのがうまい。男は嘘をつくとき目を逸らしがちだが、女は嘘をつくときその相手の目をじっと見つめることができる。その話を聞いたとき、まるで嘘は女のためにあるようだと思った。
まあ変に長く見つめてもおかしいので、わたしはいつも通り少しだけジェームズと目を合わせた後ぽかっと彼の肩を軽く叩いて視線を前に戻す。
痛いなあ、と大げさに声を上げる彼に笑うとみんなもつられて笑った。そうこうしているうちに大広間についたので、わたし達はいつも通りのおいしそうなディナーが並ぶ食卓にいつも通り腰掛ける。切り抜けた。よかった。
「へー!賢い賢いとは思ってたけど、そんなこともできるんだ。それ相当難しい魔法じゃない?」
「まあね!」
食事をしながら、なんだかんだで彼らは忍びの地図について教えてくれた。開発中のそれはもうほとんど完成間近であることや、その地図の中に今日わたしがいなかったことなど。
シリウスが予測した通りきょうはミートパイが出ていた。もちろん他にも山ほどおいしいご飯がある。しかし今日は知っていることについて知らないふりをして話さないといけなかったので正直食事どころではない。無知の演技をしながら聞くというのは、嘘を二、三つくより格段に難しいとわたしは内心頭を抱えたくなっていた。
「うーん、わたしが来たのは最近だからわたしには魔法がうまくかかってなかったとか?あ、地図自体にかけてあるものだからそれは関係ないのか」
「ウン、そうだね。まあでもアオイの部屋は僕たちも最近知ったからそこまで意識してなかったし、魔法にムラがあった・・・とかはありえるけど」
「なるほど」
「でも理論上忍びの地図にはすべての部屋・すべての抜け道がきちんと反映されているはずなんだ。これを作ったことで知れた部屋もあるし」
「へー、すごいね」
聞けば聞くほど彼らは優秀だ、と思う。こうやって説明をしているのはジェームズで、まあどうにも鼻高々というか僕すごいでしょ感がにじみ出ているけど、そうなるのも当然だろう。まだ若いのにこんなに才能に恵まれているんだから。
「まあでも正直わたしが部屋にいるかどうか遠隔から確認されてんのキモイから不具合ならこのままでいいけどね。それわたしがトイレ行ったりお風呂入ったりしててもバレんの?」
「ん?うーんざっくり部屋としか示されてないからそんなわかんないよ。まあ足跡でだいたいどの辺にいるかわかるから予測はつくけど」
「キッモ。わたしの部屋は範囲外にしてよ」
「それ逆に難しいんだよ〜、普段はちゃんとアオイ反映されちゃってるし」
やっぱりたまたま出たバグかなあ、とジェームズは唸る。しかしわたしはその話を聞いて少しだけほっとした。
どうやらリドルの存在は感知されていないらしい。それは非常に大きいことだ。現時点でここまでしっかりとした精度なのであればこの先改良をしたところでリドルは映らないだろう。十分だ、と思った。だってリドルは今もわたしといっしょにいるわけなんだから。
いないはずの男の名前がずっとわたしの側にあったらさすがに怪しまれるのは避けられないし、そうなったときにまで誤魔化せるほどわたしの頭は賢くない。
そう考えているとわたしの逆隣に座っているリーマスから声をかけられた。
「ジェームズ、話に真剣になりすぎてアオイが全然食べれてないから後にしてあげなよ」
「あっ、それもそうだね」
前にかけているシリウスからも「アオイ喋りながら食べると亀より鈍いもんなあ」と言われ、そのとなりに座るピーターもそれに同意するかのように少し笑った。
亀よりのろいは言い過ぎだー、などと茶化しつつ、この話が終わりそうなのに少し安心する。きょうはもうさすがに頭を使いすぎて疲れた。
そういえば今日はみんなは何してたの、と軽く聞き返し、みんなが少し詰まりながら会話をしているのを聞きながらおいしい食事にありつく。
たぶんみんなはアニメーガスの練習をしていたんだろうなあ。時折意味深に目を合わせあったり、アー・・・といいながら右上を見たりする彼らを見て男の子はこれくらいわかりやすいのがいいなと思った。
ヴォルデモートさんやリドルも、もうちょっと単純明快だったらいいのに。