届かない声に耳を傾けても


ダンブルドアから運動会開催権を無事にゲットしたことだし、来年度からと言ってもいろいろ今から決めていきたいなあという思いは募るばかりなのですが。


「ねえねえ、わたし的にはやっぱりパン食い競走は外せな」
アオイ、勉強しようね。
「はい・・・」


近づく学年末試験を前に、一般生徒のみならず悪戯仕掛人までもが勉強に追われています。いや、正しくはジェームズはクィディッチの試合に向けて忙しいだけで実際勉強してるのはリーマスとピーターだけなんだけど。シリウスもいっしょに席についてはいるものの落書きしたり関係のない本を読んだりでまったく勉強してないし(それでも机に向かっているだけ今年は珍しいらしい、何もしなくても頭のいい男はやっぱ違う。腹立つ)。

そして結局わたしとピーターのお守りを一生懸命リーマスがしてくれているのだ。お礼を言っても言い足りない。今度何か甘いものを献上しないといけない。


「うん、まあこれで呪文学もギリギリ赤点はまぬがれるんじゃないかな。他に心配なのはある?」

ここ数日缶詰状態で、なんとか呪文学と変身術はマシになった。いやまあ他にもやばいのは死ぬほどあるんですけどね!!!魔法薬学はこないだヴォルデモートさんに見てもらったおかげで多少改善されたけど、もはやその3つ以外は死んでいます。とくに!!!!

「ま、マグル学が・・・やばい・・・」
「それはシリウスに見てもらうしかないね」

顔を引攣らせながらそう言うと、バトンタッチというようにリーマスがシリウスを見た。それを受けてシリウスは眉を思いっきりひそめる。

「はあ?おいなんでマグル学わかんねえんだよアオイ、お前そのへんのマグル生まれよりマグル歴長いじゃねえか」
「生きてる時代が違いすぎるのよー!!!!!!わたしはスマホ世代なのにいまはポケベルすら生まれていない!!!いいからわたしが転校してくるまでのノートを貸せェ!!!!!」
「つってもなあ」

必死に迫るとシリウスはボリボリと頭を掻き自分のカバンを開いたが、そこから出てきたノートは表紙からしてとても綺麗でもはや使われた形跡がなく。


「俺天才だから一回話聞くとだいたい覚えちまうんだよな」
「は?まじで言ってる?たしかにいつもノート取ってないけどそれはわたしと雑談してるからで、わたしが来る前はちゃんと取ってたんだと思ってたのに」
「考えてもみろ、俺がまじめにノート取ってる方がキモいだろ。マグゴナガルの授業とかならともかく」
「まあマグル学の先生優しいもんね」

そんな先生にわたし達はたまに私語で怒られるんだけれども!(シリウスがめっちゃ楽しそうにわたしの生きてた世界の話聞いてくるからつい)
しかしそうなるともう教科書を丸暗記するしかないのかあとわたしはため息をつく。なんだかんだ先生のノートがいちばん覚えるのに最適なんだけどなあ。

そう嘆いていると哀れに思ったのかシリウスが口を開いた。


「まあわかんねえとこあるなら説明してやるよ、どのへんがわかんねえんだ」
「ぜんぶ」
「教科書5回読んでから来い」


辛辣な言葉にわたしは思わず机の上に突っ伏す。そう、シリウスは間違っていない。マグル学や魔法史は言うなればただの暗記科目、死ぬ気で覚えればなんとかなるし誰かに教わるべき教科でもない。

しかし、何を隠そう、わたしは暗記科目が世界でいちばん苦手なのだ。世界史が、日本史が、地理が、とにもかくにも嫌いだったのだ・・・!!!


「暗記パン・・・ほしい・・・」
「なんだそれ」
「パンに覚えたいことを写してそれを食べたら絶対に覚えてられるの。トイレで出しちゃうまでの時間限定だけど」
「ぼ、僕もほしい」
「バーカ、どんだけ食うつもりだよ。いいから黙って勉強しろ」
「うわーんリーマス!!!シリウスに正論で諭された!!!!!死にたい!!!!!」
「はいはい、頑張ろうね〜」




























「あたま爆発しそう・・・」


こんなに勉強するの、いつぶりだろう・・・。途中で完全に集中力が切れたわたしはふらふらと校庭を彷徨っている。もう初夏だ。
この世界にトリップしてから、なんだかんだでもう五ヶ月近い。そう考えるとあっという間というか、いろんなことがありすぎたなあとため息をつく。年は少し離れているもののお友達はできたしみんな優しくていい子だ。それは本当にありがたいことだなあと思った。

それに男子とつるむというのはわりと楽でいい。さっきも休憩する!ちょっとひとりでうろうろしてくる!と言ったらみんな特についてこようともせず好きにさせてくれた。
こういう付かず離れずの距離間はなんだかんだで寮生活が育んでくれているような気もする。ずっとべったりだとさすがにみんな疲れるしね。ひとりの時間も人間必要なのである。

空を見上げると雲ひとつない晴天だった。
初夏というのは気持ちがいい。わたしはひとつ伸びをする。うーん、試験さえなければもっと春から夏にかけてのこの気持ちのよいお天気を楽しんだのに・・・。

わたしはボフっと音を立てて芝生に座り込んだ。向こう側にある池は太陽の光を浴びてキラキラと反射し美しい。せっかくだしあそこまで行けばよかった、と思いながらも一度座ると動く気にならなかった。それに向こうにはわたしと同じように勉強に行き詰まったのか、結構な数の生徒たちがおしゃべりに花を咲かせているように見える。
いまはなんとなくその群に混ざりたくなくて、わたしはそのまま仰向けに寝転がった。

あ、気持ちいい。
今日はお休みの日なので制服ではなく、丈の長いワンピースを着ている。これならパンツは見えないだろうしいいよね、などとどんどん自分を甘やかす方向の言葉ばかりが脳みそを駆け巡り、それに比例してわたしのまぶたはズンズン重くなる。
いいよね、ちょっとくらい。
15分だけ・・・。


そんな人生において守られるわけない自分との約束ランキングトップ3に入りそうなことを考えながら、わたしは簡単に意識を手放したのだった。


















『アオイさん』

うん?


『アオイさん・・・』


なあに?



『どうやら僕はあなたとの約束を果たせないみたいです』



えっ?



ーーー聞き覚えのあるような、ないような声がわたしを呼ぶ。

それはとても優しげで、でも悲しくて。



ああ、わたしはこの夢を、前にも、見たことがーーーーー・・・・・。




『忘れないで、アオイさん』
『どうか僕を覚えていて』
『もう二度と会えなくなってしまうけれど』
『あなたを見つけることも、結局できなかったけれど』

『それでも』

『それでも僕は』


『いまでもあなたに会いたくて』




『あなたを』


『あなたを愛しています』










「ッ!!!!!」


がばっ。

なにか答えようとしたのに口は動かず体は言うことを聞かず、必死で呼吸をしたわたしは勢い余って夢から覚める。



ゆ、め。



破裂しそうな程暴れる心臓。どうしよう、どうしよう、どうしたらよかったんだろう。
冷静さを欠いた頭で精一杯思考をしようとした時。



「・・・大丈夫ですか?悪い夢でも見ました?」
「えっ」
「おはようございます。こんなところで寝て、試験前に風邪を引くつもりですか」


突如隣から聞こえてきた声にびっくりして目をパチクリしながらそちらを見ると、なんとレギュラスがそこにいた。よく見たら男物のパーカーが自分の体にかけられている。
え、これレギュの?状況を飲み込めずわたしは固まる。



「い、いま、なんじ?」
「5時半です」
「うっわ寝すぎた・・・」
「一応軽く起こしたんですよ。でもぜんぜん起きないから」
「う、上着ありがとう・・・ごめん、寒かったよね」
「最近はあたたかいので大丈夫です。それよりスカートで寝ないでください、はしたない」
「ご、ごめんよ・・・」


まるで世話焼きの弟だ。小さく小言を言われてわたしは苦笑する。レギュラスは魔法生物学の本を持っていた。わたしにパーカーをかけて、そのまま隣で勉強してくれてたんだろう。


「あまり無理すると体に障りますよ。あなたは転校生なんだからある程度あきらめて試験に臨んでもいいのでは?」
「いやーいま諦めるとまじで地獄を見そうなんだよね・・・」
「まあ、基礎がない状態だと厳しいですよね。まったく、一年生から入ればよかったのに」
「あ、それならレギュと同級生かあ。それもそれで楽しそう、それならスリザリンに入りたいな」
「・・・そうですか」

にっこり笑うと心なしか照れたようなレギュラスがぽりぽりと頬を掻いていてかわいい。わたしはそれに癒されてなんだかほっこりする。


「まあ、僕でよければわからないところは多少教えてあげますよ。ブラック家は入学前にホグワーツで習うカリキュラムを全て履修しているので」
「は?まじ?ちょう英才教育じゃん魔法生物学教えて」
「流れるように頼みごとをしますね、まあいいですけど」

呆れたようにレギュラスが笑うのでわたしもつられて笑ってしまった。
いい先生を見つけた、と喜びつつ、これをきっかけにもっとレギュラスと仲良くなれたら嬉しいなあと心の中でにやにやするのだった。

にしてもさすがブラック家である。そりゃシリウスも優秀なわけだ。


少しずつ日が傾いてきて、赤色が向かいの湖を優しく染める中。わたしはレギュラスと他愛もない話をしながら、いっしょに魔法生物学の本を読んだ。

初夏の香りが鼻腔をくすぐる。ツンとした癖の強いドクダミの匂いが遠くの方から風に乗ってやってくる。きついはずのそれも彼方にいれば幾分柔らかく感じられた。割と嫌いじゃないんですよね、この匂い。そうレギュラスが呟いたのでわたしはへぇ、と相槌を打った。

今日は何故だかレギュラスのことをもっと知りたいように感じた。


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