いっそ攫ってくれたら、


「はーーーー?!?!?!バッッッッッカじゃないの?!?!?!?!?!?!」
「いやあそれほどでも」
「褒めてないわよバッカじゃないの!!!!!」


今日は日曜日。ついに明日から学期末試験が始まる。昼ご飯を終えて仕掛け人のみんなと図書館へ、と思っていつも通り声をかけたらジェームズに「ごめん、今日はリーマスとふたりで勉強してて」と言われた。ので、なんで?何かあった?と聞いたところ。


「なんで明日から試験のタイミングでいたずらして罰則くらってんのよアホか!!!!!」
「うっ・・・うぅ・・・」
「ピーター泣いてるけど無理やり付き合わせたんじゃないでしょうね!」
「ち、違うよ・・・僕もちょっと鬱憤がたまってて・・・」
「そっか、それは仕方ないね」
「お前ピーターにやたら優しくねー?」

シリウスからのツッコミ無視してわたしはため息をつく。まあジェームズとシリウスは勉強なんてしなくても余裕なんだろうけど、ピーターはわたしと同じくらいやばいのになあ。自業自得だけどさ〜。

「今から罰則なの?何させられるの?」
「知らね。とりあえず行ってくる、なるべく早めに終わらせる」
「ていうかそもそも何して罰則くらったの?」
「フィルチのまわりでネズミ花火やった」
「ばかなの?」


でも危険はないよう注意してやったんだぜ、とかなんとか言ってるけどわたしは聞こえないふりをした。こういう無鉄砲というかすぐ調子に乗るところ、ほんと13歳だわ・・・。
まあでも呆れてもいられない、このメンバーの中で一番成績が危ういのはこのわたしだ。切り替えて勉強勉強!心の中でそう呟いてわたしはリーマスと図書室へ向かった。



















「ごめんねリーマス、リーマスも試験前なのに」
「ううん、困った時はお互い様だから気にしないで」

そしてリーマスとふたりで勉強することになったのだが、リーマス、まじで、気が利きすぎてやばい(あんまりよくない意味で)。
勉強していてわからないところが出てきて自分なりに調べてもダメであきらめそうになったタイミングで毎回声をかけてくれる。それが本当にびっくりするくらいベストタイミングなのだ。わたしのせいで彼はまともに勉強できていないのでは、そう思いながらもだいたいそのときはめちゃめちゃ頭を抱えているので解説してもらってしまう。しかもまた解説がべらぼうにうまい。


「リーマス、ぜったいいい先生になるよ・・・」
「えー?そんなことないよ」

なるんだよ・・・。目の前のリーマスは少し照れたように笑っているが、わたしは知っているのだ。リーマスが将来最高の教師になることを。
もしかしたらまだ彼は自分の将来についてそこまで考えていないのかもしれないけどそんな日が来るのが楽しみだ。・・・その頃わたしはどうしてるんだろう。全く想像つかないな。まあ今は目の前の勉強に集中するしかない・・・とはいえ2時間くらいぶっ通しで勉強してるからけっこう疲れてきた。

「そろそろちょっと休憩する?いっしょにチョコレートでも食べない?」
「食べる!」

なんて思ったタイミングでこの声かけ、流石である・・・。図書室ではあまりお話もできないしお菓子も食べられないので、ひとまずふたりでちょっと外に出ることになった。









「これおいし〜!期間限定のやつ?」
「うん、毎年この時期に出るんだ。定番商品になったらいいんだけど」
「ほんとだね〜」


そしてわたしとリーマスはふたりで廊下にあるベンチに腰掛けてお菓子タイムを楽しむことにした。リーマスがくれたシトラスフレーバーのチョコレートは甘いけれど甘すぎずとってもおいしい。わたしもちょうど持っていたクッキーを出してふたりで交換する。
リーマスといっしょにいるとすぐにこういうお菓子パーティを始めてしまう。物腰穏やかだしのんびり話すのも楽しいんだよね。


「どう?他の教科はどんな感じ?」
「どうだろ・・・なんかやればやるだけ不安になるよね、テスト前って・・・」
「わからないところが明確になってくるからね。僕もよくそうなる」
「あはは、リーマスとはレベルが違いすぎるだろうけど」
「魔法薬学に関しては僕もアオイやピーターのことを言えないよ」

そうやって彼は苦笑いする。たしかにまあリーマスの魔法薬学の成績が悪いのはわりと見て取れるんだけど、それでもわたしやピーターと比べたら雲泥の差である・・・っていうかそこまでやばいのになんでピーターはいたずらに参加したのかねえ・・・。


「ジェームズとシリウスはともかく、ピーター試験大丈夫かな・・・」
「なんとも言えないね・・・」

ふたりで顔を見合わせて苦笑する。今頃彼らはいったいなんの罰を受けさせられているんだろう・・・トロフィー磨きか校舎の掃除かはたまた・・・。
なんて考えていると、リーマスがおもむろに口を開いた。


「・・・あのさ、アオイ」
「んー?」

わたしはリーマスの持っている缶の中から当然のようにチョコレートをつまんで、口に入れながら首を傾げる。
そしてリーマスのほうに顔を向けて、直感的にヤバいと思った。なぜなら彼の顔が本当に真剣だったから。


「・・・どうしたの?」
「ひとつ聞いていい?」
「うん」

リーマスの表情には酷く迷いが見られる。気まずそうに揺れる瞳から、楽しい話ではないと察した。

二三、視線をさ迷わせたあと意を決したように彼は続ける。



「・・・あの日、本当は部屋にいなかったよね。」


やっぱりその話か。そう思いながらもわたしはとぼける。



「あの日って?」
「アオイが部屋で勉強するって言った日。地図に写ってなかったって言っただろう?でもおかしいんだ、あの地図に間違いはないから」
「やだなあ、ジェームズもうまく魔法がかからなかったのかなーって言ってたじゃん。わたしは部屋に・・・」
「嘘だ」


リーマスは苦い顔をして一度わたしから目線を外したあと、ひとつ息を吐いてわたしを射るように真っ直ぐ見た。



「嘘だ。・・・あの日、ルシウス・マルフォイといっしょにいたよね?」
「!」


見られてたなんて。わたしはびっくりして目を見開く。落ち着け、落ち着け、そう思っているけれど眉を顰めるリーマスに何も返事ができない。
どうしよう、どこまで知られているんだろう。わたしが校外に出たところももしかして見られている?知っている上で泳がされていたら?回答を間違えてはいけない。



「アオイ。・・・教えて、どうしてあの日僕らに嘘をついてマルフォイといたの?」


勇猛果敢なグリフィンドール。その寮の名に恥じないくらい、リーマスの目は真っ直ぐだった。
わたしはといえばどこまでも宙ぶらりんだ。ここで本当のことを話したら彼らはなんとかしてヴォルデモートさんやリドルとわたしを離そうとするだろう。でもそういうわけにはいかない。なぜって?なぜなら危険だから。彼らを巻き込むわけにはいかない。・・・本当に?それだけの理由?

ただ何も知らない元気で明るいアオイちゃんとしてみんなと学園生活を楽しみたいからじゃなくて?ヴォルデモートさんやリドルとも、これまで通り接し続けたいからじゃなくて?
両方のいいところ取りをしたいだけじゃないの?いまの自分がかわいくてかわいくて仕方ないんじゃないの???


わたしは何も言えず閉口する。リーマスの視線が痛い。本当に何も知らない、無邪気で明るいアオイちゃんだったらよかったのに。
でもわたしはこの世界の、目の前のリーマスの、いつも一緒にいる友達の過去や未来を知っていて。
リドルがわたしの存在によって生まれたこと、ヴォルデモートさんがなぜかわたしに特別目をかけくれていることも知っているんだ。両方、切り離せない。捨てられない。選べない。




『・・・アオイ』


耳元で、リドルの甘い声がした。



『コイツの記憶、消してあげようか』



君ができないって言うのなら。



歌うようなリドルの声は妖しくわたしの脳味噌を揺らす。やっぱりあの日、スリザリンに入ったほうがよかったのかも・・・なんてどこか他人事のように考えた。



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