それくらいの責任は取るわよ



「・・・見られちゃってたんだ」

わたしはリドルの声を無視して、わざとらしいくらいに困った顔をしながら口を開いた。


「心配させたくなかったから黙ってるつもりだったんだけど・・・余計に心配させちゃったよね。ごめんね」

俯きながらぽつりぽつりと言葉を紡げば、リーマスはおろおろしながら声をかけてくれる。



「もしも、アオイさえよければ・・・教えてくれるかい?いったいマルフォイと君の間に何があるのか」


少しだけ沈黙し、視線をさ迷わせた後わたしはゆっくり頷いた。


ああ。
こんな人間になりたいわけじゃ、ないのに。

















「トリップしてすぐの頃、わたしが学習用具とか買いにひとりでダイアゴン横丁に行ったの覚えてる?」
「うん」
「実はあのとき、フルーパウダーにむせてうまく発音できなくて・・・たどり着いたのはノクターン横丁だったんだ」
「なんだって!?」

わたしはぽつりぽつりとあの日の出来事を話す。もちろん買い物の日に何が起こったかなんて仕掛け人のみんなには言ってなかった。だってルシウス・マルフォイに捕まって例のあの人と対面してたなんて言われた彼らがどう反応するかわからなかったから。
・・・いや、あのとき言っていればよかったのかもしれないけど。


「で、まあちょっと怖い目に合いかけてさ。そこを助けてくれたのがルシウスさん」
「なぜアイツはそんなところに?」
「その時は友人が呪いの品をプレゼントされたからその関係で来たって言ってた」
「・・・呪いの品を贈りたい、の間違いじゃなくて?」
「あはは、今となってはそうだったのかもと思うけど」

軽く笑い飛ばしてみたものの、普段温厚に見えるリーマスでもやはりルシウスさんに対する負のイメージってすごいんだと少し驚く。
これがグリフィンドールとスリザリンの差。・・・これが、陣営の違い。



「で、そのあとの買い物に付き合ってくれたの。また迷ったらいけないからって。すごい優しいひとだな〜と思ってたんだけど、話を聞いたらスリザリン生だしあなた達のことを話したらちょっと難色を示されたから、シリウスあたりが過剰反応しそうだと思って帰ってからも言わなかった」
「・・・アイツにそんな親切心があると思えないんだけど」
「あはは、誰かにとっては嫌な人でも誰かにとっては素敵な人、なんてよくあることだよ。特にそのときわたしはグリフィンドール生じゃなかったし」


そう言うとリーマスは渋々といった感じで納得したように頷いた。わたしはよしよし、と続ける。



「で、組み分けの日にわたしがスリザリンって言われたからシリウスが咄嗟にわたしを貴族の出だって嘘ついたじゃん?それがルシウスさんの耳に入ったみたい。そこからちょこちょこ探りを入れられてるの」
「・・・そうだったんだ」
「こないだわたしがみんなに嘘ついた日は、ルシウスさんがお父様のアブラクサスさんに会わせたいって言っててね。ずっと軽く流してたんだけどもう無理そうだったから対応したの」


これならもしもわたしが抜け道を使っていたことを見られていても見られていなくても誤魔化せるだろう。
それに実際にわたしは以前ルシウスさんに呼び出されてアブラクサスさんに会っている。嘘をつく時は、真実の中に織り交ぜたほうがばれないってよく言うよね。


「なにも変なこと言われなかった?」
「うん、特に。普通に優しくしてもらった」
「・・・東洋の貴族と近づいて勢力を拡大したいんだろうね。いまは誰もが少しでも力を欲する世の中だから」

マルフォイ家は特にそうだろう、とリーマスはため息を吐きながら呟いた。・・・信じてくれたみたいだな。


「マルフォイの父親は理事だしこれからも時々やって来るだろう。本当に、気をつけないといけないよ、アオイ」
「うん。心配かけてごめんなさい」
「いいんだ、話してくれてありがとう・・・でもなるべくもう関わらない方がいい。アオイが東洋の貴族だなんて真っ赤な嘘だし、下手に調べられて君が異世界の住人だとばれてしまったらそれこそ危険な目に遭いかねない」
「そだね・・・」


わたしがゆっくり頷くと、リーマスはにこりと笑った。


「試験前にごめんね、こんなに話し込んじゃって。わからないところ、僕でよければなんでも聞くから」
「あはは。ううん、嘘ついたわたしが悪いから。リーマスほんとさっきからいろいろ勉強見てくれすぎだよ、しっかり自分のことやってよね」
「まあ教えるのも勉強になるから気にしないで」
「ほんと優しいんだから」


そしてわたしとリーマスは残りふたつになったチョコレートを仲良く分け合った。なんだかとてもいたたまれなくなって、わたしはお手洗いに行くと告げてその場を離れた。





















『そんな顔するくらいなら、僕に記憶を消させたらよかったのに』


手洗い場の洗面でわたしが顔を洗っていると、リドルが耳元でそう言った。実体化はしていない。


「・・・できないよ。そんなこと」
『何故?』

食い気味に訪ねてくるリドルに、わたしは力なく笑うことしかできなかった。


「そんなことしたら、リドルのせいにできちゃうじゃん」


わたしはわたしの意思で嘘をついた。宙ぶらりんの自分がかわいいから。まだこのままでいたいから。何もかも知らないふりで、両方にいい顔をしていたいから。

・・・いつまで?


いつまでこうしていられるのか。いつまでなら許されるのか。

そんなことぜんぜんわからないけど、未来のわたしが今日と同じように「あの時言っておけばよかったのかもしれない」と思うだろうことだけは、わかってしまった。



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