ワンツースリーで目を開けて



「ねえ・・・魔法省に魔法事故リセット部隊ができたのって何年だった・・・」
「1938年だね」
「ぐあっ1948年って書いちゃった・・・!!!きっかけになった事件の記述はたぶんできたんだけどな·····昨日ちょうど見てたのにめっちゃ悔しい」
「そ、その記述書けたなら、十分すごいよ・・・ぼ、僕、空白にしちゃった・・・」
「でもわたしその次の大問ほとんど何も書けなかったよ・・・」

テスト後に答え合わせをして凹むの、絶対やめたほうがいいってわかっているのにやめられない。わたしはピーターとともに大きなため息を吐く。リーマスが隣で苦笑していた。

「まあまあ、終わったものは仕方ないし切り替え切り替え。あとは明日を乗り切れば試験は終了だよ、頑張ろうね」
「うん・・・ありがとう」

リーマスに励まされてわたしはとりあえず笑顔を作る。このままだとまじで試験終了と共に人権も終了してしまいそうだ。異世界出身のマグルが3年生後半から編入なんてほんとわかってはいたけど無茶だったんだよなあ。ジェームズに誘われて軽い気持ちでこの道を選んだ自分を殴りたいぜ・・・まあみんなのおかげで毎日楽しいからもし時間を巻きもどせたとしても同じ選択肢を選ぶとは思うけど。
なんて、The・青春みたいなことを考えていてはっと気づいた。さっきまでちょっと前を歩いていたジェームズとシリウスがいない。

「あれ?あのふたりどこ行ったんだろ」
「ほんとだいないね」
「・・・なんか嫌な予感がするなあ」

嫌な予感?リーマスがため息を吐きながら言った言葉を繰り返してわたしが首を傾げるのと、ドーン!と何かが爆発するような音が少し離れたところからしたのは同時だった。
えっなに!とわたしはその音の発生源を探すためキョロキョロと視線を彷徨わせる。その後この野郎!と聞き慣れた声での罵倒が耳に入り、わたしはリーマスのため息の意味を知った。

「ジェームズじゃん!!!」
「そうだね」
「もしかしてセブルスに絡みに行ってる!?」
「まあどっちが先に手を出したかはわからないけどね」

リーマスの声にはすっかり諦めの響きが滲んでいる。いやいやよくないよくない!とわたしは慌ててその音のしたほう・・・というか現在進行形で音と光がする方へと向かった。テスト期間中にまでやるとかアホなの?????いやテスト期間中じゃなくてもアホだけど!!!!!

角を曲がるとそこは別校舎に繋がる渡り廊下で、校庭にも面しているため開けた場所になっている。
そしてそこには予想した通り、髪の毛が泡まみれになったセブルスとにやにやしながら杖をセブルスに向けるシリウスと何故か華麗にステップを踏んで踊るジェームズがいた。なんで!?!?!?

「ちょっとなにやってんの!!!!!」
「あっバカこっちくんな!」

慌ててわたしはシリウスに飛びかかろうとする。しかしそれに反応したシリウスが見せた一瞬の隙を狙ってセブルスはシリウスに向けて杖を振った。えっごめん、そう言うよりも先にジェームズがなんとか応戦したようでセブルスの杖から飛び出た閃光のようなものは弾かれ明後日の方向に飛んでいく。
うっわめちゃめちゃケンカしてるじゃん!2対1だからうっかりセブルスの肩持ちそうになっちゃったよ!セブルスもまあまあ卑怯だね!?!?!?

「おいスニベルス!さっきから姑息な手ばっか使いやがって!試験疲れでギトギトになった頭を洗ってやってるんだからお礼のひとつやふたつ言ってもいいんじゃねえのか!?」
「姑息な手だと!?ふざけるな、お前らこそいつも不意打ちでしか攻撃できないくせに!」
「ねえそれより誰か僕にかけられた踊る呪い解いてくんない!?ちょっと!リーマス!!!」
「はいはい」

仕方ないなあ、と言いながらリーマスはジェームズに杖を向け呪文を唱える。そこでようやく落ち着いたらしいジェームズはリーマスにありがとうと伝え、それから改めてセブルスに向き直った。

「よし・・・ここからが本番だ、覚悟しろ!スニベルス」
「なんだプロングス、面白いからそのまま踊ってくれててもよかったんだけどな」
「パッドフット!?ひどいじゃないか!!」

そしてジェームズとシリウスはふたり並んでセブルスに杖を向け、まるでいまから少年漫画でラスボスを倒す最大の見せ場かのようにかっこつけたポーズを取り声を揃えた。

「「覚悟しろ!スニベルス!!!」」
「いやちがーーーーーーーう!!!!!」

あまりにノリノリなふたりに一瞬流されそうになったが、いや違う違うちがうバカなの?こいつらバカなのか?バカだったわ。
ずかずかずかとわたしは歩き、ジェームズとシリウスの頭をべちんと叩いた。そのタイミングでまたセブルスが呪文を唱えようとしたけれどそれはリーマスが防いでくれた。さ、さすがリーマス信じてた・・・!

「ってー!なにすんだよアオイ」
「だいたいアイツが先に僕に呪いをかけてきたんだ!!」
「だからって2対1は卑怯だしセブルスの頭泡まみれにしてるんだからもういいじゃない!おあいこ!」
「あれはシリウスがやっただけで僕まだ何もやってない!気が済まない!」
「そういうのはテスト終わってから堂々と決闘でもしなさい」

ほらもうそろそろごはん行くよ、ふたりもお腹すいてるでしょと言ってわたしが方向転換するとシリウスとジェームズはため息をつきながらついてきた。素直でよろしい。
しかしこの圧倒的に不利な中でもまだ何かしら鬱憤を抱えているらしいセブルスが憎々しそうに声を出す。


「ッ・・・、なんだ!庇った気にでもなったつもりか!?」
「はー?違うわよわたしこのあとシリウスにマグル学教えてもらわないと明日死ぬの、いまここで先生に見つかって罰則受けさせられてる場合じゃないの、セブルスもこのふたりが気に入らないのはわかるからダサいことしてないで今後は正々堂々と決闘しなさい」
「ダサ・・・ッ、いつも卑怯な手を使ってくるのはそいつらだって同じだ!」
「うんだからこのふたりもダサいって、みんなダサい、はいこの話終わり。お腹すいた」

じゃあもう行こ、とわたしはジェームズとシリウスを引っ張って歩く。ちょっとあいつと一緒にするのやめてくれない?とかダサくないんだけど俺ら人気者なんだけど?とか言ってくるのに生返事をしつつ歩いた。
はあ、13歳・・・。はあ、ガキ、ほんと、ガキ・・・・・はあ・・・。(しかしそんなガキに勉強を教えてもらわないと死んじゃうから情けないんだよなこれが)

















「えーーーーウソ魔法界じゃマグルってそんなふうに思われてたんだウケる、まあ仕方ないよね」
「そもそもこの時代は魔法使いに対する差別もあったからな」
「マグルと魔法使いがいっしょに存在する世界ってたいへんだねえ」

それから昼食を終え、わたしたちはみんなで図書館に向かった。ジェームズ、リーマス、ピーターは向かいの席で古代ルーン文字学の勉強をしていて、わたしはシリウスの隣に座ってマグル学を教えてもらっている。


「・・・ていうかずっと思ってたんだけどさ、お前の世界に魔法がないって証拠あんの?」
「えっ?」
「お前が魔力のない人間だったから知らなかっただけで、本当は魔法使いは隠れて生活してたんじゃないのか?俺ら的にはそっちの方がしっくりくるんだけど」

突然そう言われてわたしはぱちくりと瞬きをした。わたしの世界にも、魔法があった?わたしがマグルでなにも見えてなかっただけで。
・・・まっさかー、魔法なんてお伽話の中だけの話だもん、とは言えないわたしがいる。だって目の前のシリウス含むこの世界での知り合いは全員魔法使いだし、わたしもこの世界に来たことで魔法が使えるようになってしまったからだ。

「実はアオイがいた世界もここも同じで、単に過去にやってきただけだったりしない?」
「・・・」

考えてもみなかった。まあでも、たしかに、異世界トリップよりはタイムスリップのほうがまだ理解できる・・・というか、この世界においてはタイムスリップ自体はそこまで不思議な話ではないからシリウスがその考えに至るのは当然なのだ。
わたしがそれは違うよ、と思ってしまうのは、君たちのことを小説の中で読んで知ってしまっているからで。

考え込んで押し黙ってしまったわたしに、シリウスは続ける。


「ま、そうだとしてもそうじゃなくても俺お前の話聞いてたら日本に興味出てきてさ。卒業旅行ででも行ってみない?みんなで日本に」
「に、日本に?」
「おう。自分が住んでた国の過去なんてなかなか見る機会ないだろ?それもそれで楽しいと思うぜ」

シリウスはにっこり笑ってそう言った。卒業後、日本に行く。みんなで・・・いっしょに。

「なにそれ面白そうめっちゃいいじゃん!」
「僕も行ってみたいな。お金貯めなきゃだけど」
「た、たのしそう・・・だね」

前で話を聞いていたらしいジェームズ達も目を輝かせながら話に加わってきた。・・・卒業後のことなんて考えてもみなかった。いや、考えたらいけないと思っていた。

このホグワーツでみんなといっしょに学んで生活して卒業して・・・そしてそれから旅行に行く。なんだかものすごい夢物語のように思えた。だって未来は恐ろしいから。先のことについて考えれば考えるほど、つらい知識に押しつぶされそうになるから。


「・・・そう、だね」

大丈夫だろうか、わたしの声は震えていないだろうか。いつまでこの青春に甘えていいのだろうか。どうやって生きていけばいいのだろうか。
未来を、変えることは、できるのだろうか。

そう思った瞬間急に目の前の風景がガラリと変わるような感覚に陥った。シリウス、リーマス、ジェームズ、ピーター。みんなもう小説の中の登場人物なんかじゃない。息をしている、血の通った、わたしの名前を呼んでくれる、・・・大事な友達だ。


わたしが未来を変える?この人たちを守るために?そんなことができるのだろうか、そんなこと・・・。

思わずぎゅっと拳を握りしめる。シャラン、と三連のバングルが音を立てた。

そのためには間違いなくヴォルデモートさんに消えてもらわないといけない。
わたしは思わず唇を噛み締める。テスト勉強なんてしている場合じゃないのだ、本当は。

だからと言っていったいどうすれば世界が、未来が変わるのかなんてわからないけれど。


「おいアオイ、ぼーっとしてどうした?話聞いてたか?」
「あ、・・・や、うん。みんなを連れて行くならどこ行きたいかなって思ってさ。時代が違うからわたしのよく行く場所とかは案内できないけど、観光名所とかなら昔からあるしそういうとこかなあ、とか」
「ウワーッ楽しみ、ねえ勉強とか後にして日本について調べない?」
「そ、そそそうしたいのは山々だけど、そんなことしたら落第しちゃう・・・」
「テストが終わってからにしようね」

なんてことのない日常に呑まれて思考を停止するのはあまりに容易い。だけど、きっと、どうにかしないと。わたしはこの物語をただ傍観者として見守ることなんてもうできないから。


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