いつか光の向こうへ

「ピーター!!!」
「アオイ!!!」
「「やったーーーーーーー!!!!!!!!」」

ふくろう試験の結果が発表され、わたしとピーターは互いの成績を小声で発表しあった後がしっと手を取りくるくると回った。ふたりとも!!!!!一教科も!!!!!落第しませんでした!!!!!ギリギリでしたが!!!非常にギリギリでしたが!!!やりました!!!!!


「おー、お前らその喜びっぷりはわりと成績よかったのか?見せてみろよ」
「あっこらやめろ天才はひっこめ!」
「じゃあもうひとりの天才ジェームズ様が見て差し上げま〜・・・。うん、ヨカッタネ、おめでとう」
「おい勝手に見るな、そして見たならちゃんと反応しろ」

しかしこのどうせ全教科ほぼ満点だったのであろう二人組に茶化されたってどうでもいいくらいわたしとピーターは浮かれていた。正直!落第してないならなんでもいいです!!!


「まあでもアオイは三年生からいきなり編入したのに本当にすごいと思うよ、よく頑張ったね」
「えーん!リーマスがいっぱい勉強見てくれたからだよ〜ほんとありがとう!!」
「たいしたことはしてないよ」

そうしているとリーマスが穏やかに微笑みながら褒めてくれた。どうしてリーマスはこんないいヤツなのに何故あの頭がいいだけのバカふたりとつるんでいるんだ?そう思わず呟くとシリウスに「頭も良くないバカに何言われても響かねえなあ」とバカにされる。それにわたしはムキー!と挑発に乗ってシリウスを軽く叩いてやろうと拳を握ったが苦笑したリーマスに制止された。ああこの笑顔、本当に癒される·····。そして大人しくなったわたしの隣でピーターは落第はまぬがれたけど確かにこの成績はやばいよね、親に怒られるかなあと震え出した。忙しそうである。

·····まあ、ふくろう試験はわりと気楽に(といいつつ必死だったけど)受けられたけど、5年次のいもり試験はそれがけっこうそのまま就職に関わってくるからいい成績取らなきゃなあ。自分と似たような成績のピーターが頭を抱えているのを見て思う。
就職かあ。最近たまに考えるけど、ほんとまじで全く自分がここでどんな人生を歩むのか想像つかない。

3年生はこの世界とかホグワーツに慣れることだけで手一杯だったけど、4年生からはもっといろんなことを考えないとなあ。ヴォルデモートさんやリドルのことももちろんだけど、なんの基盤もないこの世界で十分に生きるためにはわたしだってちゃんと力をつけなきゃならない。

思わず小さくため息をつく。するとなんだか楽しそうにジェームズが寄ってきた。


「お、なになに?アオイもピーターにつられて落ち込んじゃった?ごめんごめん」
「違うわよ。いやーふくろうはいいとしてもいもりはほんと頑張らなきゃなーとか将来どうしようかなーとか考えちゃって」
「アオイって案外まじめなとこあるよね」
「いや別に普通でしょ」

流すように軽く言ったけれど、どうやら少し感傷的になっていることがバレてしまっているようだ。本当にこの男はなんというか、困ったところで目敏い。

「ま、君の場合は他所から来たからいろんなことが漠然としちゃって堂々巡りになるんだよ。これからはもっといろんなものをゆっくり丁寧に知っていけばいいさ、時間はいくらでもあるんだから」

ね、とジェームズはウィンクする。・・・こういうところ、ほんとずるいよなあ。


「うん。4年生になってもよろしくね、ジェームズ」
「こちらこそ!」















その日のディナーはとても豪華だった。わたしはリリーたちの近くに座ってみんなの休みの予定を聞いたり、テストの結果について話したりしながらおいしいご飯を全力で頬張った。
当然ながらわたしは帰る場所なんてないのでみんながホグワーツ特急に乗る時もひとりお見送りをすることになる。リリーに一緒のコンパートメントで帰りましょうよと誘われたときに「わたしは親が直接迎えに来るから汽車には乗れないの」と言うとひどく残念そうな顔をされた。かわいいやつめ。

そして夕食の後、ヴォルデモートさんとの通信ではドヤ顔でなんの教科も落第しなかったことを告げた。彼には「せめて俺様が教えてやった魔法薬学くらいもう少しまともな成績を取るかと思ったんだがな」と言われて、それがリドルと同じような反応だったから少しおかしくなってしまった。口にはしなかったけれど。
こういうとき、やっぱり、元は同じ人物なのだなと思う。もしもハグリッドとわたしが初めて会ったあの瞬間にヴォルデモートさんも近くにいたとしたら、この人もハグリッドの記憶を消そうとしたのだろうかとふと考えてやめた。結局鏡を通しての通信ではわからないことが山ほどある。まあ、会ったところでなにもわからなかったのだけど。
思考を巡らすだけというのはすぐに言い訳を見つけてしまうので苦手だ。だからといって行動したところで、最近のわたしはちょうどいい自己弁明の方法ばかり探してしまっているのだが。そんなことを考えているうちに通信の時間は終わった。もう夜はとっぷりと更け、そろそろ眠りにつく時間だ。

眠っている猫の卿が足元でくぁあと欠伸をする。わたしもつられて大きな口を開けたのでリドルにたしなめられた。それをテキトーに流してわたしは布団に潜る。

リドルと最初に出会ったあの日から半年。信じられないくらい、彼がそばにいる日々に慣れきってしまった。
よっぽど何かあったとき以外リドルはわたしと部屋でふたりのときは実体化しているし、そのおかげであんまりホームシックにもならなかったような気がする。彼はわたしが落ち込んだり悩んだりするのを毎度見逃さず、何かしらのアクションを起こしてくれるから助けられてもいる。·····闇の帝王の分身みたいなひとに、助けられているというのも変な話だよなあと時々思った。リドルとヴォルデモートさんを同一視したことはないけれど。
学期末だからだろうか。なんだか無駄にいろいろなことを考えてしまう。いや、無駄ではないのかもしれないけどさ。


「・・・眠れないの?」
「ん?うーん·····ちょっとね」

天井を見つめながらぼーっとしているとリドルにそう声をかけられた。彼はわたしを見下ろすようにベッドの端に腰掛ける。リドルの体温のないてのひらがわたしの髪をそっと撫でた。

「リドルは優しいね」
「·····後にも先にもそんなことを言うのは君くらいだよ」
「そう?」
「うん」

何度かそれを繰り返されているうちに少しずつ瞼が重くなってきた。リドルが優しくおやすみと言ったけれど、夢の中に落ちていったわたしがうまく返せたかはわからない。

その日は何か大事な夢を見た気がするけれど、起きるとなんだったかさっぱり忘れてしまっていた。ただ、なんとなく。10歳くらいのかわいい男の子と遊んでいたような気が、した。














「んじゃまたな、アオイ!休みの間しっかり勉強して来年度はちょっとでも俺に追いつけるようになれよ」
「無理だね」
「そこ即答すんのかよ」

朝食も終え、生徒たちはこれからホグワーツ特急に乗り込む。乗らないわたしはここで教員陣とお見送りだ。悪戯仕掛け人のみんなと最後に挨拶をする。

「寂しくなったらいつでもふくろうを飛ばすんだよ、アオイ!まあ僕はパリにいるからたぶん返事できないけど」
「大丈夫、寂しくてジェームズに頼ることなんてありえないから安心して」
「アオイ・・・も、もし親にふくろうの成績について怒られたらいつも一緒にいる女の子も似たようなもんだったって言っていい·····?」
「わたしはいいけどそれでピーターのご両親の怒りはおさまるの?」

そんな他愛もない話をしていると、リーマスが「そろそろ行かないと全員入れるコンパートメントがなくなるよ」と声をかけてきた。もうお別れかあ、ちょっと寂しいなあ。しかしそう思っていたのが顔にでていたのか、リーマスは優しく微笑んでくれた。

「約束した通り、いろいろお菓子送るから。大丈夫、寂しくないよ」
「リーマス·····」
「もしとっても寂しくなったら·····ううん、寂しくなくても来たかったらいつでも僕の家においでよ。シリウスも来るって言ってるし」
「・・・うん。ありがとう!」

リーマスはやっぱりとびきり優しい。バレンタインの日のこともあるし、勉強を教えてくれたこと、忍びの地図でルシウスさんと一緒にいるところを見られてしまったこと、そしてそれを黙ってくれていること。いろいろと恩もあるし、なんというか。ほんの少し特別というか、意識してしまうというか。·····わたしがもし13歳で異世界の住人なんかじゃなかったら好きになってたかもなあ、なんて思ったりはしてしまう。

まあ、仮定の話をいくらしたって意味はないんだけどね!


「じゃあねアオイ、元気でね」
「うん、みんなもね」

改めて四人がわたしに向き直る。今日は天気がよくて、青い空に白い雲がぷかぷかと浮かんでいて、あたたかいを通り越して暑いに近付きつつある日差しがわたしから少し離れた四人をキラキラと照らした。
眩しい。大事だ。わたしの、友達。

この世界に来て初めてできた、大切で、愛おしい、わたしの友達。


ぶぉーーーーと汽笛の音が聞こえて、四人はそろそろ乗らなきゃほんとにまずいと慌て始める。わたしはそれに少し笑って、大きく手を振った。


「またね!」


三年生が終わってしまう。仕掛け人を見送ったあと、リリーやケナ・サーシャも挨拶に来てくれてそれぞれとハグをした。その三人とも別れたタイミングでレギュラスを見つけて、無事にふくろうは全教科パスできたことを伝えられたし勉強を教えてもらったお礼もできた。カード贈るね、といったら塩対応されるかなあと思ったのに笑顔で待ってますと言われてちょっとキュンとした。そしてレギュラスともバイバイしたあとルシウスさんと目が合って、彼にも手を振った。ふい、と顔を背けられたけれど別に構わない。どうせ彼とはこの長期休みのあいだにまた会うことになる。


ホームから生徒がひとりもいなくなった。教師陣も今日の午後には一部を除いて帰ってしまう。改めて、少し。寂しいなと、思う。


・・・そのとき。



「アオイ!」


突然聞き慣れた声に名を呼ばれて、わたしはそちらを向く。シリウスだった。いま立っていたところからそう遠くない窓から顔を出していたので、わたしは駆け寄る。どうしたの、と口を開く前に彼から何かを投げつけられた。わたしは反射的に慌ててキャッチする。かわいくラッピングされた小さな箱だった。

「えっ、なに·····」
「金がありあまってる俺からのプレゼントだ。寂しくなったらそれでも食ってろ」

にやり、とシリウスは笑う。その顔があまりにもイケメンすぎて、うっかり心臓がギュンッと音を立てた。

ぶぉお、とまた汽車が大きな音を立てる。今度は出発の合図だったらしい。ガシャガシャとタイヤが音を立てて回り始めた。あまりの勢いに少し怯む。
けれどもそれよりシリウスにお礼を言わなきゃと、わたしは慌てて彼の方に目線を戻して口を開いた。


「ありがとう!」

たぶんこの爆音でわたしの声は届いていない。けれども言わんとすることがわかったようで、シリウスはウィンクを飛ばしてきた。·····ジェームズじゃないんだからさあ。イケメンがそういうの、ちょっとやめませんか?そうこうしているうちに他の三人も窓から顔を出して一生懸命手を振ってくれた。わたしはこのドキドキを隠すように、必死で振り返す。

心臓がバクバクいっているわたしを置いてホグワーツ特急は進んだ。角を曲がってしまったので姿は見えないけれど、がしょがしょというタイヤの音とぶぉおという蒸気の音はいまだよく響いている。わたしは手の中のかわいらしい箱の包装を丁寧に開いた。そこには小さな色とりどりの飴玉がたくさん入っていて、陽の光を受けキラキラと輝いている。
ふとその箱の蓋を見ると60個入と書いていた。·····なるほど、夏休みの2ヶ月間毎日寂しくなってもこれで問題なさそうだ。

わたしはひょいと指先でひとつつまんで口に入れた。レモンの味だった。おいしい。


「・・・ふふ」

3年生が終わった。夏休みが始まる。なんだか最近漠然とした不安でいっぱいだったけれど。
4年生になるのが楽しみだなと、わたしは小さく笑った。


第一章
ラッキーガール・ローリンガール【完】

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