サマーバケーションにて

「あ、ルシウスさーん!お待たせしました〜」
「·····どうも」

時間ギリギリで待ち合わせ場所に到着し、元気よく手を振るとなんだか疲れた様子のルシウスさんが愛想のない返事をした。夏休みだというのに元気がない。いやまあ長期休み初っぱなからわたしのこと迎えに来させられてるからこうなってるんだろうけれども。

なんだかげっそりされているルシウスさんと歩くのはちょっと気まずいものの、別にわたしが彼に迎えに来てと頼んだわけではないので気にしない方向でいきたい。ただでさえこれからヴォルデモートさんの御屋敷にお泊まりとかいうめちゃくちゃ緊張するイベントが始まるので!!!
そしてそんなドキドキを誤魔化そうと、わたしはルシウスさんに軽く話しかけた。


「ねえねえルシウスさん、ちょっとヴォ·····」
「あの方の名前を言うなといつも言っているでしょう」
「そうでした。あのひとにお土産買ってから行きたいんですけど、ルシウスさんあのひとの好みとか知ってます?」

それこそ明日の天気知ってます? とでも聞くようなテンションでルシウスさんに問う。すると彼は思いっきり眉を顰めて呆れ返るような口ぶりで答えた。


「·····私のような末端の者があの方の趣味嗜好などを知れるわけがないでしょう」
「え、そうなの? 残念」

闇の帝王のプライベートってそんなに隠されてるの? まあそっちの方がカリスマ感出るもんね?? なんて考えるものの、それはそれで困ってしまう。
うーんじゃあ何にしよー、茶葉とクッキーとかにしようかなあ·····わたしが食べたいだけだけど·····。いっしょに食べましょう〜って言えるしさー。いやまあぜったい向こう喜ばないけど〜。
と、そこまで考えてからン? と思った。そして首を傾げる。


「·····あのひとのお誕生日、信者の皆さんでお祝いしたりしないの?」
「は? 誕生日? ·····存じ上げません」
「えっまじで? 寂しいー。まあでもそういうの嫌なのかなぁ·····ちなみに12月31日ですよ」
「どうして貴女はそんなことを知っているんですか·····」
「ナイショでーす」

茶化すようにそう答えるとルシウスさんはまた眉間に皺を寄せた。若いのにクセになりそうだなあ、なんてどこか他人事のように思う。
·····ヴォルデモートさんの誕生日かあ。実はわたしは冬休みにトリップしてきたけれど年が明けてすぐのタイミングだったから、ヴォルデモートさんの誕生日もリドルの誕生日も祝えていない。今年はしっかりお祝いしてあげられたらなあと思うんだけど·····。いつも本当に良くしてもらってるし。

とはいえそれこそなに渡したらいいのかわかんなーい! と心の中で叫びながら、わたしとルシウスさんはかわいらしいケーキ屋さんに入った。あんまり選んでいる時間もないしとりあえずクッキーの詰め合わせと茶葉のセットを買う。アイスで飲んでもおいしいらしいので楽しみだなぁ、とちょっとご機嫌になってしまった。

あの方にそんな子供じみたものを贈ろうとするのはこの世に貴女くらいですよとルシウスさんは言う。たしかにあんまり甘いものとか好きじゃなさそうですもんねえ、と返したけれどそういう意味ではないらしい。じゃあどういう意味だよ。そう思ったのが顔に出ていたのか、ルシウスさんは呆れたように目元を手で覆った。

「·····あの方は偉大で、本来畏怖の対象なんです。敵陣営の情報や地方の名産物、高級品などを貢物とすることはあっても気の知れた友人に贈るような物を捧げることはありません」
「えー、じゃあこれ迷惑だと思う?」
「·····私にはわかりかねます」
「なら渡してから考えましょう。手土産もないよりはいいだろうし」

そう言いながら元気よくルシウスさんの隣りを歩く。すると彼は「そもそもあの方へのプレゼントをこんなに間に合わせのような形で買うなんてありえない」とまたブツブツ言った。けれどもわたしは普段ダンブルドアからのお小遣いで生きているので、そもそもそんなにたいしたものを買えないのだ。·····というか、お金の出元がそこなのに何かすごいものを贈られたらあの人もイヤだと思う。だからきっといっしょに楽しめる紅茶やクッキーくらいがちょうどいい、とわたしは思う。

·····まあでも、好みはわからないから。このお泊まりで、もっとヴォルデモートさんの好きな物とかそういうのも知れたらいいな。


そんなことを考えながらわたしはルシウスさんと闇陣営の本拠地を目指した。姿くらましで森に行き、もう一度そこで姿くらましし、何かの暗号を唱えて不思議な壁を抜け、そこからまた鬱蒼とした森を歩く。もうすぐ着きますとルシウスさんが行ったので、はーいと答えると彼はわたしに黒いベールを渡してきた。なんですかこれ、とわたしは受け取る。

「今回の滞在中はこちらを着用するようあの方から仰せつかっております。前回とは違い長期の滞在のため、死喰い人の出入りも頻繁になるからです」
「ほへー」

ありがとうございます、とわたしはそれを受け取りさっそく着ける。ルシウスさんが形を整えてくれた。

「ありがとうございます」
「あの方のお目にかかるのに粗相があってはいけませんから。では参りますよ」
「はーい」

そしてわたしは少し久しぶりに、闇陣営の拠点へと足を踏み入れるのであった。



















そしてたどり着いたその御屋敷。わたしは裏門? 勝手口? のようなところを通って中に入った。ルシウスさんいわく、このところ死喰い人の数が跳ね上がっているようで不用意にわたしを新入りや信用の置けない者とエンカウントさせたくないらしい。思いのほか気遣っていただいていてちょっとびっくりした。

「そんなに増えてるんですか? 死喰い人」
「はい。それにホリデー期間になりましたから、おそらく自分の子息をあの方に紹介しようとする親も出てくるでしょう」
「え、学生のうちからデスイーターさせるってこと? 趣味わっる」
「·····貴女それよく私の前で言えましたね」
「あ、そうでした」

たはは、と笑うもルシウスさんはやれやれとため息をついている。この人ほんといつもため息ついてるな、だいじょうぶか? はげちゃうぞ? なんて思いながらわたしは話を続けた。

「でもせっかくの夏休み、家族で旅行とかしないんですか? マルフォイさん家はお金もあるし仲も良さそうだしいろんなところに行ってそうなイメージ」
「一応イタリアに行く予定ですよ。二週間後に」
「へー! 楽しみですね。なんだよかった、夏休みずっとここで過ごすのかと思った」
「まあ貴女の滞在期間が延びればそうなるかもしれませんね」
「えっ?」

思いもしなかった返答にわたしは目をぱちくりする。·····えっと、それって、もしかして。


「·····わたしの世話するためだけにここにいるんです? ルシウスさん」
「・・・」
「まじで? なんか·····ごめんなさい」
「まあ、貴女の現状から見て適任は私くらいですからね。学生の身分ゆえさして大きな仕事もできませんし」

仕方ありません、と言うその声はなんというか自分に言い聞かせているかのようだった。·····ご、ごめんねルシウスさん。なるべくいい子にします。


そのあとイタリアでは何をする予定なのか聞いたり、お土産楽しみにしてますね〜なんて他愛もない話を続けた。そうこうしているうちにヴォルデモートさんの執務室にたどり着く。相変わらず荘厳な扉。これで三度目の訪問だけれど、やっぱりここに立つと少しドキドキする。
けれどもわたしなんかよりルシウスさんのほうが緊張しているようだ。んんっと咳払いをした後彼はコンコンと扉をノックし、凛とした声で「ルシウス・マルフォイです。あの方をお連れしました」と告げた。
途端、ギィッと重たい音を立てて扉が開く。そういえばあの最初の日はパチパチと暖炉が軽い音を立てていた。いまは少しひんやりとした空気が肌に触れる。もうあれから季節は二つも変わってしまったのだ。

左奥にわたしは顔を向ける。なるべく背筋をしゃんとして、まっすぐに彼を見る。

瞳がかち合って、·····微笑んだ。



「こんにちは、ヴォルデモートさん。今日からよろしくお願いします」
「ああ、よく来たな」

一歩進む。部屋に入る。ルシウスさんは入るべきかどうか決めかねているようで少しまごついていた。ヴォルデモートさんはそんな彼に「もういい、下がれ」と一言告げる。はっ、とルシウスさんが頭を下げて去っていった。

二人だけの空間。鏡越しでない貴方。



「お土産にクッキーと紅茶買ってきました! いっしょにいかがでしょう」
「ああ。用意してやろう」

ヴォルデモートさんは笑う。唇に美しい弧を描いて嗤う。きっとこんな返答も、ルシウスさんが聞いていたら飛び上がって仰天するんだろう。

·····だからわたしは来たのだ。彼の優しさの意味を知るため。
だってわからないということは、とても怖いことだから。


てくてくと歩いてソファに座る。ヴォルデモートさんは杖を一振りし、ティーポットとカップ、それからお皿を出してくれた。
更にはちょこんと美味しそうなフルーツタルトが乗っている。

「わぁおいしそう!! ありがとうございます!」

それに目を輝かせると、彼はわたしに向けて杖を振った。わたしが大事に抱えていた小包は魔法の力で開き、そこから茶葉とクッキーが飛び出てティーポットやお皿の上に並んでいく。·····こういう魔法、わたしもいつか使えるようになれるのかなあ。なんて成績下の下の落ちこぼれが考えていると、彼は見透かしたようにクスリと笑って「この滞在中に魔法の特訓をしてやろう」と言った。

ヴォルデモートさんは悠々とソファに腰かけている。ありがとうございますと苦笑しながら、相変わらず美しいひとだと心の中で呟いた。

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