「失礼致します、我が君」
「…入れ」
重い、重い、堅い扉。
どこまでも暗いそれは、その青年をひたすら追い詰めた。
「ありがとうございます。
本日はどういったご用件でしょうか」
頼むから何事もありませんように。
青年、ルシウス・マルフォイは、拳を堅く握りしめながら震える足で椅子ごと背を向けた麗人の元に侍った。
「たいしたものではないが、お前に命がある」
その麗人は杖を振り、ルシウスと自身を分かつ絢爛なテーブルに一枚の写真を出現させる。
「この女を、連れてこい。
この、穢れた血を」
そこに写っていたのは、こちらににこにこと微笑みかける女。
美しい黒髪を艶めかせ、桃色の頬でころころ笑う彼女はひまわりのようで、色とりどりの花畑の中にしっかりと首まで埋もれている。
その花のせいでネクタイの色はわからないが、手だけつきだしてぶんぶん振っているその部分から見ると、どうやらホグワーツの制服を着ているようだ。
しかしどう見てもその女は15くらいに見えるのだが、ルシウスにはまったく心当たりがなかった。
「ホグワーツ生…ですか?」
「ああ」
「…たいへん申し訳ございません、我が君。まったく見覚えがございません。ですが必ずや探しだして…」
「転入してくる」
「は」
「おそらく転入してくる、この冬休み明けに。実際はこれより少々幼いかもしれん」
そう主人はいい、すっかり暗い窓の外を見上げた。
表情がどういったものであるかは、ルシウスからはまったく伺い知れない。
「…追って指示をだす。
俺様の予測が正しければ…否、正しくないわけがないが…近いうちダイアゴン横丁に現れる。そこを狙え」
「はっ」
「ただし、警戒されぬよううまく誘え。決して危害を加えるな、丁重に扱え。
誘いを渋った場合は…そうだな、猫とアンコを使え」
「アン…何ですか?」
「アンコだ。調べておけ」
この闇の帝王の不可思議な命令に多々多々疑問を持つも、ルシウスに選択肢などなく。
「承知いたしました、我が君。」
頭を下げるルシウスにヴォルデモートは軽く頷き、もう下がるように命じた。
彼の思惑など誰も知らぬまま。
…静かに夜は更けていくのだった。
「お風呂入るんで、ぜっっったい覗かないでくださいね」
「別に誰も興味ないよそんな貧相な体」
「(めっちゃ言い返したいめっちゃ反論したいぜんぜんそんな勇気ない)」
「ていうかいまいくつなの?」
「18です」
「ふうん」
目の前にいる麗人は何を考えているかわからない。
リドル。トム・リドル。
制服を着てるから一応学生なのだろう。人間じゃあなさそうだけど。
「…リドル、さんは、いくつ?」
「ナイショ」
「・・・」
くつり、と笑われる。
もうなんなのこのひと。しかしイケメンだ。くそっ
「とりあえず、はやくお風呂入ってきたら?朝弱いでしょ、いきなり夜更かしして朝ごはん食べ損ねたいの?」
「なんでそんなことまで知ってんだよ…」
「なんか言った?」
「なんでもないですお風呂行ってきます」
「どうぞ」
なんだかこれじゃどっちが部屋の主かわかんないよと心の中でひとりごちながら風呂場に向かう。
普通に考えてありえなさすぎる事態なのに、彼があまりにも当然のように振る舞うからなんかちょっと受け入れちゃってる自分が怖い。
しかしリドルってほんとに何者なんだろう…ホークラックスなんだと思うけど、聞けない。わたしの素性がばれたらおわりだ。なんなら世界終わる。
でもほんとにホークラックスだったら問題すぎるよねぇだって原作に多大すぎる影響及ぼしちゃうよどうするのハリー。ダンブルドア。
ていうかここダンブルドアが用意した部屋でしょ?なのになんでトム・リドルがいるの???わからーん!意味不明!!!
ため息をつきながら浴室へ向かう。しかもリドルなぜかわたしのこと知ってるし…名前も寝起き悪いのも……あああほんとになんなのよう。
ぐったりしながら浴室の扉を開く。そしたらなんだかメチャカワな猫足のバスタブが目に入ったから突然いろいろ疲れが飛んだ。自分ほんと単純でよかった。
まあ、悪いようにはしないって言われたしとりあえずしばらくは頑張って生きよう!!!怖いけど。
とりあえず寝るときはリドルさん消えててくれるといいなあ…
髪を濡らしながら、そんな細やかな願い事をしてみるのだった。