02 ぬけがけケイトとやきもちエース
「ねえケイト、今度いっしょにトレイの誕生日プレゼント買いに行かない?」
授業のあと、わたしは同期で仲良くしているケイトに声をかけた。もうすぐトレイの誕生日なのだ。ちなみに当日は一人暮らしのケイトの家で三人でピサパーティーをすることにしていた。せっかくだし食べ物以外にもなにか贈ってあげたい。
「ぜんぜんおっけ〜!でもユウちゃんひとりで選んだほうがたぶんトレイくんは喜ぶ気がするけど」
「え?そう?男物のプレゼントなんかよくわかんないからケイトがいてくれたほうがいいよ」
「うーん·····ふふ、そうだね〜」
意味深に笑われてわたしは首を傾げた。ケイトはこういうところがある。まあ別にいいんだけど。
「いつだったら空いてる?」
「うーん今週はけっこうバイトがあるから〜·····あ、むしろ今日とか都合いいけど」
「ほんと?わたしも今日なら空いてるよ。じゃあこれから行こっか」
「OK。お腹空いたからテキトーにどっかで何か食べてからにしない?」
「そうしよ〜」
じゃあとりあえず電車でショッピングモールのほうまで行こっか。そう決めてわたしたちは大学を出た。
「そういえばマジカルバーガーが新作出してたよ。監督生ちゃんの好きそうなスイーツもあったよ〜さつまいもパイだって」
「えっ食べたい!じゃあそこにしよっか」
「OK!新作一番乗り、マジカメ映えも狙えるね〜」
そしてショッピングモールに到着し、ケイトとわたしはハンバーガー屋に入る。席を取っておくためにカウンターにカバンだけ置いて、わたしたちはレジに並んだ。
「言ってくれたらユウちゃんの分も買っとくよ?」
「それやったらいつもケイト奢ってくれちゃうじゃん」
「えーそうだったっけ」
「そうだよ」
まあでも女の子に財布出させるなんてできないじゃん?と笑顔で言われてわたしはちょっときゅんとしてしまった。ケイトは顔がいい上にナチュラルに女の子扱いしてくるので、困る。
「それに本当に新作いろいろ出てるから決めきれない·····」
「あはは、それはわかる〜」
オレは新作にするつもりだけどもし選びきれなかったらユウちゃんの好きなやつふたつ買おうね。そう言われてわたしはケイトをぽかっと軽く叩いた。わたしを甘やかしすぎである。
そうこうしてるうちにどんどんレジの順番が近づいてきた。
「決まった?」
「うん!でもナゲットも食べたい気持ちとさすがにバーガーセットにさつまいもパイつけてプラスナゲットは無理じゃないかという気持ちで揺れてる」
「ああだったら·····」
「お次のお客様どうぞ〜」
レジ上のメニュー表を見ながら考え込んでいると店員さんに声をかけられた。はーい、とケイトとふたりで進む。うーんナゲット·····さすがにぜんぶは無理か·····?なんて思っていると。
「は?先生?」
「えっ」
ここに似つかわしくない呼び名で呼ばれてわたしはびっくりして店員さんを見た。·····そこにいたのは。
「と、トラッポラくん!なにしてんのこんなとこで」
「何って·····バイトだよ。先生こそなにしてんの」
「え、買い物だけど·····ちょっと受験生がこんな時期にバイトしてていいわけないでしょ!」
「シフトだいぶ減らしてるから大丈夫だもん。·····ていうか横の人、誰」
「んー?あ、バイト先の生徒ちゃん?かわいいね〜オレはユウちゃんの部活仲間だよ〜」
予想外の人物との鉢合わせにびっくりしてしまう。ケイトは横でいつもの調子でひらひらと手を振ったが、わたしは気まずさで死にそうである。はっず!はずかし!!!生徒にめちゃめちゃ普段の様子見られんのはずかし!!!ケイトはなんでもないただの友達だけど一応男とふたりなわけだし!!!
「なんで部活のお仲間さんとふたりなわけ?」
「えっと、とれ·····クローバー先生の誕生日近いからプレゼントでも買いに行こうと思って」
「はー?オレの誕生日は飴くれただけじゃん」
「いや生徒の誕生日覚えてて飴あげただけでわたし充分えらくない!?」
「ぜんぜんえらくない。今度ちゃんと祝い直してよ」
「あのねえ」
ぶすっとしたトラッポラくんにわたしは慌てる。いやいやまさかこんなことになるなんて·····ていうかまじで受験生がこの時期にバイトをするな、いくら模試の判定がよかったとしても!!!
「で、なに。今日はクローバー先生のプレゼント買うためにずっとそのひととふたりなわけ」
「いやずっとっていうか·····ねえ?」
「オレは特に予定ないからどっちでもいいよん。そういえば服欲しいとか言ってなかった?終わったら付き合おっか?」
「え、ほんと?ケイトセンスいいから助かる」
「いやここでそんな話しないでくれる!?クソ、オレもバイトすぐ終わるならぜったいついていくのに·····で、ご注文は」
ぶつぶつ言いながらトラッポラくんが聞いてくる。なんか新鮮だな·····ていうかバイトの制服着てるトラッポラくん、かわいいな·····。なんて考えていたらケイトが代わりに注文してくれた。
「えーっと、この秋のマジカルバーガーセットふたつとさつまいもパイと·····あ、ユウちゃんナゲット食べたいって言ってたよね?よかったら半分こする?」
「いいの?」
「もっちろん」
「·····以上ですか」
「「うん」」
「・・・1852円です」
トラッポラくんがぶすっとしながら合計金額を教えてくれた。はーい、と財布を出そうとしたらまたケイトにいいからいいからと止められる。
「いやそう言ってこないだも奢ってもらったし」
「じゃあ今度食堂でなんかご馳走して♡」
「いつもそう言うじゃん」
「そうだった?まあまあいいから、はいどうぞ〜トラッポラくん」
ケイトはにこりと笑ってトラッポラくんにカードを渡した。トラッポラくんは相変わらずむくれながら1回払いですか?と聞きケイトはうん♡と答える。
「じゃあこの札持ってお待ちください。·····先生、今度ぜったいオレの誕生日祝い直してね。約束だから」
「いやだから生徒と先生は」
「次の方どうぞ〜」
ちょっと、と言う間もなくトラッポラくんは別のお客さんの対応に入ってしまった。·····ああなったら本当に頑固なんだよな、トラッポラくん。かわいい生徒くんだね〜懐かれてるね♡と笑うケイトの横でわたしはため息をついた。
そのあと注文したものが運ばれてきて、わたしとケイトはトレイへのプレゼントの相談をしながらそれを食べた。新作のバーガーは美味しかったし、ナゲットも半分こしたおかげで食べられたし、さつまいもパイもとても美味しかったので非常に満足である。
トレイへのプレゼントはパーカーとタオルにしようか、というところで話がまとまり、食事も終えたのでそろそろ出よっかというときに。
「あれ、ユウちゃんほっぺにソースついてるよ」
「えっほんと?はず」
ケイトに指摘されてしまった。わたしは慌てて紙ナプキンを取ろうとする。·····も、そんなに枚数がなかったのでポテトやナゲット食べた際の塩を落とすのに使ってしまっていた。仕方ないので指で拭うがいまひとつソースのぬるっとした感覚にたどり着かない。
「あはは、けっこう変なところについてるよ。もうちょっと上」
「ここ?」
「そうじゃなくて·····ちょっとごめんね、ほら」
そう言ってケイトは親指でわたしのソースを取ってくれた。たしかに思っていたよりだいぶ上の位置である。どうやってつけたんだこれ。·····と思うと同時に。
「(ち、近っ!!!!!)」
優しくソースを拭いとってにこりと笑われてなんだかめちゃめちゃ恥ずかしくなってしまった。一気に顔に熱が集まる。·····いやケイト相手になにを照れてるんだ!何回も部活の合宿やら飲み会やらで雑魚寝した仲じゃないか!!と思いつつ赤くなった顔がすぐに冷めるわけもなく。
「・・・そんなに顔赤くされるとオレも照れちゃうんですけど〜?」
そう言ったケイトの頬も少し赤くなっていて。·····え、なにこれやばくない?ケイト相手になにドキドキしてんの???いやいやいやいやまずいまずい。早く店出て買い物しよう。
「え、あっ、えっと、ごめ、その」
なにか言わなきゃ、そう思うのにうまく言葉が出てこない。しどろもどろになってしまって余計に心臓がバクバク音を立て始める。·····そのときだった。
「センセー。オレ腹痛くてバイト早上がりすることになったんでいまからクローバー先生のプレゼント見に行きましょー」
突然聞き慣れた声がして、わたしの左どなりにどすんと音を立ててトラッポラくんが座ったのは。
「わーーー先生めっちゃソースついてる。超子供じゃん〜オレ拭いてあげるね〜」
「っわ!?ちょ、やめなさい」
「はーい大丈夫大丈夫」
ごしごしごし。持ってきたのだろう新しいナプキンでトラッポラくんはわたしの頬を擦ってきた。え!?ちょっと!?なに!?やめて!?!?!?っていうかケイトが取ってくれたからぜったいいまソースついてないよね!?!?!?!?
「はい、綺麗になったねセンセー。じゃあ買い物いこうぜ」
「っはあ!?トラッポラくんバイトは!?」
「先生が受験生はバイトすんなって言ったんじゃん」
「いやわたしは勉強しろって意味で」
「いいからいいから。レッツゴー」
そしてトラッポラくんはわたしの腕を取り立ち上がった。同じくびっくりしていたケイトも慌ててトレーの中身を片付け始める。
「だ、だから生徒とプライベートでは」
「ちょっとこの店うるさすぎて何言ってるか聞こえなーい。で、そこのひと、どこ買い物行くつもりなの?」
「タオルとトレーナー買うつもりだよん」
「ちょっとケイトもなに答えてんの!?」
「じゃあ3階だね。行こっか」
そしてわたしはトラッポラくんに腕を引かれたまま店を出た。ケイトは後ろでクスクス笑っている。
え、いや、ちょっと待って。ちょっとこれ、どういう状況!?