カルトちゃんは終始むすっとしてたけど、だんだん口数は増えてきたしときどきほのかに笑ってくれるようになった(嘲笑のような気もしたけどなんにせよ殺傷威力がものすごかった)。
しかも今度カルトちゃんが着古した着物をいただくことになった。嬉しすぎる。
あっもちろんにおい嗅いだりしないよ(たぶん)!着るけど!頑張ってビッグライトを創りだそう、、、あ、クロウカードにもビッグってあったな、あれでうまいこと調整しよう・・・
そんなこんなで今日はとても楽しい一日だった。帰りにカナリアちゃんと自己紹介をしあって少しだけお話できたし、ゼブロさんにお饅頭ももらったし!
そしてあたしはご機嫌上機嫌で、ジンさんの元へ帰るのだった。
「ただいまー!」
第11話
そしてグッバイ
「おかえり」
あたしがにこにこしながら帰ると、ジンさんは優しく迎えてくれた。ん、なんか違和感。なんでだ。
心の中で首を傾げるも穏やかに笑うジンさんに何も言えない。なんだろう。昨日からちょっとおかしいような。
「今日はどうだったんだ?」
「あっはい!えっと」
そのなんだか少しもやっとした感じに名前をつけられないまま、とりあえずあたしは今日の出来事を話した。
ゾル家を楽々突破できたこと、あこがれのカルトちゃんに会ってちょっと仲良くなれたこと、お菓子がおいしかったこと。
「あ、あとお饅頭もらったから、ジンさんいっしょに食べ…」
「サナ」
凛とした声に口をつむぐ。
何を言われるかわかった気がした。
「お別れだ。
もう、お前にオレは必要ない」
ジンさんが苦しそうじゃなかったら、大声を出していたかもしれない。
「…どうして、ですか」
「貯金は貯まったな」
「うん…」
「どれくらいだ」
「たぶん、数ヶ月は何もしなくてもそこそこ贅沢に生きれるくらい…」
そうなのだ。
たった2回で、あたしはそれだけのお金を手に入れてしまった。
「お前に最初に紹介したやつはわりと羽振りがいいし、一度依頼したやつにはよくリピートする。まあ、ああいう業界の中では黒い噂は少ないほうだ。
お前は純粋だし中身がわりとガキな単純バカだから、あんまり受け入れられねェかもしれんが」
「・・・」
「それにゾルディック家とパイプができたなら、あとは自分で仕事もできるはずだ。ハンター試験を受けてもまず落ちないだろう。そしてオレに教えられることはもうない。これからはお前がひとりで考えなきゃいけねェんだ」
淡々というジンさんに胸が痛くなった。
そんなこと言われても、知らないよ、わかんないよ。
「でも、まだあたし、ジンさんと会って1ヶ月とかしか…」
「必要以上に別れを伸ばしてもいらねェ情が移るだけだ」
「!
い、いらないって、」
「サナ、オレはお前の家族じゃない」
ジンさんの言葉はただの真実なのに、びっくりするほど胸に刺さった。
「わかったか」
「…わかんない」
「わかれ」
「・・・ッ、」
寂しいよ!そう言ってしまえたらどれだけ楽だろうと思った。
でもジンさんだって寂しそうだったからそんなこと言えなかった。
この世界でできた初めての大切なひと。ほんとのことしか言わないひと。
いつかこうなるとは思ってた。ただあんまりにも早すぎた。
「・・・わかれ、サナ」
言い聞かせるように諭すジンさんは、いつもより大人の顔をしていた。
あたしはそれが無性に切なくて、そんな顔をさせるくらいならと、目を伏せて頷いた。
ジンさんが、わらった気がした。
「最後の課題だ、サナ」
優しい風が吹いた。
今日はいっしょに寝ましょうねって言ったらジンさんは快く承諾してくれた。
特に会話はしなかったけど、あたしはジンさんの前でカードキャプターさくらの杖とビッグのカードを創り出せたから満足だった。まだ生き物はおっきくできなかったけど、葉っぱはじゅうたんくらいになった。
ジンさんは便利だなって誉めてくれた。ちっちゃい綿みたいなのをおっきくしたらふわふわのベッドになりますねって言ったらもうちょっとましな使い方しろって言われた。でもジンさんだって考えてたのはごはんのことなのに。
そして夜はだんだん更け、あたしとジンさんはいつも通りの少しだけの距離を取って寝た。眠れない、なんてことはなかった。
でも。
「(やっぱり行っちゃうんだ)」
たぶん今は0時だろう。あたしがさっき「今日はいっしょ」って言ったから、ジンさんは素直に日付が変わるとともに動き出した。
その気配で起きたけど、あたしは目を開けない。なんとなく。
でもジンさんはきっと、あたしが起きちゃったってこと気づいてるんだろうなあ。
そんなことをぼんやり考えてたら空気が揺れる音がした。きっとジンさんが口を開けて閉じたんだ。
彼はほんとのことしか言わないけど、ときどきとても口べただ。
すると風が動いて、あたしの髪は少しだけ武骨な手に撫でられた。
ああ。泣きそうだなあ。
ジンさんの口が開いて閉じる音をまた聞きながらそう思った。
そして彼は離れていく。遠ざかる足音。
薄目を開くと遠くなった背中に乗った首は、少しだけこちらを振り向いてるような横を向いてるような曖昧な角度をしていた。
さようなら。
ひとつ涙が落ちるのを感じて、あたしはまた目をつぶった。