「思い立ったら即行動よ!」
メンチに言われるがまま、帰ってすぐにあたしは天空闘技場へのアクセスを調べた。
第17話
惹かれあうんだ
わりとめんどくさくて、自力で飛んだほうが早そうだなあ。
そう結論に達してさっそく荷物をまとめる。まあほとんどなんにもないけど。
チェックアウトはあしたの朝9時。
今から飛んでホテルを探すのはちょっとしんどいし、あしたの朝イチで出よう。
「・・・」
動くときはわりとあっけなくここを出れるもんだな。
今まで変に、ジンさんとのたったたった少しの思い出に固執していたのに。
することが見つかるとやっぱり違う。
あたしが昔もとの世界で、親や先生に言われるままに素直に勉強をして就職してルールを適度に守ってきたのも、それがいちばん楽な“敷かれたレールの上”を歩くと言うことだったからかもしれない。
まあ今さら何を言ったって昔には戻れないんだけど。
「んー」
でも道が見えたらはやくそれに向かいたくなるね、あたし単純だから。
この街とお別れするにしても、別にただしがみついてただけで思い入れがあるわけでもないし…
「あ」
いいこと思いついた。
と思ったけど撤回します。
ぜんぜんいいことじゃなかった。
なんか忍っぽい雰囲気をかもし出している猫のお面をつけて立ち尽くすあたし。
おててにはマイク。
何を思い立ったのかって、そりゃ、
「(最後だし、ジンさんと来たところで歌ってみようと思ったんだよう…)」
なるべく静かな場所を選んだけれど、やっぱり他のひとの音にびびる。
日本じゃぜったいおまわりさん来るようなバンドサウンドのグループもいるし、なんか遠くのほうでトランペットも聞こえるし、とにかく。
「(場違い感はんぱない)」
のだ。
あたしの装備はマイクとCDコンポだけ。
でもせっかくここまで来たしなあ…しゃがんでうんうん唸っていると、頭上から声をかけられた。
「おねーさん歌わないの?」
びくぅぅうっ!!!!!
おもいっきり肩を跳ねさせて焦りまくると、クスクス笑われた。
だ、だれだっ…!!!
少しぷるぷるしながら声の人物を見上げる。
そこに、いたのは。
「え」
「てかなんでそんなお面つけてんの?ネコ?」
キルア・・・・・だった。
キルア!?
ど、どうなってるんだろう…なんであたしいまキルアといるんだろう……
なぜかあたしはキルアと並んで体育座りをしていた。
なんで?なんでなの??
そしてほんとになんでお面かぶったのあたし?????(ジンさんに顔隠さないと補導されると言われたからです)
キルアからは血のにおいがしていた。お仕事帰りなのだろうか。
キルアは座って黙っている。…帰りたく、ないのかな?
「あの」
「ん」
「チョコ、食べる?」
「食べる!」
とりあえず手持ちのチョコレートを渡してみる。緊張するだろうからってさっき買ったやつだ。
キルアはチョコレートが好きだったはず。あたしには負けるけど。
「サンキュ。うまい」
「うん。あたしもこれ好き」
よくわからないけれどキルアが笑ってくれた。ぼっと顔が赤くなる。かかか、かっこいい…
実は、キルアは。
ずっとずっと、だいすきなひとだったのだ。(画面越しの恋)
ゾルディック家行っても一回も会えなくてしょんぼりしてたんだけど、…人生、何が起きるかわかったもんじゃないなあ・・・。
「なんでそんなお面つけてんの?」
「この年で歌ってたら、補導されるから…」
「え、いくつ?」
「14」
「へー」
めちゃめちゃサバを読んだ申告に胸を痛めるも、そもそもキルアは興味がなさそうに相づちを打つ。
ああ。
かっこいい、なあ。
「キ…けほっ、あなた、は?」
「オレ?オレは帰りたくなくて」
あぶな。名前呼びそうになった。
小さなちいさな声は、お面に阻まれて届かなかったけど。よかった。
・・・それにしても。
「帰りたく、ないの?」
「うん」
「そっか…」
帰りたくない理由なんて、ゾルディック家にはいっぱい転がってるんだろうなあ。
あたしはキルアの素性を知ってるから、余計に何も言えない。しかもゾル家と繋がりあるし。
「…おねーさんまだ歌わないの?」
「あ…えっと、」
「じゃあちょっとだけオレの愚痴聞いてくれる?」
どうして彼があたしに話してくれる気になったのかはわからないけど。
あたしはできるだけ力を込めて、うん、とうなずいた。
あたしのせいだった。
ほんとにあまりの事態にお面の下であいた口がふさがらない。
ふさがらなすぎて口カラッカラになってきた。困る。どうしよう。
昨日の夜。
つまりあたしがディアエラの花を届けたあとだろう。
母親に、自分か長男(ってことはイルミ)のどっちかに婚約者ができると言われたらしい。
最近何でも屋をはじめたっていうのとキルアと年齢が近いこと、弟と兄貴はパソコンとか着物あげるくらい気に入ってるんだからそいつらと婚約しろっていう愚痴、ミルキのこないだの話、そしてこのタイミング。
「(あたししかいねえ…)」
あたしはただひたすらにお面の下で顔をひきつらせるのだった。
「どうせオレの両親が気に入るようなやつなんだからゴリラみてーな女に決まってんだよ、ぜったい!
あー腹立つ。自分の人生ぐらい自分で決めさせろってんだ!」
「そ、そうだね…」
ゴリラか・・・。
複雑なきもちになりながらも曖昧に受け答える。
ごめんなさいそのゴリラは君のとなりに座っています……
「ったく。はーなんかすっきりしたわ!ごめんな!さんざん愚痴付き合わせて」
「いやいや、これでキミの気が晴れるなら…」
「いいヤツだなーお前。名前は?」
「
えっと」
名前…名前!?
本名はゼノさんもカルトちゃんも知ってるしこのまま話が進めば必ずばれる、それはだめだそれは避けたい!
CATとかもいちばん名乗るわけにいかないし………
「・・・RAIN」
「RAIN?」
「うん、RAIN。」
そしてあたしはとっさに自分のハンドルネームを名乗るのだった。
きっと新一ってこんな気持ちで江戸川コナンを名乗ったのね…!
「そっか。オレはキルア。
そろそろ帰んなきゃまた家の連中がうるさいし、帰るわ」
「あ、うん…」
「そうだ最後に1曲だけ聞かせてくんね?せっかくだし。
なんかすっきりするやつ」
「ぇえ」
キルアは明るくそう言うけれど、あまりの無茶ぶりにあたしは途方にくれる。
このひと、こんなにもマイペースなのか…!!!
「すっきりするやつ…?」
「うん」
「・・・わかった」
とりあえずあたしは困りながらもそっとCDコンポのボタンを押した。
立ち上がり、キルアを見る。
ああ、いくら想っても届かなかったひとがこんな近くにいるんだ。
「・・・」
口元だけ、お面をずらす。
息を、吸い込む。
うまく歌えるだろうか。
…目を見ては歌えないけど。
あなたに、届くといいなあ・・・。
すこしでも、あなたに。
───家を、出よう。
今まで何度も思ったことはあった。
でもそれに現実味はなくて、ゆるゆるとぐだぐだとあきらめながらなんとなく日々を消費していた。
それを、あいつは。
一息で。
「
バイバイ 長い夢! 」
まるで魔法のような歌を。
「…ありがとう、ございました」
歌い終わったあと口元だけではにかんだ、その面をつけた女は。
たったの5分で世界を変えた。
初めはオレひとりだったのにいつの間にかまわりには観客がたくさんいて。
曲が終わってはじめてそれに気づいたオレは、ただただ目を見張るのだった。
ぼうっとしながらRAINを見ると少しだけ首を傾けて口角を上げてオレを見たので、たぶんお面の奥では目を細めて微笑んでいるのだろうと思った。
「・・・」
きっと、きれいな瞳で。
とても美しく、わらうんだろう。
そんな確信をすると同時にギャラリーがけたたましいほどに手を叩く。
次を、次をと急かすそいつらにRAINは慌てながらまたCDのボタンを押した。
「
愛されたいよと大きな声で」
ああ、また世界が。
変わっていく。