ほうら始まる

夢(ドリーム)設定しおり一覧
名前は知らない。

顔も知らない。


そんやなつに勝手に元気と勇気をもらって家を出るほど、感受性が強い人間だったなんて自分でも驚いた。



ただ、だから知りたいと思った。

せっかくだし顔も見たいと思った。


声がきれいだから美人だろう、なんて変な妄想を押し付けんのもあれだし(そうじゃないパターンのほうがありえそうだし)。


だからわざわざ天空闘技場のほうまで来てみたら。



「…んだコレ」



聞き覚えのあるあの澄んだ声に群がる、人、人、人。

合いの手までいれたり口ずさんだりしてるヤツもいて、短期間でどんだけファンがついたんだと開いた口が塞がらなかった。



あいつはオレを覚えているんだろうか。
オレばかり印象が強いだけで、もう忘れているかもしれない。

そうとなればここにいても意味はないだろう。
天空闘技場にいい思い出もないし、もう一回小遣い稼ぎに使うにも家のヤツにバレるかもしれないと思うとリスクがデカすぎる。


人ごみの中それでも無理して覗いて見たところで、あいつは別の方向を向いて音を紡いでいた。




ああ、生きる世界が違うんだった。


あいつとオレとじゃ。




音をバックにソッコーホテルに戻って、電脳ページをめくってみたらあいつはもうやっぱりネット上でかなり有名になっていた。



RAIN。

路上に突然現れた、正体不明のキセキ。




第23話
知らないところで





「はああああぁー…」



いっそもう天空闘技場から逃げだしてしまおうか。

あたしはベッドの上、タオルケットをかぶったままため息をつく。
夏も目前だしあっついしもうなんかもう何もかもやだ。


資金はすでに十二分に貯まってるし一刻もはやくピエロとねずみから逃げたい。




「あ゛ーーーーーーーー」


寝て起きたら何もかも夢だったような気もしてきたんだけど、パリストンにもらったかわいらしいにゃんころりんのハンカチが入った袋は机の上に置いてあって。
ああ猫嫌いになりそうぬこ様に罪はないのに…


とりあえず今日は一戦だけしてはやく事務所を見つけようとおもう。もういやだあいつらに出くわすのもういやだ平穏に生きたい平穏に生きたい平穏に生きたい平穏に生きたい。


・・・まあなんか途中で闘技場放り出すのはそれはそれで中途半端でもやっとするけど。だから200階まで戦うけど。


しっかしなんでこんなパリストン嫌なんかねェ…。そんなに実害ないと思うんだけど・・・。


昨日のごはん中の終始うさんくさい笑みを思い出してあたしはまたため息をついた。


ただいつまでもそんなこと言ってぐだぐだしててもなんも始まらないし、とりあえずあきらめて布団から出て戦って事務所決めよう。


事務所決まったらメンチにおいしいお菓子作ってもらうんだーい。あっじゃあキッチンおっきいとこにしないと!


よーしと無理やり気合いを入れ、足を上げてビュンと反動で起き上がる。

アモリ?イモリ?ウモリ?どれが長男か忘れたけど、あの三兄弟と戦うときのキルアみたいな感じだ。



ああキルア会いたいな。会いにきてくれたりしないかな。

なーーんて!
お風呂入ろう。






















「私が次の試験官を…ですか?」
「うむ。引き受けてくれるかのう」
「それはもちろんですが…私には荷が重すぎるかと…」
「ふぉっふぉっふぉっふぉっ。
その腕前で何を言う」


サナがのんびりと風呂に浸かっているあいだ。

メンチとネテロは茶を啜りながらこんな話をしていた。

半年後にはハンター試験が始まる。
会場の準備、試験内容、トラップ、そしてもちろん試験官。


ハンター協会は翌年の試験のために動き回っていた。



「しかし私でいいのでしたらたいへん光栄なお話です。喜んでお引き受けさせていただきます」
「うむ。おぬしならそう言ってくれるじゃろうと思うておった」


最初は依頼内容に少々困惑していたものの、頷いたメンチにネテロは満足気に頷いた。
話がまとまったふたりはまた茶を啜り、メンチが持参した手土産を口にする。



「にしてももうそんな時期なんですね。自分が試験を受けたのも遠い昔に感じます」
「あの頃から食に対する強い意思はまったく変わっていないようで安心じゃよ」
「もちろんです!以前もディアエラの花を取りに・・・あ、そういえば次の試験に友人が受けるかもしれないのですが、それでも私で問題ありませんか?」
「友人?」
「そのディアエラの花を取りに行く際いっしょになったんです。」



メンチはネテロに話しながら友人であるサナのことを思い出した。
そういえばこのあいだ電話をしたときに来期の試験を受けると言っていたような気がする。


まあ、彼女はとても強い。
自分が贔屓などしなくても簡単に試験をクリアするだろうし、そんなことをしては彼女自身に怒られる。するつもりも毛頭ない。



「それはまた奇遇じゃのう。
しかし試験官はおぬしひとりではないし、試験に辿り着くまでも数々の難関が待ち受けておる。気にすることもなかろう。
それにおぬしが友人だからといって厳正な試験で贔屓などすることはないじゃろうしの」
「もちろんです!では安心して試験官を務めさせていただきます」


笑顔を見せたメンチにネテロは頷き、またメンチが持ってきた菓子を口にいれる。
いつだって彼女の選んでくる菓子に間違いは決してない。



「しかし友人か。どんな子なのじゃ?」
「明るくて元気でかわいらしい子ですよ。それにとても腕が立ちます。
次の試験は確実に合格するでしょうね」
「ほう。おぬしの眼鏡に適うとは、よっぽど素晴らしい人材なのかね?」
「はい!何でも屋をやってるんですが、あれはきっと天賦の才でしょうね。念、体術、頭の回転、どれをとっても文句のつけどころがありません。
少々天然ですけど」
「ほォ」
「そろそろ事務所を持つみたいなのでもしよろしければ一度覗いてみませんか?きっとお気に召すと思いますよ」
「ふむ。おぬしがそこまで言うのなら、一度行ってみようかのう」
「ぜひぜひ!これが連絡先です」


CATか。

ネテロはメンチに教えられた名前を頭の中で復唱した。







メンチは知らない。

このたった数分の会話が、サナの運命を変えることになるなど。


ハンター協会会長と繋がればサナの仕事も広がるだろう。


たったそれだけの思いやりが、サナのこれからの人生すべての歯車を回してしまうことを。




サナは知らない。

まったく関与しないところで、これから自分の未来が大きく動き出し始めていることを。

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