「急な話になるんだけど、7月中に軽くデビューしない?」
「ぶっ」
ネオプロダクション、事務所。
リッドさんがプロデュースに全面的に関わってくれるそうで、あたしは近くで売ってるタピオカミルクティーをすすりながらソファに座って彼とお話していた。
しかし今回はあまりの内容に思わずタピオカをつまらせる。
「い、いまなん…て…」
「7月中にキミをお披露目したい」
「7月中って・・・もう6月も半ばを過ぎましたが?!」
「そうなんだけど、せっかくだし」
ね、とにこやかに笑うリッドさんは、食えない。
若いのに敏腕だし上司からも信頼されてるみたいだ。あたしもだいすき。でもなんかもうすごいつよい。っょぃ。
「具体的にいつぐらいですか…?」
「末かな」
「あと一ヶ月半しかないじゃないですか、別にいいですけど…。
軽くって、どうやるんですか?」
「うちのホームページとMYTUBEで動画を出そうと思って。先行デビューっていうか。
動画だけ出して人気煽ってそのあと本格的に活動してもらおうかなって」
「ど、動画って…顔は出しませんよ」
「わかってるよ」
リッドさんは微笑み、戦略をいろいろと説明し始めた。プロモーションのしかたとかだ。いまちょうどネットであたしのストリートライブの動画がバズっているらしく、いま形だけでもデビューしたほうが今後のためにいいらしい。
正直よくわかんないからぜんぶ任すつもりだけど、顔を公表しないっていうのからミステリアスなキャラクターにしたいらしい。無謀。
あたしにそういう単語似合わなすぎると思うんですが(強化系だし)って言ったら、その中でにじみ出る人柄でファンを掴むだとかなんとか言われた。つまりアホをスパイスにしたいそうだ。契約切るぞ。
でも7月かー…7月・・・
「あ」
「なんだい?」
「どうせなら、7月7日にしたいです。そちらがだいじょうぶなら、あたしほんとに体力オバケだからどんだけしんどくてもだいじょうぶなんで」
「えっ…ほんとかい?けっこうハードになるよ。
軽くストリートやスタジオで歌ってるやつを動画にするだけになるだろうから大丈夫だとは思うけど、編集とかに時間をかけたいからすぐに動かないと」
「いまの持ち歌でいいのなら、ゴーサインさえ出ればすぐがんばります」
「うーん、そこまで言うならこっちも頑張るけど…とりあえず上にかけあってみるよ。それに7月7日ならうちの事務所主催のライブがあるから、もしかしたらそこでちょっと時間もらってデビューの場にできるかも」
「えっ、そんないいんですか」
「まあまだ確認とらないとわからないけどね。でもなんでその日にしたいの?」
「それは…」
あたしに勇気をくれたひとの、お誕生日だから。
第24話
甘いのがお好き
とりあえずスケジュール決まったら連絡すると言われたのでいったん帰ってきた。
実は昨日事務所が決まり早速使っている。わりといい物件を格安で紹介してもらった。前にただで時計を直してあげた相手からだ。いいことはするもんだねえ。
「どれにしよー…」
あさってまでにどの曲でデビューしたいか決めてきて、と言われたけれど明日はメンチが遊びに来るしなるべく今日中にぜんぶ決めちゃいたい。事務所側の意向もあるからあたしの選んだ曲で100%いけるわけでもないし。
ふぅ、と一度ため息をつく。
自分の曲なんだからどれにも思い入れがある。
昔から本当にそうなんだけど、複数あるものの中からひとつを選ぶのは苦手だ。
困って頭を掻きむしった瞬間。
ピーンポーーーン。
「コンニチハ◆」
「?!」
突然チャイムがなり、その直後あの独特な声が響いた。
背中を走る寒気に居留守を決め込もうと両手で口をふさぐ。
このままじゃ!!!曲決めるどころじゃ!!!!なくなるっ…!!!!!!
「いるんだろう?わかってるよ★」
「・・・」
「事務所ができたら真っ先に教えるって言ったじゃないか◆」
「(言ってない)」
「友達なのに寂しいだろ★」
「(友達じゃない)」
「CAT◆」
「(聞こえない)」
「・・・開けてくれないとこの扉ぶちやぶって…」
「こんにちはーヒソカ来てくれたんだぁ!ヒソカなら教えなくてもぜったい来てくれるっておもってたの!!」
「そうかい★」
ガチャッとドアを開けると満足そうなヒソカ。
あー………
やっちゃったー…………
「へー、わりといい部屋だね◆」
「どーも…」
今度こそ本格的にげっっっっっっそりしながらも一応お茶を出すと丁寧に微笑み礼を言われた。
マトモにしてたら顔はもんのすごい整ってるんだけどなあ…残念である。
「何してたの?」
「んーちょっとねー」
「なんだい、言えないようないやらしいコトかい★」
「違うわっ」
ツッコミを入れるとヒソカはいつも通り飄々と笑ったのち、お茶を一口飲んだ。
つかめないやつだ・・・。
「ていうかヒソカは何しにきたの」
「まったりしに◆」
「帰れ」
「ケーキ買ってきたよ★」
「・・・」
ヒソカはニッコリしながらケーキの箱が入った袋を持ち上げる。
…それ好きなやつだ。
「CATってさあ◆」
「うん?」
「本名はなんなの?これ偽名でしょ★」
「ナイショです。個人情報」
「つれないなあ◆つきあったら教えてくれる?」
「教えないしつきあいません。ロリコンなの?」
「いまいくつ?」
「ヒミツ」
「・・・」
「・・・」
笑顔を保ったままのヒソカになるべく澄ましたまま向き合う(ケーキ食べながら)。
まあこのケーキはおいしいからちょっとくらい優しくしてあげてもいいかなあ…
「・・・名前はサナです。もうすぐ15、一応」
「あれ、どうして教えてくれる気になったんだい★」
「ケーキのお礼。ていうか闘技場にいるんだからちょっと調べたらわかるし」
ごちそうさまでした、とフォークを置いてすでに食べ終えていたヒソカの分とともに食器を片付ける。
「ヒソカ甘いものすきなの?」
「まあまあ◆」
「ふーん…おいしかった。ありがと」
「どういたしまして★」
こんなふうに普通にヒソカと話してるってわりと変な感じだ。
彼はふかふかのソファで悠々とくつろいでいる。
「で、ほんっとーにまったりしに来たの?」
「もちろん◆」
「じゃあ別にいいけど…なんかあったら言っ」
「幻影旅団★」
「ぶっ!」
「あ、やっぱりサナだったんだろ◆アジトに突然現れたオンナノコ★」
本日二度目の口から液体がこんにちは。
こいつ…笑顔で、なにを・・・!!!
「見た目の特徴は聞いてたから、もしかしたらって思ったんだけどビンゴか◆
もしかしてボクがクモだって知ってたからこんなに避けてたの?」
「ちちちちがう知らない避けてないアジトになんか行ってない幻影旅団なんか知らない…!」
「ウソがヘタだね★」
「・・・」
そうだヒソカはクモじゃないけどクモだった…ハンターファンとしては当たり前なのになんにもそこまで気にしてなかったばかだ…!!
「ま、別にクモのみんなに言ったりしないから安心して◆彼らはわりと真剣に探してるみたいだけど★」
「ヒィ…!」
なんという報告だ知りたくなかった。
こないだは無我夢中だったからなんとか逃げ切れたけど、あたしバカだからのんびりしてるときに罠とかしかけられたり奇襲に合ったらぜったいひとたまりもない…!
もしもパクとかに見つかったら未来の情報だだ漏れしてエライことになるし、クロロに技盗まれたらあたし生きる手段失う!!!!!
「ホントにキミはおいしそうだ…いったいどんなことをどこまで知ってるんだい?」
「な、なにも。なんにも知りません。ワタシフツウノ女学生ネ」
「そういえばそんなしゃべりかたするメンバーもいるね◆」
「・・・」
いや今のは反射的に出ただけでべつにぜんぜんフェイタンを意識したわけでは…。
「ま、いいや★
そろそろボクはいくよ、十分楽しめたし◆
また遊びに来るね★」
「(来るな)」
「来るね◆」
「・・・待ってます。」
あまりの威圧感にあたしは引き攣った笑顔で手を振るしかなかった。
もうやだこのピエロ…。
ヒソカが出ていって扉が閉まってから、あたしはまたパソコンの前に座り曲選びに戻ろうと大きくため息をついた。