どうしてこうなった。
この世界に来てからたくさん意味のわからないことが起きた。そもそもここに来れたこと自体意味わかんないから(嬉しいけど)しょうがない気はしているものの、まあその衝撃が薄れるほどにいろんなことが起きてきた。
あたしはたぶんそんなにキャパが大きくないし、わりと頭がパーンとしちゃうほうなので、そのたびクールダウンしなきゃと飛〈フライ〉のカードを使って杖を空飛ぶ箒みたいにして空を散歩?飛行?浮遊?して心を落ち着かせていた。
のに!!!
「ほう、なかなか快適じゃのう!」
なんでその息抜きである手段で後ろにネテロさん乗っけてんだ…
第26話
猫の手を借りたい
「いやでもあたしハンターじゃないですし、」「まだ子どもですし、」「役に立てないと思いますし、」
そういった数々の断り文句にネテロさんは笑顔で問題ないと手を振り、メンチから聞いていたらしいあたしの移動手段に興味があるから本部まで乗せてくれと言ってきた。なんてジイサンだ。
「おぬしが未成年であることもまだハンターライセンスがないことももちろんわかっておる。しかしおぬしは今後おもしろい活躍をしてくれそうじゃからなあ」
「か、買いかぶりすぎですよあたしほんとにぜんぜんたいしたことないです…」
「それはワシが決めることじゃ。」
そう言ってネテロさんはのらりくらりとペースを崩さずまったく引かない。どうしたもんかね。
…別に十二支んの皆さまが嫌いというわけではない。とあるネズミを除き。
というかそんなに現状のあの団体になんの感情も持っていない。だからこそマイナス要素ばかりが目立つ。
あの中にメイン四人みたいな愛する人物がいるならまだ考えよう。
でもそうじゃない!会えて嬉しいひとが別にいない!!ジンさんくらいしかいない!!!!…ん。待てよ
「(ある意味課題クリアに繋がるかな…いやでもこの形でのクリアは不本意か…)」
とりあえず本部にネテロさんを送り届けてそれから丁重にお断りして帰ろう。
そう決めてスピードを上げ、本部の屋上に降り立ったところ。
「あれ?会長、お孫さんですか?」
後ろから、なんか声がした。
「いや〜驚きましたよー!このあいだあまりのかわいらしさに思わず声をかけてしまった女性が実は凄腕のハンターだったなんて!!」
死ねばいいのに。
となりでわざとらしい笑顔を浮かべるパリストン、おそらく嫌悪感を隠せていないだろうあたし、横並びにソファに座らされたあたしたち(めっちゃあたしは距離を置いてる)を眺めて前で楽しそうなネテロさん。
降り立ったタイミングでなぜか屋上の扉を開けてきたパリストンは、人好きするかもしれないがあたしからしたらほんとに吐き気がするような笑顔で近づいてきてそのまま同行しやがった。
こいつが副会長ってほんっとにSEKAI NO OWARIだと思うんだけど!!!!!!
「まさかおぬしらが知り合いだったとはのう。にしてもどうして屋上なんかに来たのじゃ?」
「マーメンさんにリリチナ共和国についての資料を渡しに行ったら会長の不在を嘆いていらしたので、理由を聞いてみたら『ご機嫌の会長がおもしろい子をつれて帰るから書類はすべて任せたと電話がかかってきた』なんて言うじゃないですか。
どんな子か会いたくて待っていたんですが、なんだか外の空気が吸いたくなりましてね」
そろそろ試験官を全員確定してほしいってマーメンさん嘆いてましたよ?
楽しそうに言うパリストンにネテロさんもまたいたずらっぽく笑った。
いや働いてやれよマーメンさんかわいそうすぎるだろ・・・
「いやあでもまた会えてうれしいなあ。連絡しようと思ったんですけど緊張してなかなかなにもできなくてね」
「さいですか…」
「ハハッ、つれないなあ!」
なんなんだろうこのひとほんとうにキモチワルイ…。
なんていうか、こう、自分がすっごい強化系みたいなとこあるからこういう意味わかんないひと苦手なのかな…なんか腹割って話せよみたいな…?こっちはいつでもマジばな2000%なのに・・・1000%だけじゃ物足りない?
「にしても会長のお孫さんじゃなくて安心しましたよ!さすがにお爺さんの前で口説く勇気は持ち合わせていませんからね。
ところで今日はどういったご用件で?」
きた。
ほんの少しだけどパリストンの空気が変わるのがわかる。
ほんとなんなのよこいつ…あたしのことどうしたいんだろ…最近会ったばっかなのにな・・・おもちゃにしたいのか…?
「うむ。実は彼女には十二支んに入ってもらおうかと思っておってな」
「十二支んに?欠員でも出たんですか?」
「そういうわけではないんじゃが…」
「あの!」
ふたりの会話がこのままだとあたしおいてけぼりで進みそうだったしパリストンにいろいろ素性ばれそうだったから頑張って声を出してみた。
あっなんかやたらおっきい声でちゃったさすがボーカル…
「どうかしたかの?」
「あの。だから、あたしハンターって言ってもまだライセンスとれてないですし、未成年だし、そもそもそういうのにあんま興味ないし、」
「ぜんぶ耳にタコができるくらい聞いとるのう」
「だったら!」
「まあそれらも考慮して、おぬしには十二支んの補欠メンバーになってもらいたくてな。
猫なんてどうじゃ?」
「は?ねこ??」
「うむ」
深く頷いたネテロさんはすっくと立ち上がり少しだけ歩き、それからこちらを見た。
…ま、マンガみたいな演出だ・・・。
「CAT。いや、サナよ。
おぬしを見たときピンときた、この子はとてもおもしろい人材であるし可能性に満ちておると。
せっかくじゃからここもキミの舞台のひとつにしてもらえんかと思ってのう。
まあ補欠といってもときどき遊びに来るくらいでだいじょうぶじゃ。メンバーの中にはふらっと消えたまましょっちゅう音信不通になるやつもおるしのう」
「(ジンさんのことか…)」
思い当たる人物を浮かべるも苦笑するわけにもいかず口を歪めるしかない。
「特に気負う必要はない。しかしおぬしの何かがきっとこの世界をよくするような気がしての」
「いやあ…だから買いかぶりすぎだと…」
「それを決めるのはワシだと言ったじゃろう?それにワシのカンは基本的に外れん。
まあ選ぶ権利はキミにある。本気で嫌なら無理にとは言わんよ」
ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。
そんな勢いで笑うネテロさんはどこまでも肩の力が抜けていて。
あーもうだめだ拒否しきれる気がしない…全力で日本人気質を発揮させてしまっているあたしは、小さくため息をつく他なかった。
「まあ…やるだけやってみます…」
「うむ、そう言ってくれると思うとった!」
ほんとに食えないジイサンだ。
選ばせる形を取るみたいなふりをしながら自分のおもうままに誘導したくせに。
ったくどうなることやら…チラリと横目でパリストンをみると、なんかすっごいヒソカみたいなやらしい目でこっちを見られていた。口元は笑ってるけど。
…ねえ、猫が十二支に入れなかったのって、確かさあ・・・。
いや、いいや。
そんな日本昔話はとりあえず忘れて、これからの日々を憂うとしよう…。