「お?なんか大型新人デビューだって」
「へー。どういうの?」
「女の子みたいよ。ほら、短いやつがMYTUBEに上がってる。二日で100万回再生だって」
「え、やば。聞いてみよ」
ネットの拡散能力というものはものすごい。
素人でも運が良ければ一躍有名になれる時代。
大手プロダクションが広告に力を入れたのならなおのこと。
特設ページにてデビュー動画が公開されたかと思えば、瞬く間にRAINは有名人になっていた。
「なにこれ」
「真っ白だね。無音だし」
噂の動画を見てみようと、クリックすると同時に広がる数秒の無。
二人が首を傾げた瞬間、曲のない、アカペラの声だけが流れてきた。
『
越えて 君に』
突如色づく画面の中の世界。
髪の長い女性がレコーディングスタジオでマイクに口元を向けていた。
映っているのは鼻から下のみ。
顔はわからないものの、形の良い唇から溢れるメロディは・・・。
『
会いにきたの』
胸を射抜かんばかりの愛を、感じさせるものだった。
第27話
終了のお知らせ
『わたし、うまれる』
あたたかい歌声の後、澄んだ声が告げる。
『RAIN、First Single
birth to youーーー…
7月7日、配信開始』
「え、ウソ!最近話題のRAINってあんたなの?!?!?!」
「じ、実は…」
ネオプロダクションが大手事務所なのはわかってたし、プロモーション力すごいのもわかってたけど…まさかメンチに「ねえねえこの歌手知ってる〜?」なんて自分を布教されるはめになるなんて。
今日はメンチが遊びにきていて、プロモーション動画を見せられてどうしたらいいかわからずモゾモゾしたらばれた。
「あんた売れない歌手もどきみたいなことしか言ってなかったじゃないの!!!えっRAINなの?!RAINなの?!ねえ早くフルバージョンの配信して?!なんでそんな焦らすの?!好き!!!!!」
「えっありがと〜メンチだいすき〜」
「ありがと〜じゃないわよ!」
そういうことは早く言いなさい、とガミガミ怒られるもまだデビューしてないんだからあたしわりとウソついてないと思う。ちなみに今月に入ってプロモーション動画のショートバージョンを公開しただけで、まだデビューはしていません。7月7日に1曲だけ配信開始、そして事務所のライブにてお披露目。
7月7日に間に合わせたい、という相談をしたらなぜかもっと巻きになって慌ただしくなってしまった。
まああたしとしては全然ありなんだけど、デビューに携わってくれる皆さん死なないかしら・・・。
「にしてもあんた本当に時の人ねえ。CATのほうもわりとすごいんでしょ?十二支ん入ったみたいだし」
「正式メンバーじゃないから別にすごくもなんともないよ。まあでも名刺交換してから仕事はだいぶもらうようになったかな」
「猫なんでしょ?耳つけないの?」
「絶ッ対つけない」
「なーんだ」
カラカラとメンチは楽しそうに笑う。メンチのこういうハツラツとした感じすきだ。
「でもよくオフ取れてるわねえ。死ぬほど忙しいもんじゃないの?」
「念使えてたらなんとかなるよ。裏のほうの仕事だったら念獣で事足りることあるし、歌手のほうもそんなに露出しないから撮るものとかもないし」
「そういうもんなんだ」
「まあデビューの仕方も変わってるからねえ」
ふーん、と返しながらメンチは一口ジュース(持ってきてくれたみかんジュース。でらうまい)を飲む。
「でもなんか欲がないのねアンタ。そういうとこすきだけど」
「えーやだあたしもだいすき」
「はいはい。
ていうかなんで歌手もやってんの?話してる感じ、めっちゃやりたかった!って雰囲気でもないけど」
「ん?
あーそれは…」
会いたいひとが、いるから。
「そんな金どっからわいたんですか…」
「いやそれが君にものすごいスポンサーがついて」
「スポンサー?」
デビューライブの前々日。
そこへ来て大量の変更を知らされた(変更っていうかグレードアップ)。
ちなみにデビューライブって言ってもうちのプロダクション自体のフェスみたいなもんだから、都合がついた歌手は基本的にみんな出る。わりとわんさか大手が出る。
このライブはもともと予定されていたものだけれど、チケットは瞬殺だったらしい。
改めて大きい事務所に所属させていただいたなあと思った。
「何をしてるのかはわからないけど大富豪だね。うちの株もだいぶ買ってくれたし」
「怪し過ぎるでしょ…ていうかあたしの衣装とか宣伝じゃなくてもっと他に金使えよ…」
「まあこっちとしてはありがたいんだけど。ネットで中継だけの予定が地上波で放送できてしかも三ヶ国に流せるなんて」
「どのレベルの金持ちですかほんと。ぜったいなんか裏があると思うんですけど」
「裏っていうかねえ…」
訝しむあたしにリッドさんは少し悩むそぶりを見せたあと、あえて明るく言ったほうがいいとでも思ったのか最後に星を飛ばす勢いで言った。
「顔をちゃんと出したキミに会いたいんだって!ちなみに社長はもう承諾しちゃった☆」
ぴく。
おそらくあたしはマンガみたいに…なんならあのゴエン(287期ハンター試験会場のね!)のおやじさんのように耳を動かしたと思う。
は?ほんとに?????
「・・・お断りは?」
「デキマセン」
「…まじ?です?」
「マジです。ちなみに出番もRAINもトリにしろとのこと」
「トリィ?!トリはSNAPで決まりじゃなかったですか?!」
「うーんそのハズだったんだけど…まあ君のお披露目でもあるしいいんじゃないかな」
「えええええ」
なんなんだろうそのひと一体…何が目的なんだろ…
たかが歌手応援して顔見るためだけに(たぶん何十億の)大金出すか…?
なんかあるとしか思えないんだけど。
ていうか裏稼業のほうに関係してきてる気しかしないんだけど。
そうなるとあたしのこと追ってるらしいひとつの団体とかが浮かんじゃうんだけど!!!!!!
「どんなひとかとかわかります…?」
「ん、ああ一応遠目からだけどちらっとは見かけたよ。それがかなり美形な好青年でね、うちのモデル科にほしいくらいだった!」
「…お名前は?」
「あ、そういえばまだ聞いてないなあ…。君が会うときに改めてご挨拶しないといけないんだけど」
名前くらい聞いてろよリッドさんの役立たず!!!!!!
とりあえずこの悪態は心にしまってその人物について考える。
…イケメン好青年とか言われたらどうしても一人の人物が浮かんでしまうなあ・・・。
いやもしかしたら本当にただの金持ちの一般のファンのかたなのかもしれないけど、どうしても…こうなんかこう、強化系(性格)の勘が違うって言ってる!!!!!
「…もしかして身長高くて黒髪オールバックのファーふぁっさーってした服のひとじゃないですか?なんかやたら威厳のある」
「ふぁ、ふぁっさー?
いや違ったけど」
「じゃあちょっと童顔でスーツきこなした黒髪短髪の男のひとじゃ?額に包帯巻いた…」
「?
いや、黒髪じゃなかったよ。確か金か茶ぽかったような…」
「金か茶?」
それ、もしかして。
「物腰穏やかな好青年って感じだったよ。ちょっとホストっぽい雰囲気はあったけど。
声も男性にしては高めのいい声だった。頭が良さそうな気品のあるひとだよ」
「…どっかうさんくさくなかったですか?」
「・・・そう言われると何もかもが完璧すぎてそんな気もするけど。でもなんて言うんだろう、ちょっと裏の社会で生きてそうな感じはしたなあ」
…それ、パリストンじゃね?????
頭に浮かんだうさんくさい笑顔にあたしは思わず眉をひそめる。
リッドさんも念使えたらたぶん強化系だからわりと勘当たりそうな気もするんだよねえ…
「(ていうか、やりそう)」
パリストンの金で人気出るくらいなら歌手辞めたほうがマシって言うかCATのほうの稼ぎぜんぶこっちに回す。
あいつひとが嫌がることすんの好きだから考えれば考えるほどビンゴな気がしてきた…
「とりあえずライブ前にお会いするようになってるから。一応ちゃんと愛想よくしてね」
「はーい…」
パリストンだったらしないけどね!!
あたしは心の中でそう毒づきながら返事をした。
そして、当日。
「RAIN、この奥の部屋にいらっしゃるから。部屋入る前に仮面取ってね」
「はーい…ひとりで?」
「うん、でも5分くらいだから!一応前に警備員いるから大丈夫だよ」
「(もしパリストンじゃなくて別の裏の人間だったらそれじゃ済まないよ…)はーい」
まあそれでもあたしが自分でなんとかできるからいいけどね。
ふう。深呼吸とため息のあいだみたいな呼吸をして、警備員さんに一礼したあとあたしはノックをした。
「すみません、RAINです」
「はーい。どうぞ」
・・・あれ?
聞こえてきたのは少し甘くて高めの男性のいい声。
でもこれ、なんか。
パリストンの声じゃなくね…?
「・・・」
まあここまできたら入るしかない。
失礼します、あたしは声をかけて仮面を外しながら中に入った。
「!」
そこにいたのは。
「やっぱりキミだった。はじめて動画見たときにピンと来ちゃったよ」
「・・・ぁ…」
「オレのこと覚えてるよね?久しぶり」
そこに、いたのは・・・。
「シャル、ナーク…」
「ふふ。もう、だから名乗った覚えはないんだけどなあ」
うっかり名前を呼ぶと、彼はしょうがないな、というふうに。わらった。
・・・終わった。