「別に危害を加える気はないから、そんなに警戒しないで」
「・・・」
「まずはデビューおめでとう。やっぱり歌、うまかったんだね」
そう言ってシャルナークは笑った。
…あの日、はじめて会った日と同じ。むずむずする。変なかんじ。
そういえば要素だけで言えばこのひと、わりと似てるかも…パリストンと。
第28話
揺れる世界は誰のため
「…なにが目的ですか。こんなにお金使って」
「目的なんて。
ただ、もう一回会いたかっただけだよ」
「・・・」
「困らせちゃった…かな」
「・・・」
うん。それはそれは困った。
「…ありがとうございました。いろいろ、応援?してくださったみたいで」
「ううん。好きでしたことだから」
「でも、あたしはあなたが…っていうか、あなたたちが探してるひととは、別人だと思います。」
「・・・」
「探して、るんですよね。
だいじなひとを。」
そしてあたしとシャルナークはしばらく見つめあった。
シャルナークは、やっぱりイケメンで。あたしに別人だと言われて少し揺れる瞳すら美しい。
事実を述べただけなのに、申し訳ないきもちになる。どうしたものかと考えていたら、再び彼は微笑んだ。
「うん。もう6年になるかな」
「…そんなにですか」
「あのまま成長していたら、キミと同い年くらいなんだ。最後に見たときはまだほんの子どもだったから、もちろん顔とかは変わってるだろうけど」
「・・・」
「でも、はじめて見たとき確信した、サナだって。そうでしょ?キミの名前はサナだろ」
「…そう、ですけど」
「心当たりがないわけじゃないんだ。あの頃、サナはずっと高熱を出していたから。まだほんの子どもだったのに。だから記憶になにかしらの障害が起きていても…多少混乱していても、おかしくない」
「いや、だから」
「現にオレの名前は、オレたちの名前は覚えてるんだろ…?」
それは、マンガで読んだからで・・・!!!!!!!!!!!!!!!!
この真実を述べたいものの、それを言うこともできず、閉口する。困った。どうしよう。
でもシャルナークが、旅団の皆さんが探しているのは完全にただの同姓同名の似てるひとだ。あたしみたいな顔、べつにどこにでもいるし。っていうかその子が最後に会ったときそんなに子どもだったんなら、なおのことあてにならない…!6年も前のことなら、シャルナークたちの記憶だって信用ならないのに。
でもシャルナークはあたしをその子と決め切っているみたいで、引かない。
「ねえ、なにもへんなことはしないから。べつに怖がらせたいわけじゃないんだ、だからひとりでここに来た。
他のメンバーはけっこうインターネットに疎くて、まだ誰もRAINがサナだって気づいてない。
だから先にひとりで来たんだ。キミとちゃんと話がしたかった」
「・・・」
「一度だけ、調べさせてくれないか。キミの記憶。
なにも痛い思いも怖い思いもしない、もし本当にオレたちの探してるサナじゃなかったらすぐに帰すって約束する。だから…」
「いや、えっと」
どうしよう。シャルナーク、本気だ。
そしてこれはたぶんパクノダに調べさせるってこと。確かに痛くはないだろう、いやでも怖いわ。めっちゃ怖い。調べられてもなにも出ない、ただわたしが異世界人だということがバレる上にクラピカが危ない思いをするだけ・・・!!!!!いやそれだいぶマイナス!!!!!
まあ、シャルナークがここまで本気でなのに、断るのは胸が…痛いけど…!!!
「残念ながら…あの…ほんと胸が痛いのですが…」
「もしもまだ決心がつかないのなら、しばらく考えてくれたらいい。これ、オレの連絡先だから」
「えっとー…」
「もしいきなり記憶を調べる、とかが嫌なら、今度ただ一度食事でもしてくれないかな。本当になにもしない。ただいっしょにごはんを食べるだけでいい。素敵なところにつれていくから。…デザートに、とてもおいしいチョコレートケーキが出るお店を知っているんだ」
「ぐ」
チョコレートケーキ。
その言葉に反応すると、シャルナークは笑った。
「ふ。
…ごめんね。キミからしたら、突然変な言いがかりをつけられてるのといっしょで、気持ちがいいものではないだろう。
でも、どうしても嬉しいんだ。ずっとずっと探してたんだ」
「・・・」
「もし、キミが。オレの探してるサナじゃなくても。それでも出会えてよかった。こんなに心が落ち着くのは、久しぶりなんだ」
「・・・」
渡された、連絡先を書いたメモを握る手に力が入る。
どういう関係だったんだろう。その女の子と、旅団。
「ごめんね、本番前に引き止めて。
そろそろ時間だね。行っておいでよ。」
「あ・・・ほんとだ」
「がんばってね。じゃあ、連絡くれるの待ってる。」
そしてシャルナークは、スッと扉をあけて出て行った。
ぽつん。
取り残される。
渡されたメモに書いてある文字は、女性と比べても遜色ないくらい美しくて。
「
やさしい顔であなたを思う」
あたしは狭い部屋で、小さな声でうたをうたった。
あたしの歌は、どこまでも澄ませて、
ただあのひとに届けるだけなのに。
「
あしたを望み 正しく目を閉じて」
キルアに届けたくて。だから今日のため、今日この日のために、一生懸命走ってきたのに。
シャルナークの言葉、揺れる瞳、渡されたメモが胸に引っかかって仕方がない。
6年前のあたしは。
おかあさん、おとうさん、かぞく、ともだち、みんなの中でただ、ケラケラ笑っていた。
傷つくこともなく。
悲しむことも知らず。
こんな世界にくることも。
どんな人生を歩むかも。
涙を流すことも知らず。なんにも、知らず。
「
夏の気配にあなたは泣いてるの?」
終わった世界に抱く感情は、何ならいったい正しいのだろう。
そっと口ずさんだ歌は、いつまでも幼い声だった。
ああ、始まりの音がする。