水槽のなか

夢(ドリーム)設定しおり一覧


スポットライトのした、うたうあたしも。

軽やかに舞って相手をいなすあたしも。



ぜったい元の世界にいたら出会えなかった。

何かを得るためには何かを捨てないといけない。



涙の河を泳ぎきって



世界はいつかひとつになるの?



きっとそんなのありえない。


でもほんの少しの寂しさは、あたしの中で歌に変わり、ここで誰かに愛される。

愛されている、あたしは。



咲くのは光の輪 高鳴るは…


なら元の世界でずっとうじうじしていたあたしは、そのまま遠くで泣いていればいいよ。



あたしごと世界に背を向けて、いま笑っていられるのだから。




第30話
プリズムに乗って





「というわけで、貴女はここをお願いします」


パーティー出席者リストを見せてもらうと、やっぱりそこにはネオンちゃんがいた。
会場は向かい合う6部屋を使っているみたいで(大規模だなあ)あたしは椿の間。ネオンちゃんとノストラード氏は牡丹の間みたいだ。斜め向かいなんだけどちらっとでも見れるかな。

一間につき警備員とか以外のあたしたちみたいなGメン的プロをだいたい6人くらい用意してるようで、ネオンちゃん達がいるところにはいかにも強くてベテランそうなひとが4人、あとまあちょっと頼りなそうなのがふたりだった。

わたしの部屋はなんていうか普通ダナーって感じ。ひとり男の子がやり手そうだけど。話を聞くと情報屋兼って感じらしい。名前はクレオくんだそうだ。なんか綺麗なポックルって感じ(?)。いや本物のポックルを見てないからわかんないけど。




「では当日、よろしくお願いいたします。」


メインズ氏の右腕らしい、サラフェ氏がそう言い頭を下げた。物腰穏やかで丁寧なひとだなあ。印象悪いやつが多いこの業界上わりと珍しい気がする。

メインズ氏はさっきちらりと見たけどなんとなくあんまり好きじゃなかった。悪いことしてるでしょうね〜って感じのひとだ。

今回あたし達みたいなのを招集してくれたのもサラフェ氏だから、ほんとにこの人頼られてるんだろう。なんかもっといいひとのところついたらいいのに。他にもなんなとあるでしょう。



まあ人には人の人生があるわな、と心の中でつぶやいてその場を後にする。
次の予定までまだあるからなんかおいしいイタリアンでも探そ…

そんなことを思いつつ出口に向かって歩いていると。

「なあCATさん」


突然声をかけられた。
振り返るとあたしを呼び止めた相手が同じ部屋の警備がいっしょになったかっこいいポックルだと気づく。


「ん?

…ああ、クレオさんだっけ」
「おう。よかったら今から飯でも行かねえ?」
「飯?なんでまた…」
「うまいイタリアン知ってるんだけど」
行きましょう。




















案内されたお店はとても雰囲気のよいところだった。

クレオくんはとてもコミュ力が高くて、すごい当たり障りのない話を無限に広げてくるからめちゃくちゃ頭いいんだなーと思った。
モテるんだろうなーかっこいいし。まあキルアには負けるけど。なんて。



「実は今日飯に誘ったのは聞きたいことがあったからでさあ」
「うん。なに?」
「オレのプライドを保ちたいのと情報の正確性を確かめたいってためだけに聞くんだけど、CATって15〜18くらいの黒髪ストレートの美少女じゃなかったっけ?

髪型はともかく、キミもっと大人だよね。かわいいけど。20ちょいって感じ?東洋人は若く見えるからほんとはもっといってたらごめんね」
「・・・」
「化粧して15〜18に見えるってことは実際12、3歳くらいなんだろうなと思いながら今日ホンモノ見るの楽しみにしてたんだけど…あんたほんとにCAT?」


じっとあたしのほうを見ながらクレオくんは聞いてくる。

へー。若いのに(たぶん本来のあたしとそんなに年齢変わらなさそう)よく調べてんなあ。

感心してしまった。



「CATだよ」
「…じゃあそういう能力?」
「あら。念知ってんの?」
「知ってないやつのほうが少ないだろ」
「そっか」


おいしいパスタをもぐもぐしながら話をする。あーこのひと単刀直入で好きだな。まどろっこしくない。みんなこうだったらよいのにほんと。最近めんどくさいのばっか当たってたから余計にそう思う。


「…うん、まあ能力のひとつだよ。あとで元の姿見せたげようか?」
「え、いいの?」
「うん。見ても何も得しないけど」


肩をすくめながら言うと、クレオくんはいたずらっぽく笑った。
あ、なんか久しぶりにまともに友達みたいなひとと話してる気がする。

楽しくなってつられて笑うと、彼は少し大袈裟なため息をついた。


「しっかし情報不足だったな〜時間とか操る系の能力者なの?っていうかそう踏んでたんだけど」
「んー・・・、ナイショ。」
「ちぇ、やっぱりか。でもいいとこはついてる?キミわかりやすいね」
「ばれたか。うん、まあ無きにしも非ずみたいな感じ?これ以上は言わないけど。

あっでもあたしが大人の見た目するようになったの今日からだから情報なくて当然だよ。クレオくんすごいね」
「え、まじ?ていうかクレオでいいよ」
「…じゃああたしもサナでいいよ」
「サナ?」
「本名。能力は教えないけど、情報量すごくてびっくりしたから…トクベツね」


なんだか気分がよくなってクスクス笑いながらジュースに口をつけて言うと、クレオはにやりと少しだけあやしく唇に弧を描いた。



「…じゃあお礼にオレもとっておきの情報教えてやるよ」
「なに?」

「今回の依頼。たぶん、一筋縄じゃいかないぜ」
「・・・どういうこと?」



クレオは顔を近づけてきて、小声で言った。




「“復讐”」
「!」

「渦巻いてんだよ、裏に。
まったく嫌になる世界だよな」
「・・・」



真意を探ろうとしたものの、クレオは食後のコーヒーに口をつけたからもうこれで打ち切りなんだろうと思った。

なんとなく、ふたつくらい感じた違和感が頭に浮かぶ。



復讐。



・・・復讐かあ。





「ね、別に言いたくなかったらいいんだけど…なんでクレオはこんな世界にいるの?」
「は?」
「ときどき、ほんとに残念な世界だなって思うの。ここは。」


無粋かもしれないけれど、聞かずにはいられなかった。

だってあたしはこの世界しか選べなかったんだ。
あたしに他に道はなくて、選んだんじゃなくて、落とされた。


それはあたしの意識から遠く離れた世界での出来事。不可抗力の波に流されて、ただ必死で立ち上がろうとしてるだけの子ども。



…あたしはまたどこかで間違えたのかな。
世界が変わっても、まだ、あたしは。


きゅっと着物の端を握りしめながらクレオを見つめる。
彼はコーヒーを飲みながら、視線を落としたまま小さく答えた。


「…オレはたぶん、サナのほしい答えをあげられないよ」

「・・・」


「オレは自分でこの道を歩くって、そう…決めたから。

やりたいことがあるんだ」



そう言ったクレオの目はとことん澄んでまっすぐで、なんだか強すぎて少しだけまぶしくなった。



…ああそうか。

このひとは。



ちゃんと自分で、すべてのものを選びとっているんだ。





「素敵だね」
「ハズいけどな」
「いいと思う。かっこいいよ」


心の底から言うと、クレオは照れくさそうに笑った。

ああ無意識に縋ってしまっていたのかな、あたしは。
いつまで経ってもこどもで、なんだろうほんと、嫌になる。



「そろそろでよっか」
「そうだな」


クレオの瞳はどこまでも真っ直ぐで、眩しくて見られない程だった。

彼はすべての選択に責任をもっていて、それゆえの自信でこんなにも凛としているんだろう。
ここで生きることがリアルでない浮遊したあたしは・・・ううん、そもそも元の世界でだってあたしは何一つ自分で選んでなんかいなくて、大きな流れに身を任せてしまっていただけだったのかもしれない。


「楽しかった。またどっかうまい飯屋いこーぜ」
「うん。ぜひ」

取り残してきた世界に、どれほどの未練と後悔があるのか。
それは酷く大きいようで、実はないといっていいほど朧気だったのかもしれない。


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