そしてクレオと二人、地下についた。
明らかに空気がピンと張っている。ただ近くに誰かがいる気配はなかった。
地下も今までいた屋敷同様、豪勢な造りだった。ベルベットの絨毯が敷かれた廊下を、ただ歩く。
電気もついているはずなのに、どうにも薄暗く感じた。
そして行き止まりに、大きな扉。
「・・・準備はいいか、サナ」
「うん」
パーティーのあいだはあたしを仕事名で呼んでいたクレオが、本名を呼んだ。
なんとなくそれに気を引き締め直す。
何かあっても、受け止められるように。襲われてもその念を吸収できるように。
そっと杖を出現させ、手に持った。
ギィ、扉が開く。
第33話
出会う
「よくここがわかったね」
「!」
そこには。
ボロ雑巾みたいに痛めつけられたメインズ氏と、不気味に笑うサラフェ氏、そして。
「(おんなのこ・・・???)」
そっと横たわって眠る、サラフェ氏と同じ髪色の可憐な少女が眠っていた。
「どうしてわざわざ追ってきたんだい?あの腐った会場を荒らした犯人を突き止めたかったのかい?熱心だね。金ならちゃんと振り込むよ」
声も出せない、異様な雰囲気だった。
メインズ氏は虫の息(生きてはいる)だし、サラフェ氏はなんかまじで目がイッちゃってるし、かわいい女の子は死んだように眠っている。
現状の把握に、戸惑う。
空気に呑まれきっているあたしにかわって、クレオが口を開いた。
「・・・その子が、あんたの目的だったのか?経歴を偽装して…メインズ氏の趣味に人体収集があることは知っている。その子を取り返したかっ…」
「
もう起きないんだ!!!!」
突然。
サラフェ氏が悲痛な声を上げた。
「最新の全身麻酔だ、もう一生目覚めない!!!この屑、ありったけの金を新薬の開発に注ぎ込みやがった!!!!!もうオレの妹は一生目覚めない!!!!!息をするだけ、死んでるのと同じだ!!!!!ただ永遠に眠り続けることしかできないのならオレが殺していっしょに死んでやる、ふたりで生まれ変わるんだ、この屑を地獄に葬ってからな!!!!!」
「ヒッ、」
堰を切ったように叫んだ後、ありったけの力を込めてサラフェ氏はメインズ氏を殴った。気を失っていたメインズ氏がその衝撃で目を覚まし、声にならない声を出す。
「た、たす・・・」
その声ごと踏み潰すかのように、サラフェ氏はメインズ氏の指を足で踏み折った。
「グぁっ、」
「や、やめてください!!!!!!」
見ていられなくて、あたしは思わず叫んでしまった。
サラフェ氏が血走った目でこっちを睨んでくる。
「何故止める。こんなゴミ、害虫、駆除しないと、オレの、オレの妹の無念が、」
「そこ!!!!そこです!!!!!ちょっとそこ!!!!!その、妹さんの容態!!!!!あたし治せるかもしれないから!!!!!!!ちょっと一旦落ち着いて話し合いましょう!!!!!!!!!」
「なっ・・・」
「詳しく状況を知りたいので、ちょっとメインズ氏にも回復してもらいます!!!わかりました?!いいですね?!ちょっといったん落ち着きましょう!!!!!!!」
「サナ、おまえも落ち着け」
「ハッ!たしかに」
そしてあたしはメインズ氏のところに近づき、ちょっとだけ(ここポイント。ぜんぶ治して変にサラフェ氏を怒らせたくない)治療して話せる状態にし、サラフェ氏の妹のさんに何をしたのかを聞いてみた。
聞いて後悔するくらい、こいつは外道だった。
サラフェ氏との話を総合すると、昔サラフェ氏と妹さんが買い物に行ってお手洗いで別々になったところ、その妹の美貌に魅せられたメインズ氏が誘拐したらしい。
誘拐され行く妹と犯人の影を見たサラフェ氏は、追ったものの追いきれず。なんの証拠もなかった上、サラフェ氏が苦労して得た手がかりも裏の世界に通じるものだったので警察は捜査すらまともにしなかったようだ。
その後彼はいつか妹を取り戻せる日を夢見てチャンスを伺いながらメインズ氏の右腕になるまで必死で近づいた。
妹さんは誘拐された際に催眠ガスをかがされ、その後は全身麻酔を打たれてしまった。高濃度の酸素カプセルの中に入れられ、日に数回メンテナンスと称して死には至らないよう栄養分などを与えられていたが、それだけ。
彼女は誘拐された日から、この3年間一度も目覚めていない。
「ひどい・・・・・」
3年って。
そのあいだにどれだけのことができると思っているんだ。
「とりあえず、事情はわかりました。やっぱり問題は全身麻酔ですね…」
全身麻酔を取り除くとなると、時間を巻き戻すだけじゃたぶんだめだ。3年分妹さん自体を退行させてしまうと思う。3年の差はデカイ。あまり好ましくないだろう。
怪我をしてるわけでもないからゲームとかに出てくる治癒魔法とか使ってもだめだし………あ。
(消<イレイズ>のカードで消したらいいんだ)
気づくや否や、あたしはそのカードを具現化させた。これは人とか物を消すカードだからちょっと心配だけど、むしろそんな質量のものを消すより限定的な少量の、ここでいう麻酔を消すほうが理論的には簡単なはずだから大丈夫だろう。
ここでやらなきゃ女が廃る、こっちに来てからのあたしは最強だから大丈夫!
あたしは自分を激励して息を深く吸い込んだ。
「何を、」
「消<イレイズ>!
サラフェ氏の妹のさんの中にある全身麻酔の成分をすべて吸い出せ!!」
そして。
「おに、・・・ちゃ・・・・?」
サラフェ氏の妹さんは、目を覚ました。
「ジェシカ…!!!!!」
ジェシカさんというらしい。
瞳の色が、サラフェ氏と同じ優しいオレンジ色だった。
「本当にありがとうございます。何とお礼を言っていいのか」
「いやー、そんな大したことはしてないので…」
その後ふたりに引くほど頭を下げられた。ジェシカさんはまだあまり実感がわかないみたいだけど。これからきっとたいへんだと思うけど、3年分しっかり取り返してほしい。
「実は、この奥に。他にもジェシカと同じように囚われた女性たちがいるんです」
「!」
「他人事とは思えなくて。もしCAT様がよければ、そちらも確認していただけるとありがたく思います」
「わかりました」
サラフェ氏は先ほどまでとは打って変わって普通の優しいお兄さんになっている。たぶんこれが本来の彼だったんだろう。この3年間、サラフェ氏もほんと泥水すすってきたんだろうな。
「じゃあオレはその女性たちの身元を確認していくとするか」
「そうだね、任した。とりあえず向かおう」
そしてあたしたちは奥へ奥へと進んでいった。
「悪趣味すぎるでしょ・・・」
奥の部屋には、数え切れないくらいの美女たちが眠っていた。
酸素カプセルらしいけれど、見た目はただのショーケースだ。
どの女性も死んだように眠っている。
「下衆だな。いくつか知った顔があるぜ、身内が必死で探してるんだろ」
「ひどい・・・」
「とりあえずこれがただの酸素カプセルなら開けても別に問題はねえし、いったん全員ひとつのところにまとめるか。そのほうがおまえも念を使いやすいだろ」
「うん!そうだね。あたしは奥から引っ張ってくるから、クレオはここでとりあえず身元を確認しながら集めていって」
「了解」
そしてあたしは奥へ、奥へと進んでいった。
いち、に、…最初は数えていたけれど、数えるのも嫌になるくらいの人数だ。
ひとつめの部屋はみんなただ棺の中で眠っているだけだったが、扉を開けてふたつめの部屋に入ると座らされているものや立っているものもいた。
人間を等身大フィギュアかなんかかと思ってるのかな。腹立つ。
イライラしながら次の扉を開ける。
そこは特にお気に入りの女性が眠っているんだろうか、部屋も豪勢だし数も少ししかいなかった。
「これがさいご………え?」
そしてその、一番奥に。
立たされた状態で眠っていたのは。
「あたし・・・?」
本来の姿、いまの念を使って年を取らせてるあたしとは違う。
こっちに来てからの、14歳の。その姿のあたしが、そこにいた。