思い出だけではつらすぎる(けど)

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絶望を胸にまぶたを閉じる。
視界が暗くなるのと同時にクラピカの金色が遠ざかった気がした。

ごめんね、ごめんね。


何度も謝ろうとした。そんなの自己満足だってわかってる。


謝罪なんて、許されることを前提としたただの様式美だ。



それでも謝らずにはいられなかった。


ただただ謝りたかった。



そばにいたかった。



そばにいたかったよ・・・・・・・・・





また意識が遠くなる。

今度は『黒』に近づいた気がした。





「だっっっっっっから起きろっつってんだろサナなにまた寝ようとしてんだァ!!!!!!!!!!!!!」
「ハッ」



第35話






目を開けるとクレオがいた。…クレオ?


あれ。あたしなにしてんの。

ん、あれ、そうかあたし仕事中だったんじゃ・・・・



「起きたか!ったく世話の焼けるやつだなテメーはよ!!!!!なにがあった?!」
「え、え。」


気づいたら心配そうなクレオの腕の中で眠っていたようだ。ハァ?なんで?


っていうかなにがあったんだっけ???え?????



「おい、おまえちゃんと意識はあるか?オレが誰がわかるか?」
「クレオ」

「よし。ここでなにがあったかわかるか」
「えっと」

「オレたちがメインズファミリーのパーティー警備で来たことはわかってるか?」
「うん・・・・・あ!!!!!誘拐された女性たち!」
「そうだ!おまえはそれを探してたんだな。そのあとどうなった」
「そのあと・・・・・?????」



少しずつ思考がクリアになっていく。

そうだ。メインズファミリーのパーティー会場警備に来て。お手洗いに行ったらネオンちゃんに会って。それから爆発音がして、メインズ氏がいなくなってて。

サラフェ氏の妹を助けて。
そして他の女性たちも・・・・・・そうだ!



「そ、そうだ。あたしがいたの」
「は?」
「ここにあたしが眠って・・・・・あれ?」



起き上がると、そこはさっき『あたし』が眠っていたショーケースの前だった。


でも、いない。『あたし』がいない。



「いなくなってる・・・ねえここに女の子いたよね?!あたしの元の姿にそっくりな」
「?

いや、オレがきたときには空だったぜ」
「え・・・」


そんなはずはない。あたしはまだあの『あたし』から全身麻酔の成分を抜き取っていない。いなくなれるはずがない。
そうだ、扉を。あのショーケースの扉を開けた途端、頭に映像が駆け巡ったんだ。



「あれは・・・」



クモと、クルタ族と。

両方とあたしはいっしょにいた。



ちゃんとは覚えてない。けど。
クモはみんな優しくて。クルタのみんなもすごくやさしかった。



「・・・・・」



そして、あたしは、自分で。


死のうとしたんだ。そうだ。





「…とにかく、ここにおまえそっくりな女が眠っていて、そのあとのことはよく覚えてないって感じか?」
「うん・・・」
「なんだろうな…とりあえずメインズ氏に話を聞こう。いったいどこでその女を誘拐したのか、とかな。立てるか?」
「立てる」
「よし、じゃあ行くぞ」



あれはいったいなんだったんだろう。


あの『あたし』はいったい何者なんだろう。




どうしてこんなにみんなに会いたいんだろう。


会いたい、けど会いたくない。



どうしてこんな巡り合わせで。

大事なみんなが大事なみんなを殺めてしまったんだろう。






















メインズ氏に聞いたものの、よくわからないとしか返ってこなかった。



あれはメインズ氏が誘拐したのではなく、メインズ氏の部下がメインズ氏にプレゼント(ふざけんな。死ね)したらしい。それでその部下はもう亡くなってしまっているらしい(え、やめて死なないで)。


いまからおよそ4年くらい前に受け取ったとのこと。ただ気に入ってはいた、とだけ言われた。気にいる気に入らないはどうでもいいけど、困った。


「4年か・・・」



たしかクラピカからのファンレターにも、なんかあたしに似た女の子を4年くらい探してるって書いてたな…


クラピカにはやく会いたい。でもこのクラピカに対する感情は、あたしのものではないんだと思う。

あたしにはクモに育てられた記憶なんてないはずだ。あたしはこの世界とは違う、日本で生まれ育ったんだから。そう。そうなの。
だからこの記憶はあたしではない、あたしに似た『誰か』のものだ。どうしてそれがあたしに移ってしまったのかはわからないけど、とにかくこれは、他人のものだ。あたしのものではない。あたしのものでは決してない。そう、ちがう、間違いだ。間違い。

間違いなんだ。だから・・・




『いっしょに星を見に行こう』




熱、下がったよ。


下がったの。会いたいよ。







・・・・って、だからちがうってば…。





















それから。


とりあえずすべての女の子を一箇所にまとめ、全身麻酔を消し去ってあげた。


クレオは凄腕で、すぐに全員の身元を確認してみんなが本来の居場所に帰れるようにしてくれた。懸賞金が高くかけられたひともいて、なんだかすごくお小遣いが入りそうな感じだ。

いったんみんなをクレオの事務所に移して、あたしは疲れていたから先に帰らせてもらうことにした。サラフェ氏と妹のジェシカさんが被害者を元の場所へ送るのを手伝ってくれるらしい。あたしもまた落ち着き次第手伝う。


とにかく、みんなが元いたところに戻れるのなら、よかった。


けど。


「あたしも帰りてえ・・・」



なんて、思ってしまった。



皮肉だ。


どうして二度と元の世界に帰れないあたしが、縁もゆかりもない女の子たちをもとの居場所に帰してあげなきゃいけないんだろう。


なんて、思うのは醜いんだろうか。

そんなこと言ったらクラピカにたしなめられてしまうだろうか。




「だからちがうって・・・」




クラピカなんて、あたしは知らないの。知らないはずなんだ。














クレオたちと別れたあとも家に帰る気にはなれなかった。

もう少し夜風に当たっていたい。まだまだ夏だけど、夜はやっぱり少し涼しい。夜景が綺麗に見えそうだったので、すこしシティを離れて飛んだあと、小さな丘の上にきた。静かだ。シティは夜でもうるさいけれど、ここは静かだった。



ハァ、と息をつく。前髪をくしゃりと握りつぶした。


恐ろしく長い1日だった。今日はぜったい死んだように眠ってやる。まだ寝ないけど。いま寝たら嫌な夢を見そうだとおもった。


すごく疲れた。疲れた上に、参った。しかも体がおかしい。



誘拐された女の子たちを助けたあと、会場がどうなっているのか確認しようと円を広げたのにいつもの半分もできなかった。疲れているのを差し引いてもこれは異常だ。意味がわからない。力が弱まってる。エネルギーが足りてないのかな、と思ってとりあえず常備しているお菓子を食べたけど、なにも変わらなかった。おかしい。ほんとうにおかしい。



不安になる。


今のあたしから強さを取ったら、何もなくなってしまうのに。





闇に溶けてしまいたかった。




ネオンの明かりが遠くでキラキラ輝いている。





こんなの知らなくてよかった。別の世界の夜景なんて、見たくなかった。
元の世界にいたら。まだ、あたしは。


きっといつも通り、友達や家族と話したり・・・。





「ッ・・・」




喉が痛い。


体が震える。




ああ、泣いたら。せっかくした化粧が落ちてしまう。

気分を上げたくて上を向かせたマスカラ。あたしにはこんな世界で生きられる気がしない。

帰りたい。家に帰りたい。会いたい。おかあさんに会いたい。おうちが恋しい。ひとりだ。あたしはいま、ほんとうにひとりなんだ。足元が崩れる感覚がする。寂しい。寂しい。会いたい。かぞくにあいたい。あたしの家族はクモなんかじゃない、クルタ族なんかじゃない。元いた世界にいる。だいすきな、元の世界にいるんだ。帰りたい。帰れない。もう帰れない。二度と帰れない。




「家に、帰りたいッ・・・!!!!!」



言ってしまったら堰を切ったように涙が止まらなくなった。どうして帰れないの。どうしてあの時受け入れてしまったの。いますぐ帰らせて欲しい。ふたつの記憶は同時に存在してはいけない。頭の中が混乱しているのがわかる、『どれが家族かわからない』って。


忘れないで。失わないで。忘れてしまったら証明できないの。あたしの家族は、家は、あたしの記憶の中にしかない。忘れたらもう消えてしまう。忘れたりしないで。なくなったりしないで。


バカみたいにえぐえぐと泣いてしまった。悲しくてもつらくても頼れるひとはいない。あたしはいまひとりだ。ひとりぼっちで強くなるしかない。


強く、なるしか。




「むり・・・」




悲観的な気持ちは止まることを知らない。泣くだけ泣いたら楽になるんだろうか。楽になりたい。消えてしまいたい。クルタのみんなも殺されてしまった。パイロもいない。あたしも消えてしまいたい。…ちがう、これはあたしの記憶じゃない、あたしの、記憶は、



「帰りたいッ・・・!!!!!」



もういやだ。思考を放棄してしまいたかった。


ぐるぐるして気持ちが悪い。滲む視界で輝く夜のネオンは体に悪いポッピンキャンディみたいに見えた。甘さに酔う。

誰かにそばにいてほしい。いっしょにいてほしい。クロロはずっとそばにいてくれるって言ったのに…ちがう、クロロなんて知らない。クロロとの記憶なんてあたしにあるはずがない。

あたしがあたしであると思えているうちに帰りたい。そうでないと、おかしくなってしまう気がする。



「かえりたい…」

ぼとぼとと落ちる涙が口に入ってしょっぱかった。
過呼吸になりそうでくらくらする。

落ち着け、落ち着け。
痛む頭に危機感を覚えて意識して息をゆっくり吐く。

そのとき、だった。


「…なんで帰れないの?」
「え・・・」


「…ごめん、オレここで寝てて。さっきから帰りたいって聞こえるから、つい気になっちまって」
「あ・・・」


一人だと思っていた空間に突如降ってきた声。だれ、と振り向けば。


少しバツが悪そうに、頬をかきながら。



そこにはあたしがずっと、もう一度会いたいと思っていたひとがいた。




既視感を覚える。

そうだ、でも、この記憶は。

この記憶だけはちゃんと、あたしのものだ。
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