ふたり並んで腰かけて

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びっくりしてあたしは声を出すこともできずにいた。え、なんでキルアが、ここに。

ぽかんと口をあけてまぬけに顔を見つめると、キルアが気まずそうに口を開いた。



「・・・ごめん、なんかつい声かけちまった。気にしないで」
「わ、待って!」



立ち去ろうとしたキルアを思わず呼び止める。あ、呼び止めちゃった。こんなひどい顔してるのに呼び止めちゃった。困るかな。困るよな。えっと。

足りない頭でどうしたものか、なんて続けようかと悩んでいると、キルアのほうがまた話しかけてきてくれた。



「…オレ、キルアっていうんだ。お姉さんは?」



静かなこの空間にふたりきり。

キルアがそう言うと同時に優しい夜風が吹いた気がした。


うん、うん、知ってるよ。


心の中で叫ぶ。



知ってるよ、ずっと知ってたよ。


もう一度会いたくて、さがしてたんだよ。




第36話
寄り添って、もっと






感動もつかの間、そこで問題にぶち当たる。

あたしはなにを名乗ればいいのかさっぱりわからなかった。


サナっていうの。RAINとして、前に会ったことがあるよ。



そう言えればよかったんだけど、そもそもあたしがキルアにハンドルネームを名乗ったのって、もしあたしがキルアの婚約者候補だとバレたら逃げられるかもしれないと思ったからだ。

仕事名も本名も名乗れない。本名もゾルディック家の皆様には知られてしまっている。キキョウさんとシルバさんには仕事名を名乗ってるけど、でもゼノさんやカルトちゃんはあたしの名前を知ってるんだ。バレてるでしょ、どうせ。


RAINを名乗ろうかな、とも思ったけど、いまのあたしは10個も年を取った姿であのときとは違う。名乗れるわけがない。それに名乗りたくもなかった。あの楽しく歌うあたしに、いまの弱っちいあたしを重ねてほしくない。


困りながら黙っていると、キルアはまたあたしに声をかけた。



「・・・お姉さん?」



唾をひとつ、飲み込む。



「…CAT」

「CAT?」


「うん、CATっていうの」



本名を名乗って去られたら、きっともう立ち直れない。

それならまだ、仕事の名前を白状して逃げられたほうがましだ。



あたしはどこまでも弱虫で、震える声でそう言った。




















「…そっか。このへんに住んでんの?」
「え・・・うん。」


あれ、知らなかったみたいだ。

一気に力が抜けると同時に少し気持ちに余裕ができる。話せる。これならまだ、キルアと話せる。まだキルアといっしょにいられる。


もうちょっとだけ、いっしょにいたい。



「キルアは?こんなところで、何してるの?」
「いやー…オレはこう、お姉さんとは逆で家出してて」
「そっか」

知ってるけど知らないふりで話を続ける。

すわる?と聞きながら地面に腰を下ろすと、キルアも横に腰かけてきた。



「・・・寂しくない?」
「ぜんぜん。せいせいしてるよ、ヒマだけどね」
「だからあたしに声かけたの?」
「うーん…まあ、普段泣いてる女に声なんかかけるわけねえから、暇すぎておかしくなってたのかもな」
「あはは、そっか」


きまぐれでもなんでもよかった。キルアがあたしを見つけてくれた。そうおもうと、すごくうれしかった。


「でも家出してどうやって生活してるの?どこに泊まってるの?」
「ここ」
「えっここ?!」
「うん、この木の上」
「風邪引くよ?!」
「オレ普通と違うから」


立派に育った木を指してキルアはそう言った。いやまあ確かに。君は普通じゃないかもしれないけど。ていうかあたしだって普通じゃないけどこんなところじゃ寝たくないよ。ぜったい体休まらないし。睡眠は大事だよ。


「…ごはんは?」
「なんか適当にくすねてきてる」
「えっ犯罪じゃん!」
「まあ、たしかに…?」


気にしたこともなかった、とキルアはつぶやいた。いやそれ窃盗だよ窃盗。だめだよ。捕まるよ。っていまこいつプロの殺し屋か。そりゃだめだそういう意識もなくなるわ。


「…ずーっとそんな感じなの?」
「うん、まあ」
「退屈じゃない?」
「だから言っただろ。暇つぶしにハンター試験でも受けてみようかなと思ったんだけど、それもけっこう先だしな」
「うーん確かに。あ、じゃあうち来る?」
「は?」
「うち。来る?部屋空いてるよ。」


つまりいまのキルアくんは木の上で寝て起きてとりあえず食糧をてきとうに手に入れて、なんとなく時間が過ぎてまた寝て、って感じなんだろう。

死ぬわ。暇過ぎて死ぬ。
そう思うと誘わずにはいられなかった。


納戸代わりに使ってた部屋、そもそも物がそんなにないから普通に使えるはずだし。少なくとも木の上よりはましでしょ、ぜったい。



「は?まじで言ってんの?」
「え、うん。まあ無理にとは言わないし、出たくなったら出ればいいから。いたかったらハンター試験までいてくれてもいいし」
「…誰かと住んでるの?」
「いや、一人暮らし。ほんとすぐそこだよ」


じぃ、とあたしを見つめるキルア。かわいい。まだまだ子供だ。

だってキルくんまだ11歳、小学5年生なんだよ。
保護しないと、という気になった。



「でもなんか悪ィし…」
「いいよ気にしないで。あ、そうだ!悪いと思うなら仕事手伝ってくれるとありがたいんだけど」
「仕事?」
「うん。猫探しからボディーガードまでする何でも屋」
「は?お前ボディーガードなんてできんの?」
「それがあたしわりと強いんだよー。(そうかまだこの子念も知らないから強さもうまく測れないんだ)」



なおさらほっておけないな、とあたしは心の中でつぶやく。


それにいまのあたしは何故か力が弱まっているし、歌の方の仕事もこれからより忙しくなりそうだ。そうなるとこなせる仕事の量が確実に減ってしまう。キルアが手伝ってくれると普通に助かると思った。危ないことはさせないけど。


「ごはんもあげるよ、別にたいしたものじゃないけど。

どう?試しにちょっときてみる?暇よりましでしょ」
「まあ、それは・・・」
「それにあたし、なんかいまひとりで帰りたくないしね」



本音だった。

苦笑いしながら言うと、キルアはうーんと少しだけ唸って、そして。



「…マジでいいの?」
「いいよ」
「マジで?」
「マジで。」


少しだけ黙って考えるそぶりをみせたあと、キルアは口を開いた。




「・・・じゃあ、とりあえず一晩だけ。」




こうして。


なんとキルアがうちに来ることになった。
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