「ん・・・」
小鳥のさえずりに身を捩る。
朝だ。起きなくちゃ。
携帯を見るとクレオから今日ほんとに大丈夫か、無理しなくてもいいんだぞとメールがきていた。
案外心配性みたいだ。
大丈夫、ありがとう。と返事をする。
「あ」
そういえば、と昨日脱いで吊るしたドレスを見て思い出す。
今日ひとり、手伝ってくれる男の子が来るんだけど。
その子の前ではあたしのこと、CATって呼んでね。
その文章を追加して、あたしはまた10年後の姿になった。
「(うーん、やっぱちょっと肌の劣化は感じなくないな・・・)」
むに。
元いた世界での本来の自分を思い出しながら、鏡の前で自分の頬を引っ張った。
第38話
はじめてのお仕事
リビングに出るとキルアはまだ眠っていた。
朝日に反射して白い肌が輝いている。めっぢゃガッゴイイ。
夢じゃなかったんだな、と改めて思った。
昨日はあのあとドリアを食べて、順番にお風呂に入ってすぐ寝た。
あたしもなんかめちゃめちゃ疲れていたし、キルアも木よりはソファのほうがやっぱり寝やすいからか、けっこう早い時間に就寝していたようにおもう。
・・・お腹すいたな。
とりあえずトーストと、目玉焼きと、ベーコンでも焼こう。あとトマトも置こう。冷蔵庫に入っていた気がする。
普段の朝食なんてだいたいトーストかじったりかじらなかったりテキトーにくだもの食べたりチョコ吸収したりするくらいなんだけど、せっかくキルアくんがいるのでちょっと頑張ってみた。いつまでいてくれるのかわかんないけどね。
・・・キルアがいる。
ひとりじゃない。
その事実が無性に嬉しくて、嬉しすぎて、なんだか感傷的になって、泣きそうだった。
夢を見た気がする。
でもどんな夢かはわからない。
クモといたんだろうか。クルタ族といたのだろうか。それともほんとうの家族といたんだろうか。
目をつぶって思い出そうとしても暗闇が広がるだけだった。
あきらめて冷蔵庫に向かい、取り出したスプライトをいれる。しゅわしゅわ。しゅわしゅわ。小さな泡が消えていくのを少しだけ見つめた。
消えゆくのを見届けて、少し口に含みながら朝ごはんの準備にとりかかる。切なさはごはんのにおいに掻き消された気がした。
「…ハヨー。」
「あ、キルア。おはよう!よく寝れた?」
「ん」
そうこうしてると寝ぼけ眼なキルアが目をこすりながらやってきた。めっぢゃガワイイ。にやけそうになるのを笑顔で隠して、持っていたフライパンの中身を見せた。
「朝ごはんにしよっか」
「ベーコン・・・」
「すき?あたしもすき」
すごくすごく救われた気がした。
とてもとても救われた気がした。
「じゃあ行きましょう、これから空を飛びます」
「ハア?」
準備をして、ふたりで外に出た。
いつも通りカードキャプターさくらの杖を出すつもりだけれど、一瞬ためらう。
キルアはまだ念を知らない。
まだ、知るにも早すぎる。
でもこの方法しかないからしょうがないか。
ふう、と息をついた。
「キルアバランス感覚いいよね?」
「?
まあ普通よりは」
「よしいきます!」
「?!」
そしてカードキャプターさくらの杖を勢いよく具現化する。
そしてそのまま飛<フライ>のカードを使い杖に羽を生やす。
キルアは驚きのあまり固まって、目をぱちくりした。
「なっ・・・ど・・・!?」
「なにが、どうやって。はい。どうやってでしょうねえ!いつか教えてあげます。はーい乗るよ〜またがって〜」
驚くキルアを無視してロッドにまたがる。
とまどうキルアをはやくと急かすと、観念したかのようにキルアもあたしの後ろに乗った。
「けっこう飛ばすから、しっかりつかまっててね。ちなみにきょうのプランでは被害者たちをこうやって運びます!あたし運転に専念するから、キルアは女の子のケア任した!」
「は?ケア!?」
「だいじょうぶ睡眠薬かなんかで眠らせるから。ぜったい落とせない荷物かなんかだと思って担いでてくれればいいよ!はい行くよーしゅっぱーつ!」
「うっお!?」
もう説明するのもめんどくさいからとりあえずさっそく飛ばしてみた。ひゅーっ風を切って気持ちがいいぜ。びっくりしたキルアがしっかりあたしの腰につかまっていてかわいい。照れる。
「おまっ・・・どんだけマイペースなんだよ・・・!」
「ふへ。でも慣れたらけっこうきもちーよ」
カラカラと笑うとキルアは唸った。少し楽しくなってしまった。
あたしはキルアには見えないように、前を向いたままおもいっきり笑顔になった。
わりと他愛もない話を弾ませながらキルアとの空中デートは終わった。いい時間だった。
「きもちよかったでしょ?」
「いや、つーか・・・」
「えーきもちくなかったの!?」
「きもちよかったけど!それどころじゃ」
「きもちよかったかーならよかった!」
にっこり笑うとキルアはお手上げだ、というように頭をガリガリかいた。
こうやっていたら、こんな感じの。そう、ひとまわりも年の離れた姉と弟のような関係。
だったらきっとバレない。だったらあたしの嘘を隠しきったままキルアと仲良くできる。
もう見つけてほしいなんて思わない。いや、思えない。嘘が下手なあたしだから、RAINとしてはきっと二度と会えないだろう。でもそれでいい。あの夜はただの美しいまぼろしでいい。
クレオの事務所の近くに下りたあたし達は、さっそくその事務所にむかって歩を進めた。
もう着くよ、と電話をした際勝手に入ってと言われたので勝手に扉を開ける。なかなかいい事務所だった。サイズはあたしのとかわんないけど。
ちょっと緊張しているキルアにだいじょーぶとにっこり笑いかけて、中に進んだ。
「来たよー」
するとクレオが声だけで返事をする。
「おう、こっちこっち。けっこう人数減ったぞ」
「よかった」
その声のほうに向かうとクレオがいた。
被害者はきのうの半分くらいになっていたけれど、やはりまだ体が追いつかないのか眠っているひとが多かった。
「お、けっこう顔色よくなってんじゃん」
「だから心配しなくていいって言ったのに」
ついな、と笑うクレオ。まあ心配してくれるのはありがたい。
そしてそのあと、あたしの後ろについてきたキルアとクレオの目が合った。
「えーっと、その子がきょう言ってた?こんにちは、オレはクレオ。情報屋をやってる」
「・・・どーも。オレはキルア」
「よろしく。今日これから何するか聞いてる?」
「軽くは」
「オーケー。じゃ、まずはそこのソファで寝てる子からお願い。身元は判明したんだけど、田舎に住んでる老夫婦が保護者だから迎えに来れなさそうなんだ。
CAT、これその子の情報な」
「はーい」
そういって3枚刷りになっている紙を渡される。
ラムクス地方に住むメルティさん16歳。二年前から行方不明。到着後、一週間以内に2000万ジェニーの振込。
空飛んで2時間くらいの距離だな。
「寝てるけど、起こしても普通に会話できるから大丈夫だぜ」
「どっちかっていうと寝てもらってたほうがありがたいなあ。空飛ぶし」
「とりあえず一回で2時間効く睡眠薬渡しとこうか?錠剤タイプも嗅がせるタイプもあるぜ」
「あー。知らん人間に錠剤飲まされるより、嗅がせてそのまま連れてったほうがいいかなー。
そっちちょうだい」
「ほい。3滴で2時間な」
そして液体と布をもらい、早速眠るメルティさんの鼻と口元に当てる。
今も寝てるけど、これでしばらく起きないはず。
「じゃ、いこっかキルア。ちなみにさっきの状態でこの子担いでられそう?」
「ヨユー。」
「頼もしい!」
そしてあたしとキルアはクレオの事務所を後にし、ラムクス地方へと飛んだ。