はやくグロウアップしなくっちゃ

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「・・・昨日、体調わるかったの?」
「ん?なんで?」
「さっきのヤツがそんなこと言ってたから」
「あー」

ラムクス地方に飛ぶ最中、キルアに突然そんなことを聞かれた。


「んー、ちょっとね。体調悪かったっていうか・・・なんて言えばいいかわかんないんだけど」



第39話
君の代わりなんていないから




昨日。

あたしが『あたし』を見つけたこと。


それはなんとなく、キルアには話したくない気がした。
クラピカやクモがあたしを追っているのは、間違いなくあの『あたし』と勘違いをしているからだろう。あの記憶をみた以上、そうとしか思えない。

ただ、自分とあの『あたし』との関連性が全くわからない。

全くわからないのに、あれはあたしだった。でもあたしじゃなかった。なのにあのとき記憶が入ってきて。訳がわからないまま、今もクラピカやクモを思うと切ない。

だけどこれは、本当のあたしの感情ではけしてないのだ。キルアには、ただ、今のあたしだけを知っていてほしい。(って言ってもCATになるけど)


「なんか、変な目にあってさ」
「変な目?」
「うん。敵の技なのかなんなのかわかんないけど、記憶が混濁する、みたいな」
「催眠術かなんか?」
「・・・あー。そうだったのかもしれないなー。」


催眠術。そうか。
もしかしたら念の一種だったのかもしれない。あの子の。

命の危険を感じた際に相手の記憶を撹乱する念、とか。いやでも無理あるかー。あたし別にあのとき敵意なかったし、記憶を撹乱って感じでもなかったし。


うーん、と唸るとキルアが少し心配そうにしてくれた。


「まだなんか変な感じすんの?」
「あ、ううん、もうへいき!」


危ない危ない、弱ってるところを見せるのは悪い、と咄嗟に取り繕う。
というか、正直戸惑っているだけで別に何かに支障をきたしているわけではないのだ。・・・いや、きたしてはいるか。使える念の総量、明らかに減ってるし。円の範囲とかもやっぱ戻らないし。

でもそれくらいで、他に何かまずいことがあるわけでもない。力は減ったけれど、それでもあたしはたぶんまだそこそこ強いままだ。

ただもしあの『あたし』が自分の記憶と引き換えにあたしの力を手に入れたとかなら返してもらいたい。見つけないといけない。あたしの体は念でできている。燃費が悪くなると困る。なんというかいまは、全ステータスがめちゃめちゃ下がった状態って感じだ。


やっぱりそうなると、クラピカやクモに話を聞いてみたほうがいいのかな。

似ているだけの別人が現れるなんて、いちばん落胆させちゃいそうで気が進まないけど・・・そもそもクラピカとの記憶もクモとの記憶も両方あるっていうのがだいぶどうかしているんだけど。なんだったんだろう、あの子は。


「・・・あんま平気そうに見えない。空飛ぶとかはオレにはできないけど、飛行船とかで付き添ってそれぞれの家に返すとかはできるから、キツかったら言ってよ。世話になったお礼」
「!」


また考え込んでしまっていたら、キルアがそう言ってくれた。

気遣ってくれたのであろう言葉に驚く。


え、めっちゃ優しい。すごいぶっきらぼうな言い方だけど、めっちゃ優しい。え、すごい。もうそれだけで生きていけそうなんだけど。


「あ、ありがとう・・・!

優しいんだね」
「なっ・・・オレは別に」
「ううん、すごくいま嬉しかった。なんかめっちゃ元気でた。
ありがとう。なんだか救われた気分」
「バッ・・・こっち見んな!前見ろ前!!!」


クルッと振り向いてお礼を言うと、顔を真っ赤にしたキルアにたしなめられた。
かわいい。えっ顔真っ赤だ。めっちゃかわいい。激萌え。


「あはは、ごめんごめん。でもほんとだよ」
「わかったわかった!」
「照れなくてもいいのに」
「照れてねェし!!!」















そうこうしているうちにラムクス地方へついた。
キルアに頼み、資料にあった番号に電話をかけてもらう。保護者の方に繋がるはずだ。

あたしはその間に、メルティさんを睡眠薬を飲む2時間前の身体に戻した。経過した分の時間は、あたしの中に取り込ませていただく。


ぽうっ。

光とともに、メルティさんの目が開いた。



「ここ・・・は・・・」

「こんにちは、メルティさん。寝てるあいだに運んですみません。あなたを助け出したものです。
ラムクス地方につきました。もうすぐ保護者の方が・・・」
「メルティ!!!!!」


寝ぼけ眼のメルティさんに状況を説明していると、老夫婦、そしてその親戚、それどころかおそらくこの地区の知り合いみんなだろう。
走って向かってきた。


「・・・おじいちゃん!!!!おばあちゃん!!!みんな!!!」

半分寝ていたメルティさんも、しっかりと目をあけ・・・いや、目にいっぱい涙をため、その人たちの方へ向かった。

おじいさん、おばあさんとメルティさんが抱き合い、その周りをほかの知り合いたちが囲む。
みんな嬉しさで泣いていた。


「よかった・・・メルティ、ほんとうによかった・・・」
「ごめんね、あのときおばあちゃんが目を離したから、ごめんね、ごめんね・・・」


再会の喜びや、メルティさんと離れ離れになってしまった要因に対する胸が痛くなるほど悲痛な後悔の念。
それをあたしはキルアと、少し離れた場所で見ていた。

ああ、よかった。
ちゃんと、お家に帰りたいひとをお家に帰らせてあげることができて、ほんとうによかった。


「・・・実は昨日ね」
「ん?」
「記憶が混乱したときに、家族や友達との思い出もかき乱されるような感覚になって。
もう2度と会えないってわかってたし、納得してたんだけど、胸が痛くなっちゃった」
「・・・」

感動の再開を間近で見ているとなんだか感傷的になってしまう。
ポツリポツリと話す言葉を、キルアは黙って聞いてくれた。


「なんであたしは帰れないのに、次の日ほかの人たちを家に帰す仕事しなきゃいけんのだ!とか思ったりもしてたの。
性格わるいし情けないよね」
「・・・そんなこと」
「キルアがいなかったら、今日の仕事できなかったかもしれない。
でもいまこうして、こうやって喜んでる人たちを見て、すごいよかったなって思えてる。ありがとね。キルアのおかげだよ」


もう一度、キルアに感謝を告げた。
何度言ったって、言い足りない。


「や、オレは別になんもしてないって」
「ううん」


あたしは首を大きく振った。



「見つけてくれた」



そう。あなたは。
あたしを二回も、見つけてくれた。












「本当にありがとうございました。感謝してもしきれません」
「お金はこれから振込みますが、よかったらこれ、持って行ってください。この地区の名産の果実です」
「わ、ありがとうございます!」


そのあと。

皆さんから何度も何度も両手を握って丁寧にお礼をされた。


「もしご迷惑でなければ、ご飯でもご馳走させていただきたくて・・・」
「あ、実は他にも帰さないといけないひとがいるんで、戻らなきゃいけないんです」
「そうでしたか!きっと皆さん、お喜びになるでしょう。本当に本当にありがとうございました。なんとお礼を言えばいいか」

キルアも同じように両手を握られ感謝を述べられ続けていた。完全に二人とも圧倒されている。


「CATさんにキルアさん。お二人ともお若いのに、なんて偉大なんでしょう」
「いや、そんな大したことは・・・」
「あなた方がいるから、私たちはメルティとまた会えたのです。本当に本当にありがとう」


涙ぐみながらまた感謝の意を述べられる。

気恥ずかしいけれど、悪い気はしなかった。
キルアもそのようで、2人で照れたような苦笑いを交わした。


その日は他にも2人を運んだ。
どこも同じような反応で、いい仕事をしたなあと素直に思った。

あとは明日と明後日にも3人ずつ送れば任務は完了である。とりあえず今日はキルアとふたり、帰路についた。



「今日はほんとにありがとね。女の子抱えながらバランス取るの大変だったでしょ」
「ぜんぜんヨユー。CATがいいなら、明日以降も任せて」
「え、ほんとに?!ぜひ!助かる!!!」


もうすっかり夜だ。お腹もすいてきた。
何かを作る気力はない。どこかに食べに行こう。


「ごはんどうする?なんか食べに行こうと思うんだけど、食べたいものある?」
「あーなんだろ。とりあえず肉」
「いいねえ。家の近くにとつぜんステーキあるからそこ行こう。お金出して座ろう」
「アリ」

なんだか今日でキルアとずいぶん仲良くなれた気がする。すごい楽しい一日だった。
神様ほんとありがとう。感謝してもしきれません。


「・・・なんかさー」
「ん?」

心の中で神に祈りを捧げていると、キルアがポツリと口を開いた。


「オレ、今まで家業で暗殺しかしてこなかったから、こんな風に感謝されたの初めてなんだ」
「・・・」

そうか。
熱を持たない闇人形。

イルミはそんな風にキルアを表現していたけれど、もしかしたら本当にそうとしか生きられなかったのかもしれない。

ただ、指示通りターゲットを殺す。
スキルを褒められることや、アドバイスを受けることはあったかもしれないけれど、それだけ。

きっとそれはミッションコンプリート以外の何物でもない。


「なんか・・・悪くないなって。
もしよかったら、しばらくさ。仕事手伝わせてもらってもいい?」
「もっちろん!大歓迎だよ!!!あっベッド買わなきゃ」


食い気味にそう言うと、キルアは少し呆れたように笑った。
これはまじでめちゃくちゃいいベッドをポチってすぐ届けてもらって、キルアが気持ちよく働ける環境作りに励むしかない!!!


「これからよろしくね、キルア。パートナーとして、頼りにさせてね!」
「おう!・・・って、あんま役に立つかわかんねェけど」

そしてあたしたちは人がいない暗がりへ降り立ち、とつぜんステーキを目指した。


ああ、もう、ほんとうに1人じゃない。

独りじゃないんだ。


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