「おはよーキルア。わたしこれから出るけど昼過ぎには帰ってくるから、一緒にランチいこー」
「おー。帰ってくるまでにメールの対応しとくな〜」
「ありがとうー!たすかる」
CATのところで居候を始めてから、一週間が経過した。
第40話
進み、切り開け
他人と一緒に住むのなんて初めてだったけれど、とりあえずいまのところは一切なんの不便もない。すごくやりやすかった。
仕事も、簡単すぎるけどわりと楽しくやっている。ペット探し系はしょうもなすぎて疲れるけど、見つかるとめちゃくちゃ喜ばれるから嫌いではない。
CATは忙しいようで、わりとよく一人でどこかに行く。
でも一日のうちどこか一食はなるべくオレといっしょに食べようとしているようで、困っていることはないかの確認や仕事内容の共有をそこでしっかり取っている。
普通にいっしょに働いていたとしても、いい上司?先輩?になるんだろうなあとなんとなく思った。
「とりあえずトースト焼くか」
CATはだいたいオレが朝起きる頃にまず一回出て行く。
昼くらいに落ち合うこともあれば、夜まで帰ってこないこともある。
最近この仕事を始めたと言っていたが、どうやらアイツは不思議な力を持っているようで依頼内容は多岐に渡っていた。
だいたいは物品の修理、人や動物・物探し、ボディーガードを主に受けているようで、殺しなどの依頼は断るように言われている。
わかりやすい性格で、メールチェックをするようになってまだ3日目だが、CATが好きそうな依頼内容はもうあらかた検討がつくようになっていた。
トーストを焼きながらテレビをつける。
聞き慣れた歌がCMから流れた。
「RAIN、ニューシングル。
Now on sale」
あの日オレの人生を変えたと言っても過言ではないあの女は、時の人になっていた。
RAINに感化されて、家を飛び出して。CATに拾われて、知らない世界を見ている。
敷かれたレールの上を歩く人生なんて嫌だった。
でも、こんなに簡単にレールの外に出られるなんて思っていなかった。
伸びをする。窓の外では今日も暑そうに太陽が照っていた。
「じゃあもう闘技場にはしばらく来ないのかい◆」
なんでこんなクソ暑い中、よりによってヒソカとモーニング食べてるんだろう・・・。
そう思いながらも美味しいエッグベネディクトを貪る。しょうがない。事務所に来られてキルアと鉢合わせられるほうが困るのだ。
しばらく事務所使えないから、なんかあったら連絡してとメールをしたのは昨日。久しぶりにゆっくり寝るつもりだったのに早速今日のモーニングに誘われてしまった。
「うん。仕事もだいぶ入ってるし、いいや」
「そう★それはよかった◆」
本当はキリが悪いから200階まで上ってしまいたかったけど、今まで本当の姿で闘技場に行っていたから微妙なのだ。
今後はCATとしては年を取らせた姿でしか活動しない。キルアと一緒に働いているんだ、やるなら徹底的にしないと。
どろりとしたエッグベネディクトの口直しにオレンジジュースを飲む。美味しい。冷たい甘さが火照った体に染みる。
どこの世界でも夏は本当に暑いんだなあ。温暖化はこっちでも進んでいるんだろうか。
そんなふうにぼうっと考え事をしていたら、ヒソカが突然鋭い声で言ってきた。
「で、なんでそんなに弱くなったんだい★」
「!
・・・え。」
「え、じゃないよ◆見ればわかる★
念の総量が明らかに減っているけど、誰かに何かされたのかい?」
的確な指摘に目をパチクリすると、ジィッと見つめられた。
うう。まじでこの目苦手だ。見透かされそう。
どう答えたものか、と悩むけれど。テキトーな嘘は通用しないだろう、彼は根っからのペテン師だ。
実際念の総量なんてごまかしがきくものではないし、心はほぼほぼ強化系のあたしが敵うはずもない。
あたしはひとつため息をついて、観念したように口を開いた。
「・・・たぶんあたしのドッペルゲンガーに吸われた」
「ドッペルゲンガー?」
「うん。
たぶん、あれはクモが探している方の・・・あたしじゃない方の、『サナ』だ。」
そしてあたしはヒソカに、あの夜のことについて話したーーーーー・・・・・。
「もう一度見つけないといけないね、その『サナ』◆」
すべて話し終えたあと、ヒソカはそう言った。
「・・・うん。あたしもそう思う。
でも手がかりが何もない」
自分なりに、あの『あたし』を探そうとできることはした。クレオにも頼んだ。
だけど見つからない。
なんの手がかりもない。
クレオの念能力は人を探すこともできる。けど、何回やってもあの『あたし』でなくこっちのあたしの方が浮かび上がってしまうらしい。
彼が「まじでドッペルゲンガーか、変な幻でも見たんじゃねえの?」と言ってきたからとりあえずドッペルゲンガーと仮定しておいた。
自分が二人いるなんてちょっと気持ち悪いけど、異世界から来たのはあたしのほうだ。
どちらかと言うとあたしが異分子になるんだろう。
「手がかり?あるじゃないか★」
「え?どこに???」
するとヒソカが事もなげに答えた。
「クモに聞いてみなよ◆
『サナ』について★」
「え・・・」
いや、うん、まあ。
たしかにそうするのが一番手っ取り早いかもしれないけど。
「いやでも、あたしのことをクモはあの『サナ』だと思ってるんだよ?
あたしがのこのこ出て行って期待させるのも・・・」
「違う人物を追いかけてるほうが酷だよ◆
違うなら違うで早く言ってあげたらいい★」
「む」
た、たしかに・・・。
まったくその通りだな、と思うもののどうしてもクモに会うのは抵抗があった。
それこそ、本当の記憶がまた混乱してしまいそうで。
「うーん・・・」
考え込んでいると、突然携帯が振動した。
ショートメールが届いたようだ。何の気なしにちらりと差出人を確認する。
「あ」
シャルナークからだった。
「・・・タイミングがすごいなあ」
「?」
「シャルナークさんから、メールです」
「おや偶然◆」
「ヒソカなんか言った?」
「言う訳ないだろ、めんどくさい★」
「だよね」
メールの内容を見ると、明日以降でお茶でもしないかというものだった。
「・・・会ってみるかー。」
「いいんじゃない◆
はやく元の君に戻っておくれよ、追いかけがいがないじゃないか★」
「うるさい」
あたしは大きくひとつ息を吐いた。
しょうがない。前に、進んでみよう。