「本当にここまででいいの?」
「はい、後は自分で帰れます!今日はありがとうございました・・・お昼もご馳走になって」
「なんならおやつもご馳走するけど」
「もう十分です!」
団長に言われて、サナを外まで送った。
以前、「オレが探しているサナじゃなかったとしてもキミに出会えてよかった」、そう言ったのを思い出す。
でも今日の話を聞いていて、そんなことはないとわかった。
目の前にいる彼女が、自分は『サナ』でないと話を続ける程にオレの熱は冷めて行くように興味を失っていた。
オレにとっては、あの『サナ』しか意味を持たなかったようだ。
だけどさっき、クロロがオレにこの子を託したとき。
クロロは自分の体で指元を隠しながら、念で文字を描いていた。
『これは、オレ達の探しているサナだ』と。
どうしてそう思ったのか。
戸惑うオレに、クロロは真直ぐな視線を向けてきたから黙って一つ頷いた。あとでちゃんと説明してよ、とアイコンタクトを残して。
そしていま、オレはサナなのかサナじゃないのか朧げなこの子を値踏みしながら、表面上の優しさを取り繕っている。
「・・・おやつはもしまた、シャルナークさんの気が向いたら。今度はあたしがご馳走します、今日のお礼に」
「え、いいよそんな!年下の女の子相手に」
「あはは。じゃあまたいつか、お願いします。とりあえず今は、はやくみんなのところに戻って話をしたいって顔をしてるから」
本当のことを笑顔で突かれて面食らう。
うまく隠してた、つもりなのにな。
「・・・バレてた?」
「はい。わかりやすいですよね」
それじゃあ、と一例して彼女は去って行った。
『案外わかりやすいよね』
昔言われた言葉がリフレインする。
・・・ああ、確かに。
やっぱりこの子は、サナなのかもしれないな。
小さくなっていく背中を見つめる。
ああ、大きくなったね。なんてうっかり思ってしまい、ひとつ苦笑を溢してオレはみんなのところへと戻った。
第45話
蚊帳の外のから騒ぎ
部屋に戻ると、一斉にみんながこっちを見た。
シャルが戻ってきたぞ、とか早くしてよ、という声が次々出てくるので、きっと団長はまだあれから何も話していないんだろう。
「ただいま。送ってきたよ」
「ああ。すまないな」
「うん。で、さっきのことだけど・・・あのコがサナって思う根拠を教えてよ」
話しながらオレはさっき座っていた場所に戻る。団長はみんなの顔が見渡せる位置・・・サナがさっき立っていた付近で、適当な物に座っていた。
そしてゆっくりと、オレたち全員を見回す。
「さっきの話。
聞いてどう思った?」
「どうって・・・」
「正直訳がわからないわ。別の世界から来たなんて言われても」
クロロの問いかけに、お手上げよ、といったふうに首を傾けながらパクノダが答えた。
「とりあえず試しにあたしが見るべきだったんじゃない?無駄って聞いてはいたけど、やる分にはタダだし」
「それは厳しいんじゃないか?カウンター型の念なら、向こうの意思で見せる記憶も操作してくるかもしれないし、最悪パクがなんかされるかもしれないだろ」
「それってフィンクスはあのコがあたしに対してそんな敵意を向けると思ってるってこと?」
「いや、そういうわけじゃねえけど・・・」
パクに質問され、フィンクスは口ごもった。
それを見ていたマチが口を開く。
「アタシはあのコ、本当のこと言ってると思うよ。都合の悪いところは誤魔化してるかもしんないけど、調べても一緒だと思う」
頬杖をつきながら話すマチに、ノブナガが疑問を投げかけた。
「じゃあマチ、お前はアイツがサナと違うっつーのか?」
「いや。アタシもあのコがサナだとは思う」
「矛盾してるじゃねェか」
「そう?」
「オメェはカンで物言うからなあ」
「悪い?」
マチとノブナガが睨み合う中、頭をかきながらフィンクスが言う。
「・・・マジであれはサナで、記憶が混乱してるとかじゃねェのか?さすがに異世界から来ましたは無理があんだろ」
「ハハ、確かに。サナ、マンガの読みすぎね」
明け透けに言うフィンクスに、フェイタンが笑いながら返す。
もちろんその可能性もなくはないけれど、一番自分がいまのサナと話しているという自負もあって、黙っていられず俺も口を挟んだ。
「でも現実味はないけど話に矛盾もなかったし、今まで何回か話してた感じだとオレは本当にサナとは違うんじゃないかなって気はしてるよ。まあダブるところはあるけどね、見た目とか話し方とか」
「わたしもサナさんのことはあんまり知らないけど、そっちの方が納得いくなあ」
少し離れたところにいたシズクが同意してくる。
そもそもサナが消えたのはシズクが入団する前のことだから彼女にはぜんぜん関係ないのに、なんだかんだでサナを探すのにも協力してくれたり今回も頭を使ってくれているようでいいやつだなあ、となんとなしに思った。
「で、団長は結局どう思ってんだよ」
憶測が飛び交う中、痺れを切らしたウボーが聞いた。
誰もが口を閉ざし、静寂が訪れる。
クロロの言葉を聞こうと全員が耳を傾けた。
「そうだな」
クロロが、天を仰ぐ。
「正直、オレのも勘みたいなものだが・・・アイツはサナだよ。そうするといろいろ合点がいくんだ」
「合点がいく?」
「ああ」
そしてクロロはそこから、記憶に思いを馳せるように少し遠くを見つめながら話し始めた。
一方その頃、ハンター協会本部では。
「十二支んに猫が入った!?」
「それいったいいつのことですか?」
会長からの突然の発表に目を丸くする十二支んの面々がいた。
「いつじゃったかのう・・・わりと最近じゃ。のう?」
「そうですね、1ヶ月くらい前ですかね?」
首を傾げて同意を求めるネテロに、パリストンは笑顔でうなずく。
「アンタも知ってたの?!パリストン!」
「ええ、まあ。ボクもその時その場にいましたから」
信じられない、と騒ぐチードルは、勝手に本来であれば十二支には存在しないはずの『猫』という役割の人物が増えていたことと、パリストンのみがそれを知っていたことに憤っているようだった。
そんな彼女にパリストンはもう一段笑みを深くする。
本当にこの顔が嫌いだ、とチードルはさらに眉間に皺を寄せた。
「にしても、別に欠員が出たわけでもないのにどうして新たなメンバーを?しかも猫だなんて、何か特別な人物なんですか?」
「ま、ジンはいつもいないけどね〜」
会長の考えを聞き真意を探ろうと尋ねるミザイストムに、ピヨンはマニキュアで色づく自分の指先を見つめながら気だるそうに被せる。
ネテロはふぉふぉふぉ、と気の抜けたように笑って陽気に言った。
「ま、なんとなくじゃ。おもしろそうな子でのう。今度皆に紹介しよう・・・あ、でも今年の試験に合格してからの方がよいかな?」
その発言にパリストン以外、全員が目を白黒させて口を揃えて突っ込む。
「「「「「そもそもハンターじゃないんですか?!?!?!」」」」」
十二支んの驚愕する声が、ハンター協会に響き渡った。