「じゃあ、このオルゴールを三日前の状態に戻したらいいんですね?」
「ええ・・・でもそんなことできるんですか?」
「はい、お任せください」
ぽう、と自分の手から光が溢れてオルゴールへと流れて行く。
あたしはいま物質からただ経過した分の時間を奪い取っているだけなのに、まるで何かを与えているような気持ちになれるこの瞬間がすきだった。
あたしの体は普通じゃないから念を使って何かを得ないと生きてはいけない。
あの日ショーケースの中に囚われた『自分』らしきものと対面してから燃費が悪くなって困っていたけれど、あれから随分時間も経って体もうまく慣らせるようになってきた。
人は成長する。
「すごい!!!ありがとうございます!!!」
涙ながらに手を握られてあたしはへらりと会釈した。
何もお礼を言われるようなことはしていない。ただ、あたしの餌になってもらっただけなのだ。
第47話
あの七夕の日に
「相変わらずスゲェよなー、どういう仕組みなの?CATのアレ」
またのお越しをー、とクライアントを見送ったところで、その様子を後ろで見ていたキルアに声をかけられた。
「んー?企業秘密」
「いいじゃん、オレも企業の一員みたいなもんなんだし」
「キルアくんにはまだ早いかな〜」
「どういう理屈かくらい教えてくれてもいいだろ!」
先ほど出したお茶のグラスを下げるためキッチンへ向かうと、キルアはぶうたれながらもテーブルを拭いてくれていた。すっかり板についてきている光景に思わず少し可笑しくなってしまう。
ほんとうに、かわいいなあ。
「どうやったら教えてくれんのー?弟子とかになったらいい?」
「弟子って!あたしそんなの取らないよ」
「じゃあどうしたらいいんだよー。オレ自分で言うのもあれだけど割と素質あるほうだと思うんだよねー、ちょっといろいろ教えてくれたらもっと役に立てると思うけど」
「(まあそれはそうだろうな)」
言ったら調子に乗るだろうから言わないけど、と心の中で呟きながらあたしはグラスを洗う。
「んー、もうちょっと強くなってからね」
「その辺のやつよりは強いよ」
「まあそれはそうだけどさー」
困ったなあどう誤魔化そうかなー、と悩むもこういうのはだいたいキルアのほうが弁が立つので理論的に説得は絶対無理。
念は教える気がないから諦めてくれるまで流すしかないか、とひとつ息をついた。
ひらひらと気の無い返事でかわしていくあたしに少しキルアはふてくされる。
しかしそれから少しして、ひらめいたように声を出した。
「じゃあさ!ハンター試験受かったら教えてよ」
「ハンター試験?」
「うん。あれ受かったらそれなりに強いことは一応証明されるだろ?」
ニィ、とキルアは猫のように笑った。
ウーン、まあ正解だなあこれは・・・実際裏試験で念学ぶわけだし・・・。
「ウーン、そうね。受かったらね」
「なんだよ!受かんないと思ってるの?」
「ううん、楽しみだなーと思ってるだけ」
「ふーん」
ジト目で見てくるキルアに笑う。
一番最初に見かけたときよりずいぶん人間らしくというか、年相応の男のコらしくなったような気がする。
ハンター試験でゴンに会ったらまたより一層変わって行くんだろう。すごく見ていたい。嘘をついているあたしには許されないことかもしれないけれど、彼の変化をずっと隣で見ていたい。笑っていてほしい、幸せでいてほしい。
まあでも嘘がどうとか抜きにしても、ゴンと出会ったらあたしなんてどうでもよくなっちゃうんだろうな。試験の後はウイングさんにも会うことになるし、念もそこで覚えられる。
改めてキルアとこうやって一緒にいられる時間の短さを思い知る。
そもそも試験までいっしょにいることすらできないんだけど。あたしはキルアと2週間後の花火大会に行って真実を告げるつもりだ。
本当はもっと、少しでも早く言うべきなんだろうけど・・・来週末ライブをすることになっていて忙しいから、甘えてしまった。
ふぅ、と息を吐きながらグラスを洗う。
このもやもやもこれくらい簡単に洗い流せればいいのに。
そんなことを考えながら洗い終えた手を拭いていたら、ソファにキルアが腰掛けながら声をかけてきた。
「そういやCATさ、来週の土日って両方いないんだっけ?」
「ん?うん、金曜日からいないよー(リハあるから)」
「そっか。じゃあいいや」
その声に思考の海から現実へ引き戻される。
めったにキルアがあたしの予定聞いてくることなんてないからどうしたんだろう、と首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや、土日のどっちかで今流行りのRAINのライブのチケットオークションで落とそうと思ってるんだけど、一緒に行かないかなって」
「えっ」
「チケット争奪戦は負けたんだけど、オークションで見つかってさー。まあだいぶ高値になってたけど」
「まじか・・・転売ヤー対策もっとちゃんとしないと・・・」
「ん?」
「あ、いや、なんでもない」
確かにチケットはありがたいことにわりと瞬殺で売り切れたんだった。ああでもオークションで回ってんのかー、うわーめっちゃ複雑な気持ち、いやだなー。
歌う張本人として真っ先にそんなことを考えてしまった。だめだだめだほんとのこと話す前にキルアにバレちゃう。
「ま、CATがだめならオレ一人で行ってくるよ」
「あ、うん、ごめんね。
・・・ありがとう」
ありがとう、には誘ってくれたことへの感謝ももちろんあるけれど。
それ以上のものが含まれていて、少し涙が出そうだった。
キルア、来てくれるんだ。
だったら当日、より一層気合い入っちゃうなあ。
「楽しんできてね」
「おう!実はオレ、デビュー前にストリートで歌うRAINと話したことあってさー」
「そう・・・なんだ」
「まあ、向こうは覚えてないだろうけど。それにデビュー日がオレの誕生日で、デビュー曲の名前もBirth to youで、なんか身近に・・・」
「覚えてるよ」
「えっ?」
キルアの言葉を思わず遮り、食い気味にあたしは口を開いた。
ねえ、わかってる?
7月7日。
あの日あたしはあなたにどうしても、おめでとうとありがとうを言いたくて生まれ直したの。
Birth to you、そう、それは・・・
「キルアのこと、忘れたりしないよ、ぜったい」
あの瞬間から全て始まった。
もうすぐ全て明かすから、今はまだ、七夕の幻として。