好奇心は猫をも殺す

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「ありがとうキルアくん、本当にあなたのおかげで助かったわ」
「ありがとキルアおにいちゃー!」

「おう。もう窓あいてるときに目ェ離すんじゃねえぞ」


少し前にいなくなってしまった飼い猫のミルク探し。取り掛かってから2時間ほどで見つけて依頼主の元に戻ると、優しそうな母親とまだ年端もいかない幼子から深く感謝をされた。


「キルアおにーちゃ、これあげるー!」


メリルというらしいその子は嬉しそうに飴玉をわたしてくる。少し前までいた日常とは遠く違うそれに、自分が平和ボケしていくのがわかった。


「いいの?」
「うんー、ほんとうにありがとー!!!」


にこにことした笑顔で渡されたミルク味のそれを受け取ると、母親がまた深深とお辞儀をしてきた。
CATに出会わなければ、知らなかったであろう世界。


「おう。また何かあったら、いつでも連絡してこいよ」


まるで自分が最初からこうやって生きていたかのような錯覚を覚える。誰かに感謝されることだけをして生きてきたかのような。
・・・これくらいの年齢の子を殺めたことだってあるというのに。
(あれは仕事だったしもう過ぎたことだから、それについてどうこう思うつもりは一切ないけれど)



「じゃあな」
「うん、おにーちゃ、ばいばーい!」
「本当にありがとうございました、お気をつけて」
「みゃぁーおう」


ちぎれんばかりに手を振り続けるメリルに軽く笑い、オレはその家族の元を後にした。





第51話
施錠セヨ







「ただいまー」
「おかえりー!」


今日はさっきのミルク探しで終わりだったため家に戻ると、もうすでに仕事を終えていたらしいCATの明るい声がした。

それに軽く返事をし、いつも口酸っぱく言われているので洗面所へ向かい手洗いうがいをする。
CATは雇い主であると同時に最近ではまるで姉のようにも思えてきていた。


「今日はどうだったー?」
「ん、ヨユー。」
「よかった!もう猫探しでキルアの右に出るものはないね、これからは猫探しのキルアを名乗っていいんじゃないかしら!!!」
「やだよそんなダセーの」


そうしてCATがケラケラ笑いながらいれてくれたお茶を受け取って、礼を言いソファーに座る。リビングでは最近お気に入りらしい録画したドラマが流れていた。
このヒロインが本当にかわいいといつも熱弁されるけれど、CATのほうがかわいいと思う。雇い主の上に年も離れているコイツにそんなこと言ったって笑われるだけだからぜってー言わねえけど。



「そういや明日からいないんだよな?」
「そそ、留守中よろしくね」
「おー」

CATは不思議なやつだ。
もともとプロの殺し屋をしていたことを言っても特段引かずに自分の家に入れるし(まあ向こうのほうがどう考えても強いからそういうことができるんだろうけど)、何も気にせず留守中の家を託してきた。

仕事内容だってもっと割りのいいものもあるのにペット探しや物品修理ばかり受けてくる。自分はときどきボディーガード系のものも受けてくるがオレには絶対やらせない。
子供だと思われているからだろうと思い、そっちの方が得意だと言ったことはあるけれど「そういうお金になる仕事はほっといても絶対誰かがやるから、それより1人でも多くのペットと飼い主さんの再会を手伝いたい」などと熱く語られてしまった。ちなみに仕事の難易度に関わらず、給料もかなりくれる。

今まで出会うことのなかった類の人間で、毎度毎度驚かされた。あ、毎回の食べる量にもドン引きするけれど。
なんというか、CATといるのはフツーに居心地がいい。


「三日もキルアと顔を合わせないのなんて出会ってから初めてだから寂しくなりそう。なにかあったら連絡させてね」
「何かあったら連絡してこい、じゃないのかよ雇い主のくせに」
「たははー」


そうしてCATは間抜け面で笑った。ここ数日、ずいぶんと元気が戻った気がする。少し前まではなんだか思いつめていたようだったから。まあ、それでもまだ何か隠しているんだろうなという感じの違和感を受けることはときどきあるけれど。

CATはオレには何も話してくれないが、あまりにもわかりやすくていろんなものが透けている。
何があったとかどうしてこうなったとか、言いたくないのなら言う必要はないと思っているけれど、それでも楽しそうに笑っていてくれると安心した。

そりゃもちろん、オレで聞けることがあるのなら聞いてやりたいけど。
でもオレとCATは雇い主と従業員で、年齢だって一回り近く離れているんだから。



「そうは思ってるんだけどなー」
「ん?なあに?」
「いや、なんでもねえよ」


別にコイツとどうこうなりたいとかってわけではないし、この姉と弟のような関係もいたく心地よいものだけれど。
もっと、と先を求めてしまうのはなんなんだろう。その先が何かもわからないというのに。


そんなことを考えて悶々としつつテーブルの上に置いてある菓子を口に放り込んでいると、突然CATがおずおずとこちらを見ながら話しかけてきた。



「あ、あのさ、キルア」
「んー、なに?」
「えと、あ、あさって・・・RAINのライブ、行くの?けっきょく」

なぜか少し震えているようなその声が気になってCATのほうを振り向く。以前誘おうと思って話した内容について尋ねられてオレは目をパチクリした。なんかいつもと様子が違ってないか。


「うん、行くけど」

そう言うとCATは目を輝かし、そっかそっかと笑顔を見せる。
なんだコイツ。オレは首を傾げた。


「なんで?」
「えっ?!あ、いやいやなんでもないよ!!!」
「そんな感じじゃねえけど」


じっと見るとCATは目線をオレから外す。コイツ、年上なのにまじでこんなにわかりやすくていいのか・・・?

しかし話す気はなさそうである。なんだろう、実はCATもライブに行くとかなのかなー。もしくは裏方で仕事してるとか。だったらオレもついていきてーんだけど。

じーっと顔を見つめてみるもさすがに答えまでは書いてないし、まあコイツがオレに都合が悪くなるようなことをするわけもないだろうと追求するのはやめてやった。オレめっちゃ優しい。




































そして翌日。


「じゃあいってきまーす!」
「へーい気をつけて」
「ライブ!!!楽しんできてね!!!!!」
「おー」


やたらと機嫌のいい笑顔を残してCATは出ていった。
オレも今日の仕事は夕方からなのでしばらく暇である。見送った後部屋に戻り、とりあえずメールをチェックするかとデスクに座ってPCを開いた。

ポチポチとメールを確認して受ける依頼を選んでいく。その後自分が受けるものとCATが受けるものに振り分け、スケジュールの中に入れていった。CATの方は向こうが承認するまで仮押さえの状態だが、スケジュール管理まで任せてもらえるようになったのは少し嬉しい。
雑用でもなんでも、CATがオレに振る仕事量が増えているのは純粋に信頼の証のような気がしてしまう。


そんな作業を繰り返して1時間半。
突然、チャイムの音がした。


ピンポーーーン。



「?」


アポなしで誰かがくることは滅多にないし、今日は特に配達物が届くわけでもなかったはずなのにとオレは首を傾げる。
何かの集金かなあとは思いつつ、出ないわけにもいかないのでオレはインターホンへと向かった。

カメラを見ると、そこにはなんだか独特な髪型(明るい色の髪を5つの束に分けて結んでいる)をした女がいる。


見覚えはないが集金や配達員の類ではなさそうな外見に、誰だと思いその女を凝視した。そうしているともう一度チャイムが鳴ったので、オレは慌てて通話ボタンを押す。


「はい」
「あっサナ?ごめん連絡もなしで!携帯壊れちゃってさー」
「は?」
「あけてー、お土産持ってきたよ〜」


サナ・・・?

聞きなれない名前に首を傾げる。
もしかして、それがCATの本名なんだろうか。

なんだか聞いてはいけない秘密を聞いたような気がしてドキドキする。そんな、本人から直接聞いていないのに、知ってしまってよかったんだろうか。そしてこの女はなんなんだろうか。


「・・・あの、CATのことなら、いま出てますが」
「え、あんた誰?あ、そういやなんか従業員雇ったとか言ってたっけ、忘れてたわ。サナいつ帰ってくんの?」


やっぱりサナとはCATのことだったようで、オレはなんとなく唾を飲む。
いいんだろうか、この女は確実にCATと親しい人物だろう。いつもオレに何かを隠しているようなCAT。オレがこの女と出会うのは、アイツの秘密に触れることにならないだろうか。知ってしまったらもう、ここにいられなくなったりしないだろうか。追い出されたりしないだろうか。


「・・・CATなら今日から出張で、月曜日まで帰ってきません」
「ええ?!あ、そっかー!もしかしてRAINのライブ今週末だった?来週と勘違いしてたわー!」
「?!」
「ライブ頑張ってほしくてさー、喉にいい食べ物持ってきたのよー。とりあえず代わりに受け取ってくんない?アタシいま連絡できないからさ」


女はそう言ってカラッと笑った。
もしかしてという言葉が頭に浮かび、思い当たる事象がぐるぐると脳内を駆け巡る。

RAINのライブを誘ったときの反応、転売屋が・・・などと呟いていたこと、そして昨日今日のこと。

それから・・・。



『キルアのこと、忘れたりしないよ、ぜったい』


あのときのやたらと澄んだ瞳を思い出す。

もしも、本当に、そうなら。




これ以上CATの素性に触れるのは良くないと思いながらも。
オレの指は震えながらも迷わず、扉の開錠ボタンを押してしまっていた。


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