あなたを見つめてると夢みたい

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「ごめん、待たせちゃったよね!お待たせ」
「おー」

あの後急いで会議を終えてキルアに連絡した。待ち合わせ場所に向かうとキルアはもう既にそこにいたので、あたしは小走りでキルアに近づき声をかける。


「えっと・・・どうしよっか。お腹すいてる?どっか入る?」
「・・・下手なところ入ったら話しにくいんじゃねえ?どっちでもいいけど」


キルアの態度はどこかよそよそしい。あたしは少しいたたまれない気持ちになりながら考えた。
いまはCATの状態で出てきているので、あたしの方は個室のある居酒屋とかにでもいけるんだけどキルアは無理だし。

おそらく変身を解くことになるだろうから人目を気にしない方がいいだろうとはあたしも思っていたのでキルアが言ったことに乗っかる。


「じゃ、あたしのいま泊まってるホテル行こっか」
「ん」


ぶっきらぼうにキルアが頷いたのであたしも覚悟を決める。ゴクリと唾を飲みこんで、来た道を引き返すのだった。




第53話
トロイメライに乾杯





待ち合わせ場所からホテルまでの道のりではお互い一言も話さなかった。あたしは黙って前を歩きキルアはそれについてくる。
こうやっていっしょに歩くのももしかしたら最後かもしれないと思うとどうしようもなく胸が苦しくて泣きそうになった。もちろん、隠し事をしていたあたしが悪いんだってわかってるんだけど。


「部屋ここ、入って」


カードキーを翳してピッと開錠されるのを待ち、少し重い扉をガチャリと音を立てて開く。こうなることも一応想定はしていたので、荷物とかある程度片付けておいてよかった。


「てきとうに座って?」
「ん」


声をかけるとキルアはドレッサーの前にある椅子に腰かけた。あたしはその前にあるベッドに座る。ふかふかのそれにお尻が沈んだ。



「・・・あ、飲み物いる?」
「いい」

キルアはどこか緊張しているような面持ちだった。ドレッサーにある鏡には、正面に座るキルアの後ろ姿とその奥に年を取らせたあたしの姿が見える。そこに写る自分はなかなかに弱々しくひどい顔をしていて、いつまでもこんな顔を見せていられないなと思い口を開く決心がついた。あたしはなるべく真っ直ぐにキルアに視線をやる。



「単刀直入に言うね」
「・・・うん」

「黙っててごめんなさい。あたしが、RAINの正体です」


震えないように努めたけれどそれでもあたしの声音は弱々しかった。キルアもあたしのほうをじっと見つめる。どこか感情が欠落しているような、色のない瞳にあたしはぎゅっと布団を握った。

少しだけ間を置いてキルアも口を開く。


「・・・いまのCATの姿が本物なの?それとも、RAINの方が本物?」
「んー・・・、正直に言うとどっちも違うかな。一応こっちの世界ではRAINのときの方が本物になるんだろうけど」
「こっちの世界?」


ふと、この世界に来てからこの話をするのは何度目だろうと考えた。

でもどうしてだろう、いまが一番怖い気がする。
キルアに拒絶されることが、いちばん恐ろしくてたまらなかった。

それでもその橋を渡らないと先へは進めない、引き返すこともできない。あたしは自分の膝に視線を落とし、切り出す。


「うん。そうね、やっぱりそこから話さないと・・・今から話すことはぜんぶ本当だよ。突拍子もないんだけどさ。

あのね、あたし・・・異世界から来たの」
「は?」
「信じられないと思うんだけど・・・異世界トリップ、してきたの」


シン。
おそらくキルアがその言葉の意味を理解するための沈黙が訪れる。

あたしはいままでこの話をした人の顔を思い出していた。ジンさん、クモ、クラピカ。そう考えるとずいぶんと説明するのにも慣れてきた気がする。



でも。



・・・ジンさんは、すごいひとだ。
彼は暗黒大陸のことだって知っているし、そういう突拍子もないことを受け止める度量がある。

クモやクラピカは、『サナ』という人物を探していた。だからこそあたしの話に耳を傾けてくれたんだろう。いくら素っ頓狂なことを言われたって、自分なりにしっかりと考えてくれていた。


だけどキルアは、そのどちらもない。
そしてその上キルアはあたしにとっても、先の人達とは大きく違う。話をしたときのジンさんみたいに出会って間もなく思い入れのなかった人物でもなければ、クモやクラピカみたいに『あたしとは違うあたし』を探している人物でもない。

ジンさんに話をしたときも、クモやクラピカに話をしたときも、ある種どうしようもなかったからしただけだった。拒絶されたとしても、そこまで大きな傷にはならなかっただろう。


ただ、キルアは違う。
キルアにこの話をするのは、あたしがキルアにそばにいてほしいからだ。

彼に拒絶をされたくないから、この話をしようとしている。それはこんなにも怖いものなのかとしみじみ思った。



「テキトー言ってるわけじゃ・・・ないよな」
「うん。ほんとのことだよ」
「・・・」


キルアはどう受け止めるべきなのか悩んでいるのだろう。眉を寄せて黙り込んでしまった。
あたしはどうしたらいいのかわからずただ黙ってキルアを見つめる。これは、彼に受け止めてもらうしかないんだ。


たっぷりの沈黙のあと、ようやくキルアは口を開いた。




「ごめん。なんか斜め上の回答が飛んできてなんて言ったらいいのかわかんねェ」




彼はポリ、と頬を掻きながらそう言った。
ああ、そうか。やっぱりそりゃ、そうだよね。

あたしは心臓が急に冷たくなるような感覚に陥った。そうしないと泣き出してしまいそうだったから、一生懸命作り笑いでも無理やり口角を吊り上げる。



「そ・・・か。そうだよね。ごめんね」



そっか、キルアには受け入れてはもらえなかったか。まあでも、うん、当然だ。仕方ない。でもそうなるとあたしもこの状況をどう説明すればいいのかわからなかった。
諦めて今までの分のお金をぜんぶ、なんならちょっと大目にわたして、クラピカには悪いけどハンター試験もしばらく見送ろうかな。そうしてキルアと距離を置くのが、いまあたしがキルアにできる最大限のことだ。

目の奥が熱くなるのをこらえてあたしは頭の中で自分に大丈夫だと言い聞かせる。大丈夫、大丈夫、トリップした最初に戻るだけだ。なんなら今はそれよりもっと居場所や仕事があるんだから、すぐに立ち直れる。


さあ、これからどうしたものか。改めて謝って、キルアが帰りやすくするのがいいかな。

そう考えているとキルアが突然立ち上がった。



「ちょ、ちょっと待って!!お前、なんかスゲェ思考が飛んでないか!?」
「えっ・・・?」
「いったんちょっと、整理しよう。お前が話したいことと、オレがお前に聞きたいこと」


キルアはそう言って、立ち上がった勢いでズカズカとあたしに近づいてくる。なんか、表情が鬼気迫っている。怖い。なんだ。怒られるのか?????


ピタッとあたしの前まできて立ち止まったキルアは、そのままぼふんと音を立ててあたしの隣に座った。そして彼はあたしの顔を真っ直ぐに見る。


「オレが聞きたいのは!
お前がなんでオレを雇ったのかってこと。オレの家と・・・その、関係があるから、騙してたのか?ってこと。

それから、お前がオレのことをどう思ってるのかってことなんだよ!!」
「え・・・?」

あまりの勢いにあたしはびっくりして目を瞬かせる。そうしていると、キルアはガシッとあたしの両肩を掴んできた。



「オレはお前のことをトクベツに思ってる!!!お前はどうなのかを聞きたい。ゾルディック家と繋がっているからオレといただけなのか、それが気になって仕方ないんだよ。
だから今は、ちょっと、異世界とかそういうのよくわかんねーっていうか、それどころじゃねェから、置いといてくれ!!!」



キョトン。


顔を寄せて話すキルアは真剣で。
ワンテンポ遅れてキルアの言ったことを理解したあたしは、また目をパチクリさせて。



「・・・ふはっ」


それから吹き出してしまった。




「ハァ?おいお前なんで笑ってんだよおかしいだろ」
「だ、だってキルア、異世界なんてそれどころじゃないとか言うから」
「なっ、なにがおかしいんだよそれの!」


キルアは頬を赤く染めて少し怒ったかのように眉間に皺を寄せた。それでももうあたしの心はびっくりするくらい軽くなってしまっていて、まったく怖くない。

ああもう、敵わないな。


あたしは肩の力が抜けて、心底穏やかな気持ちで口を開いた。



「あたしもトクベツに思ってるよ。だから嘘ついてたの、キルアといっしょにいたかったから」
「・・・ほんとかよ」
「ほんとだよ。まあ、一応ゾルディック家の皆さんのことは知ってるけどね、お客さんだし・・・っていうか、たぶん婚約者候補にされてるのあたしだから」
「ハァ?!」


なんだそれ、とキルアはびっくりしてあたしから手を離す。そして家のことだからだろう、少し探るような目をしてあたしのほうを見てきた。


「言っとくけどあたし、別にゼノさんやシルバさん達にそう言われたわけじゃないからね。最初にRAINとしてキルアに会ったときの情報でそう思ったの。あたしもびっくりしたんだから」
「は?そうなの?」
「そうだよ。でもゼノさんやシルバさんはあたしの本名も仕事名も知ってるからさ、CATでキルアに再会したときにあたしが婚約者だってバレちゃうかなと思ったの。でも年齢変えてたし、泣いてるときだったからRAINだとも言いたくなくて・・・仕事名のほうを名乗っちゃった」


そう考えると本当に、馬鹿みたいな理由で隠し事をしていたなあと思う。



「そしたらキルア、フツーに受け入れてたからああ婚約者がCATだって知らないんだって思って。でも本名は知ってるかもしれないから言えなくて。それにRAINは本来の姿にお面をつけてるだけだから、そこがイコールになるのも危ないなって思っちゃって黙ってたの」
「・・・なんでそんなまどろっこしいことしたんだよ」
「さっきも言ったじゃん。キルアといっしょにいたかったんだよ」
「ハァ???」



素直に白状すると、キルアは意味がわからないといった感じであたしを凝視した。うん、意味わかんないよね。わかる。あたしも意味わかんないよ、冷静になるとね。



「CATで泣いてたとき、またキルアに会えてびっくりするくらい嬉しかったの。だから・・・嘘をついてでも、隠し事をしてでも、ちょっとでも長くいっしょにいたかったの。もちろん悪いってわかってたけど」
「・・・」

「さすがにずっと黙ってはいられないから、今度ふたりで出かけるときに言おうと思ってたんだ。それを最後の思い出にしようって」


情けなく笑いながらそう言うとキルアが何故か不満そうな顔をした。どうしたの?と首を傾げるとキルアがポツリとこぼす。



「ンだよそれ。ずっと一緒にいる気ねえじゃん」
「え、だって・・・本当のこと言ったら、嫌いになるでしょ?」
「ハアー!?!?!?なるわけねえだろバカかよお前はよォ!!!」
「ばっ・・・」


バカって。
またもやすごい圧で詰められてあたしは口ごもる。キルアはもう一度あたしの方をがっしと掴んで畳み掛けてきた。



「オレがお前に感謝こそしろ嫌いになんかなるわけねえだろ!」
「えっ・・・」

「ったくバカバカしい。お前がオレの家と繋がってるから嫌々オレといるだけなのかってめちゃくちゃ悩んでたんだぞ、悩んだ時間返せ」
「え、ご、ごめん・・・?」
「許さん」


そう言ってキルアはおもむろに立ち上がった。

な、なんなんだキルア、さっきから行動が読めなさすぎてわけがわからないぞ???思春期か???



「罰として、これからオレとお前の間に隠し事は禁止な!あと異世界についてもオレがよく理解できるまで説明してくれ、飯でも食いながら。腹減った!」
「お、おう。キミは勢いがすごいな」
「あと!」

釣られて立ち上がるとキルアが向き直る。真正面に向かい合って、キルアは言葉を続けた。



「本当の姿見せて。ずっとそれでいて。もう大人ぶるの禁止」

またもやずいっと顔を寄せられて人差し指を立てながら忠告するように話されてあたしは口をパクパクする。
じゅ、11歳に大人ぶるの禁止とか言われてしまった・・・。

しかしあたしの年齢はちょっとややこしく、実年齢とこっちでの年齢はまた違うのだ。


「え、ええと、あたし若返りトリップというものをしておりまして、この世界では14歳なんだけど元の世界ではもうちょっと年上で、どっちがいいのか」
「どっちの方が楽なの?」
「えー・・・一応14歳でいるのがいちばん肉体的にはラクかな」
「じゃあそれでいいから見せて」


いまのベースが14歳なので元の世界での本来の姿になったりCATの姿になるのは念を使用するからけっこう疲れるのだ。だからキルアと出会ってからずっとCATでいるのはわりと大変だった。
まあそれよりも隠し事がバレるのが嫌で頑張っていたわけだけど。

じゃあ、14歳に戻るか。そう思い目を閉じようとしたときだった。


「あ、待って!やっぱ元の世界?のやつも見せてほしい。それがお前的には本当の姿なんだろ?」

遮られてあたしは目を開く。

え、えー。キルアくん、注文が多いな、いや仕方ないんだけど・・・。


「も、元の世界の姿・・・こっちに来てから誰にも見せたことないから照れるんだけど」
「えっそうなの?じゃあなおのこと見せてよ」


あ、しまった逆効果だった。
そう思ったがもうキルアは目を輝かせてしまっているのでどうしようもない。

・・・元の世界のあたしは、いまのCATと14歳のあたしのちょうど中間くらいに位置する。なんというか、子供の自分と大人の自分は両方作り物みたいな感覚があったので別にいいんだけど、本当の姿を見せるのはなんだか少し気恥しかった。


「じゃ、じゃあ・・・ちょっとずつ巻き戻すほうが楽だから、とりあえず元の世界のあたしから・・・」
「おう」


そう言ってあたしは目を閉じる。ぽうっと光に包まれて、次に目を開いたときはキルアとの目線の位置が今までより少しだけ近づいていた。



「・・・はじめまして。サナちゃんです、よろしく」
「お、おう。よろしく、サナ」
「・・・」
「・・・」

何故かキルアも少し顔を赤くして見つめ合う。な、なんだろうこれ、新しい羞恥プレイかな?謎に生まれた沈黙になんだか全身がムズムズする。

「えっと、では、いちばんラクなこっちの世界の通常時まで戻ります」
「おう」

そしてあたしはまた目を閉じる。同じ光に包まれて、次に目を開いたときには今度はほとんど完全にキルアと目線が合っていた。



「(うわ、これなんかめっちゃ緊張する)」



今まであたしはキルアのお姉さんみたいな感じで彼に接していたけれど、これからはどうしたらいいのだろうか。
いくら精神的に年下とは言えど、視線すらも同じ位置にある男の子を異性としてまったく意識しないのって、ちょっと難しい。体が縮むと心まで幼くなってしまうのかな。

そう考えると少し困ったけれど、それでももう彼に嘘をつかないでいいという安心感はなにものにも変え難く、もっと早くに言っていたらよかったなあとあたしは少し後悔するのであった。



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