「ウーンたしかにそれはキモいな」
「でしょ?!キモいよね!?!?!?!?」
「おう。自分とは違う自分がどっかにいて、そいつと勘違いされ続けるとか、考えただけでめっちゃキモい」
「だよね・・・・・!!!!!」
ファミレス、クリームソーダ、ハンバーグとライスとスープのセットにピザ、パスタ、ポテト、サラダ。目の前にはキルア。
あたしはいつも通り大量のごはんを摂取しながら(しかもキルアもめちゃめちゃ食べるからテーブルの上がえらいことになっている)元いた世界の話やこっちにきてからの話をしていた。
そしていまの話題は、あたしではないあたしを探している人物が多数いること、あたしも恐らくそのあたしを見たこと、そしてなんらかの記憶が流れ込んできたことについて、である。
「時空の管理人とかいうやつは、違う世界にも自分が存在する・・・みたいな、マンガとかでよくありそうなパラレルワールドの自分みたいな話とかはしてなかったの?」
「ぜんっぜんしてない」
「ふーむ」
キルアは一口ステーキを口に入れながら唸る。視線を斜め上にして、あたしが言ったことを咀嚼して考えてくれているようだ。
「しかしお前も大変だったんだな。トリップしたと思ったらドッペルゲンガー?みたいなやつのせいで余計に悩まされて。おつかれさん」
「き、きるあ・・・!」
突然降ってきた優しさにあたしは思わず胸を打たれる。好き、結婚しよ・・・!!!!!などとうっかり言いそうになるもそれはさすがにキルアがびっくりしちゃうだろうと無理やり抑え込んだ。おたくは語彙力がなさすぎてすぐに結婚してとか抱いてとか言っちゃうからよくない。
しかし隠し事をしていたのに、真実を打ち明けたらこんなにも親身になって話を聞いてくれるなんて本当にもうキルアには頭が上がらない。
これからも何かにつけてボーナスを渡しちゃおう、とあたしは心の中で誓う。
ほんとうに、この世界でキルアに出会えて、よかった。
第54話
胸のチャイムが鳴ってるわ
「しかしキモいキモいっつっててもなんにも変わんねェしな。お前としても、そのドッペルゲンガーを放っておくワケにはいかねーんだろ?」
「そりゃね、やっぱ気になるし。そもそも力を吸われちゃって弱体化してるのも困ってるし、そのせいで食費もかさんじゃってるし」
「え、その異常な食欲そのコのせいなの?」
「多少はね!!!!!」
「多少かよ」
この世界にきた時点であたしの食欲はかなり旺盛になっていたけれど、力を吸われてからというもの、今までの比ではない。実はランチに誘われたりしたときはその人に会う前に定食屋で二人分食べてから行ったりしている。実に涙ぐましい努力である。ちなみにランチのあとはだいたいまた何か食べる。
まあ大食いになるだけならそこまで困らないんだけど、ここ物騒な世界だから力は本当に返してほしい。ハンターになるくらいであれば当然楽勝だろうけど、それ以降が問題なのだ。正直キメラアント編あたりまで時間軸が進むとけっこう困るとおもうんだよな。暗黒大陸編とかもやばそう。あたし一応十二支ん入り(?)してるし。
そう考えるとなるべく早く『サナ』を見つけ出して力を返してもらわないといけない。悠長にしている時間はないのである。
「まあでもやっぱあれじゃねーの?その、ドッペルの方の自分を知ってる人ともっと話していくしかないんじゃね?
そうすることでなにかしらヒントを得て、ドッペルが行きそうな場所に気づいたりするかもしれないし」
「あーーーー。なるほど」
確かにそうだなあ、と思いながらあたしはスープを飲む。改めて、クロロに今度連絡してみるか・・・。
「とは言えあんまり幻影旅団と関わるのは賛成できねェけどな」
「だよねー」
情けない笑顔で相槌を打つとキルアは呆れ顔でため息をついた。言うかどうか悩んだのだけれど、どうせいずれバレるだろうからあたしのドッペルゲンガーを探しているのがクモだということは言っておいたのだ。もう隠し事しないって約束したしさ、一方的にされたんだけど。
まあそれでもあたしがこの世界のことを本で読んで知っているってのはさすがに言ってないけどね!
というのも、正直これが本当にあたしの知ってる世界とまったく一緒なのかと言われたら確信は持てないし、一緒だったとしてもバタフライエフェクトって言葉があるようにあたしの存在で何かが大きく変わっているかもしれないから。
いやまあ、あたしみたいな存在が増えたところでそんな変わることはないだろうとも思ったんだけどさ、でももう一人の『サナ』がクモやクラピカに与えている影響は小さくはなさそうだし。
あたしがそんなことを考えながらハンバーグを口に入れていると、黙ってこちらを見ていたキルアが口を開いた。
「・・・なんつーか、当然なんだろうけどこうやって喋ってるとマジでガキに見えるな、中身はいっしょなのに」
「え、そう?頼りない?」
「いやそういうわけじゃねーけど」
キルアはそうつぶやきながらズッと音を立ててもうずいぶん少なくなってしまったクリームソーダを飲む。あたしが首を傾げて言葉の続きを待っていると、キルアは少しいたずらっぽい顔をして言った。
「ま、年のわりに幼いなとはずっと思ってたけどな〜」
「ウッ」
そりゃ実際の年齢よりも年上に設定した見た目で会ってたからしょうがないんだけど、素直に言われてあたしは苦笑いするしかない。
それにしてもキルアはやっぱり年の割に聡くて、『サナ』と関係がないからこそフラットな意見をくれてありがたいな。
改めて、もっと早くに白状しておくべきだったなあと思う。
そうしたらきょうのライブだって、普通になんのやましさもなくキルアに届くように心を込めて歌うことができたのに。
そこでふと、キルアはきょう楽しんでくれたのか気になった。
「・・・あ、ねえそういえばさあ、今日のライブどうだった?」
「ん?よかったよ。あんまいい席じゃないのが残念だったけどな」
「どのへんだったの?」
「えーとな、二階の・・・」
そして教えられた席順はたしかにお世辞にもいい席とは言えなかった。モニターですら人の頭が邪魔で見きれなかっただろう。そう考えると少し申し訳ない気がする。
席順は運だし、そもそもキルアは転売されたものを買ってるからなんとも言えないんだけど。でも・・・とあたしは少し悩んだ後口を開いた。
「・・・あ、あのさ。明日のライブも、来る?よかったらその、関係者席で」
だけど二日連続同じライブに来させるのもちょっと悪いかな、という考えが頭によぎってドギマギしていると、キルアは少し目をパチクリした後輝かせた。
「え、いいの!?」
「う、うん。その、関係者席って言っても最前列とかではないからあれだけど」
「いいよ!行きたい行きたい!!!」
嬉しそうにそう言ってくれるキルアにホッとして、とても嬉しくなる。誘ってよかった、とあたしは顔を綻ばせた。
「じゃあどっか泊まるとこ探そうかな、帰ってまた来るのメンドイし。ただライブあるときってどこも混んでるんだよなー、テキトーにネカフェとかでもいいんだけど」
まあ一晩くらいならその辺で寝てもいいんだけどそれはお前に怒られそうだしなー。とキルアは笑いながらやけに饒舌に話す。たぶんライブに誘われてよっぽど嬉しいのだろう。勇気を出して声かけてよかった。
でもたしかにいまからホテルを探すのはけっこう大変だろうと考える。
そこでふと、あたしは自分の部屋がツインルームであることを思い出した。
「あ、じゃああたしの部屋泊まる?」
「は?」
「あたしの部屋。ツインだったでしょ?」
にっこり笑いながらそう言うと、キルアは何故か口ごもった。え、ええ?どうして?
・・・あ、もしかして何かされると心配になっている!?
「あ、大丈夫!なにもしないから!!!」
「ちげーよ!
いやそっちじゃなくて、その・・・まあいいか」
「?」
あたしが首を傾げると、キルアはやれやれといった感じでハァーとまた大きくため息をついた。
なんだ、いったいどうしたっていうんだ、キルアよ。
「なんでもねェよ。じゃ、お言葉に甘えて泊まらせてもらおっかな」
「うん、そうしたまえ!」
ツインルームもしっかり使われて浮かばれるだろう。そう言うとキルアは力が抜けたように笑うのだった。
うーんなんとも微妙な表情をしてくる。年頃の男子というのは難しいものだなあ。