タピオカ好きだけど並ぶのしんどいんだ

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「今日遅くなるんだっけ?」
「うん、お昼友達と会ったあと夜間警備だから!帰るの明日になるかもしれないから先に寝ててね」
「へーい。気をつけて行ってこいよ」
「ありがと、留守番任せた!」


そう言って笑顔で手を振るとキルアもゆるく腕を上げる。目線の位置が近くなったキルアはどうにもやっぱりかっこよく感じて慣れないのだけれど、それよりももう隠し事がないという状況が非常に清々しかった。
元気よく玄関を出て携帯で時計を確認する。まだ時間に余裕はあったので落ち着いて待ち合わせ場所へと歩を進めた。

今日はこれからクラピカと会う。特に何をするわけでもなく、普通にこのへんを観光がてらうろつく予定だ(あたしも仕事ばっかであんまこのへん知らないから案内はできない)。
携帯を見るたびにクロロにまだメールの一本も送れていないことが気になって胸がチクリとした。でも、これはもちろん言い訳になるとわかっているが、クラピカが近くにいるいまクモに連絡をする気になれなかったのだ。

一ヶ月ほどでクラピカは帰るはずだから、その後にしよう。どんどん先延ばしになってしまっていることに頭を痛めながらあたしは携帯をカバンに戻す。ジリジリと照りつける太陽が、地面に反射する光が眩しい。夏は毎年バテてしまうので苦手だった。けれどもこっちに来て体が丈夫になったからか、そもそも元いた世界ほど湿気がないからか案外元気にやれていた。

異世界にも馴染んだものである。


「(それでも女の子たちの流行というのはどこも変わらないんだなあ)」


タピオカミルクティを片手に楽しくおしゃべりする女子高生3人組とすれ違ってひとり心の中で笑った。こういう元の世界との共通点を見つけるたび、胸の奥の方が少しだけチクリと痛んだ。




第56話
似て非ならざるもの






待ち合わせ場所につくとクラピカがもうすでに立っていた。おーい、と声をかけると彼はこちらを向き笑顔をくれる。ズギュン!!!と撃ち抜かれそうな微笑みだ。ノックアウトされるかと思った、今日も本当に美人だな。


「ごめんねクラピカ、待たせちゃった?」
「いや、オレもいま来たところだ。にしても今日は暑いな」
「ね、なんか飲み物買おっか」

パタパタと手をうちわのようにして顔を扇ぎながら言うとクラピカがそういえば、と思い出したかのように言う。なあに?と聞くと彼はやたらと神妙な顔をしていた。


「先程からその、カエルの卵のようなものが大量に入った飲み物を口にしている若い女性をたくさん見かけるのだが、都会ではあれが流行っているのか?」
「カエルの卵!?」
「ほら、そこにもいる」

まるでヒソヒソ話をするかのように声を潜めたクラピカが、こっそりと指差した先には20代前半くらいの女の子がタピオカドリンクを飲んでいる姿がある。ああ、か、かえるの卵・・・まあよく似てるって言われるよね・・・!


「あれはカエルの卵じゃなくて、タピオカっていうの。たしかデンプンかなんかだった気がする」
「ほう・・・味はするのか?」
「味っていうか食感がもちもちしててあたしは好きだよ!せっかくだから飲んでみる?」
「ふむ。キミが好きだと言うのなら試してみよう」

そうしてクラピカとあたしは近くにあるタピオカドリンク店へと向かった。なんかあれだな、博識なクラピカでもこういうのは知らないってちょっと面白いな。
今日はクラピカにどんどん流行り物を与えてみようとそう心に誓うのであった。




















「おいしい」
「でしょー!!!!!」

クラピカが目の前でごくごくとタピオカドリンクを飲んでいる。か、かわいい。死ぬほど写メを撮りたい衝動に駆られながら、さすがにそんなことをしてはドン引きされるのではないかと思いあたしは心のシャッターを何万回も押した。


「本当に不思議だ、モチモチしている。しかしデンプンの塊ということはカロリーが高いのではないか?」
「うん、鬼高い。でも気にしてはいけない。」
「都会の流行り物は恐ろしいな」

クラピカがあんまりにもしみじみ言うものだからあたしはおかしくて笑ってしまった。ふとさっきまでいたタピオカ店に目線をやると、あたし達が並んでいたときの三倍くらいに列が伸びている。


「わ、めっちゃ混んできた。いい時に並んだね」
「オレ達も10分は並んだのにな。本当に流行っているんだな」
「うん、すごいよね。あっねえねえ、他にもなんか流行り物試さない?チーズハットグとか知ってる?」
「ち、ちーずはっ・・・?」
「チーズハットグ。食べよー!!!クラピカ嫌いなものなかったよね」
「あ、ああ」

思いついたら即行動!とクラピカの腕を引いて記憶の中にあるチーズハットグ店へと向かうと彼は慌てて足を動かした。ちょっと楽しい。実はこうやって街を友達とウロウロしたり、やってみたかったんだ。
あたしには友達がいない。強いて言うならメンチだけどメンチはこんなB級グルメ絶対付き合ってくれないし。ほかに思い当たる人を考えても、ウーン、カルトちゃんが乗ってくるとは思えないし、キルアはなんというか従業員だし、ほかの知り合い・・・?いた・・・?リッドさんもクレオも仕事忙しいだろうし、他・・・ヒソカ?却下・・・パリストン?もっと却下・・・。

そんなことを考えて少し悲しくなっていると、引きずられるようにしていたクラピカが突然大きな声を上げた。


「ま、待てサナ!見ろ!すごい、このポスター見る角度によって見た目が変わるぞ!!」
「え?!あ!ほんとだ!えっ?!(クラピカそんなことではしゃいじゃうの?!)」
「確かレンチキュラーというやつだな、本物を見るのは初めてだ」
「ヒェッやっぱ賢いのは賢いんだね!!!」


突然呼び止められて見せられたポスターはありきたりなディスプレイだったのでなんと純粋なんだと驚いたけれど、クラピカが嬉しそうにいろんな角度からそれを見ているのを眺めているととてもあたたかな気持ちになった。ただでもれんちきゅらー?とかいうものの原理について熱く語られたときはタピオカを一粒残さず吸うことに必死になるしかなかった。


そのあともチーズハットグを食べたり(ど、どうしてこのチーズはここまで伸びるんだ?こぼしてしまいそうになるぞ?)パンケーキを食べたり(こんなにふわふわなのになぜ腹にずっしり溜まるんだ、最近の若い女性はそんなにもカロリーを求めているのか?)してクラピカの反応を一通り楽しんだ後、空中庭園までやってきた。
こういうところは夜の方が人気なんだろうけど、あたしは快晴の日に空に近い場所に来るのがとても好きなので付き合ってもらう。

ただしきょうは非常に暑いので、庭園内をぐるりと散策した後は屋根の下にあるベンチに落ち着いた。




「都会にはこれほど高い建物があるんだな」
「ね、本当に高いよね!結構向こうの方まで見えて楽しい」

道中買った飲み物(あたしはフラペチーノ、クラピカはアイスコーヒー)を飲みながら2人できゃっきゃと話す。
会話に困るんじゃないかと思っていたけれどまったくそんなことはなかった。あたしがこっちに来てからの話、クラピカがいまお世話になっている老夫婦の話、ライブの感想を聞かせてもらって裏話を教えたり、他にも目に入ったものについて話しているうちにあっという間に数時間が経過していた。
あと一時間くらいで仕事に向かわないといけないのが億劫なくらい、楽しい。


そうしていると突然クラピカが右のほうを指差してあたしに示してきた。

「いまオレが住んでいる島はおそらくあれだな。さすがに点にしか見えないが」
「うーん・・・あれかな?」
「合っていると思うよ。まわりに何も無いだろう」
「うん」

目をこらすようにしているとクラピカが穏やかに微笑む。優しく上がる口角が美しくてうっかりまじまじと見てしまった。

「あのあたりでよければいくらでも案内するんだが、遠い割に何もないんでな。自然は豊かだが」
「ああ、でも自然がいっぱいなところっていいね!ここ最近はずっとシティにいるからちょっと恋しいよ」
「キミが望むならいくらでも案内しよう。夕日が綺麗に見える場所があるんだ、夜空も澄んでいて星がよく見える」
「へえ、それは行ってみたいな」
「・・・昔もそうやってよくお前を連れ回したな」
「!」


夕日に星、と聞いて高鳴っていた胸が違う音を立てる。クラピカを見ると目を伏せて微笑んでいて、その瞳はとても美しく儚い。いまにも消えてしまいそうだった。

あたしは今さら思い出す。
クラピカはあたしと一緒にいたいのではなくて、『サナ』といっしょにいたいんだということを。


「クルタ族は転々と住処を変えてきたが、当時は向こうの方に住んでいた」
「へえ・・・」


クラピカが指差す方角には何もない。それらしい島も、何も。きっともっとずっと遠くのほうにあるんだろう。こっちに来て何倍も良くなった視力でも見つけられないということは、そういうことだ。



「よかったら」
「?」

「今度一緒に行ってみないか?その、村自体は正直あまり見れたものではないのだが、近くに墓があってな。キミが来てくれれば喜ぶと・・・思ったんだが。
まあ、とは言えあの『サナ』とキミが違うというのは重々承知しているんだ。だから無理にとは言わない」

クラピカは一息にそう言う。やっぱりあたしと『サナ』を同一視してしまっているのだろう。彼はそれをいけないことだとは思っていて、また、そのことに気づかれては失礼だといったふうに精一杯誤魔化しているようだった。
あたしは眉を下げて笑う。クラピカがあたしと『サナ』を一緒くたにしてしまうのは仕方がないことだとわかっている。

ただ何故か、少し寂しく思うだけだ。



「うん、いいよ。行ってみたい」
「!本当か?」
「うん」

ゆっくりと頷くと彼の表情はパァアと明るくなった。よかった、と思う。


クラピカはあたしを通して『サナ』を見ている。
あたしはクラピカの記憶があるのに不自然にそれと切り離してクラピカを見ている。


ある意味それは同じようなものだと思った。あたしはなるべく笑顔を作る。



「いつ行くか、とか考えなきゃね。遠いならなおさら」
「ああ、そうだな」


そしてあたしとクラピカはスケジュールの相談をした。いまクラピカが住んでいる島からクルタの村までは船が出ているということだったから、今度一緒にクラピカが住んでいる島に行き案内をしてもらった後、彼と『サナ』の故郷へ行くことになった。




それは少し楽しみで、それ以上になんだか恐ろしいような気もした。




























「はあ・・・」


クラピカとのおでかけは楽しかった。とても楽しかった。

だけどなんだか自分がここにいてはいけないんじゃないか、みたいなことを考えてしまって少し苦しかった。


クルタの村に行ったときあたしはどう感じるんだろう。なにを考えるんだろう。
あたしとして何かを思うのか、『サナ』の記憶が何かを考えるのか。

まるで二重人格にでもなったようだ。あたしの方がいてはいけない存在のようだ、と重いため息を吐く。


そこでだめだだめだと頭をぶんぶん振った。実はもう今は仕事中、持ち場につき警備をしているのである。
しかしまあ暇だからこんなことを考えてしまっているんだけれども。せめて周りにだれかいたらいいのだが、あたしは一人で二階階段Bを受け持っている。正直そんなに目立たない場所だ。


今回のお仕事は主人が大事にしている絵画を誰かが盗みに来るというタレコミがあって発生している夜間警備だ。しかしそのタレコミだけではどんな人物が襲いに来るのかわからない。なのでとりあえずそれなりに腕の立つ護衛をテキトーに増やしたようだった。
この世界で少しずつ仕事をこなしているうちに、こういうのはだいたいネオンちゃんの占いに示されたものなんだと見分けがつくようになってきた。おそらく今回のこれもその口である。


(もう一回会いたいなあ、ネオンちゃん)


かわいくて素直で元気な、ステキな女の子だったなー・・・。




なんて、少し前に会った彼女に想いを馳せていたとき。




ズドドドドド!!!!!



「?!」




突然下の階と向こうの方から音がした。中央階段の付近だ。まさか正面突破してくるとは思わなかったので驚きつつ、あたしは臨戦態勢に入る。

さて、持ち場を離れるわけにもいかないけれども絵画を失うわけにもいかないしな。とりあえず分身でも出して向こうの方に行かせ、状況を探るか。


そう思いあらかじめ出していた杖を握る手に力を込めたとき。




「!」



自分の円の範疇に二名の侵入者。力が減ってしまってからというもの、円の範囲が小さくなりこの建物全体を覆うなどはできなくなったがそれでも階段B全体は縦長に伸ばして押さえている。
向こうの方でも音がしているのにどうしてこっちにも?そんなに大人数で来たのだろうか。頭の中で考えながら杖を構え直す。


「(!はやい、)」


円に触れてコンマ数秒。驚くほどの速さであたしの前に現れた人影に並みの使い手ではないことを知る。そしてキッとその敵を睨むと、そこには。




「ん?」
「えっ、」
「サナじゃねェか」
「なんでこんなところにいるね」
「いやそれこっちのセリフだわ」


フェイタンとフィンクスがいた。

あたしは目を瞬かせる。
・・・いやほんとそれ、こっちのセリフだわ(大事なことなので二回言いました)。



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